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アスタッテの尻拭い ~割と乗り気な悪役転生~  作者: 物太郎
第3章 エイヴィの翼 (後編)
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277、翼を取り戻す方法 8(王子様の裏技、木霊の条件)



「―――怪我と癒しの教会に行った理由について話終えたわけですが……どうします? お城へ向かえばいいでしょうか」とアルベラ。

 そう言ったも彼女は二人の馬が癒しの教会の前に繋がれていた事を思い出し、「ああ……癒しの教会へ行った方がいいですかね」と尋ね直した。

「いいや、ここでいいよ。馬なら連れが連れてきてくれてるはずだから」

 ラツィラスは窓にかけたカーテンを軽く捲り外を覗く。

(愚の討伐っていうのがどうなったか気になってたけど、それはまたいつかか……)

「連れってギャッジさんですか?」

「いいや。他の護衛」

「……護衛の皆さんには私がディオールであることはばれてますよね」

「そうだね、きっと。ちゃんと口止めしておくよ。ラーゼンの耳に届かないよう」

「厳重にお願いしますね」

「ふふ。分かったよ、大丈夫」



 馬車が止まりジーンが先に車から降りる。その後に続き片足を宙に出したラツィラスだが、思い出したように「あ、そうだ」と呟いた。かと思えば「―――やっぱなんでもない」と気まぐれに訂正する。

「……なにか?」

「いや、何でもないよ。じゃあまた。―――あ、今晩良ければご飯一緒にどう? 宿がきまったらその近くの居酒屋とかで」

(これは……泊まった宿は簡単に暴ける前程の発言ですか……)

「……い、いえ……お誘いは嬉しいのですが今晩はゆっくり休もうと思うので」

 心が揺らがなかったわけではない。だが休息は重要だ。王都に戻るまでほとんど寝ていたお陰が体調に全く問題は無いが、一度胸を抉られ血も足らなくなったのだ。気を付けておくに越したことはない。

(八郎の成果によっては明日の行動も変わるし、夕食は八郎と話し合う時間になるかもだしな)

「そっか。じゃあ君の靄がちゃんと消えてる事を願うよ。その傷跡も」

「ありがとうございます」

「うん。こちらこそ話してくれてありがとう。またね」

 ラツィラスがひらひらと手を振る。

「じゃあな。えっと、……脅すような事言って悪かった。何かあれば鳥を飛ばしてくれ。コイツ宛でも俺宛でも」とジーン。

「そうだね。何かあれば特別に僕の護衛(ジーン)の外出を許可するよ。それが無理そうでも他の人手を……希望があれば騎士団ごと送り出すよ」

「いえ……はい……もしもの事があれば……」

 流石に騎士団ごとは気が引ける、と思うもあのダークエルフの腕前を思い出し否定しきれず受け入れる。

「行くぞ」

 御者席からガルカが不愛想に言い放った。扉が閉まり切ってないうちに車が動きだし、「ちょっと」とアルベラは扉を閉じようと手を伸ばした。

「……お二人とも」

 遠のいていく二人へ彼女は言葉を投げかける。

「―――話、聞いてもらって結構スッキリしました。ええと、どちらかといえば感謝してます。そ、そういう事で、では」

 アルベラは扉を閉じ、「ふぅ」と息を吐く。

(ず、ずっと気にされてたらやりずらいし、こういう事は言っといても損はないでしょ……)

 こういった類の素直な気持ちを口に出すのは前世から苦手だった。そして前世よりも神経を図太く育ててきたつもりの今もこの部分は変わらない。なかなか変えることができない。

 アルベラは熱くなった顔を両手で包み呆れ顔で「もう……」と零す。



「素直じゃないよね」

 ラツィラスがくすくす笑う。

「アルベラのああいう所、僕結構好きだな」

 彼は同意を求めるようにジーンを見たが、ジーンは答えずまじまじと観察するような視線を返した。ラツィラスは無垢な子供のような表情で「なに?」と返す。

「……なんでもない」

 この友人があの婚約者候補の彼女を異性としてどう見てるのか。ジーンは口から出そうになった疑問を呑み込む。

 ラツィラスが周りのことをよく見ているのはいつもの事だ。だから自分の目を通した上で彼女に対して私見を持っていても不思議ではない。

 当然と手を取り治療を施す姿には照れも下心もなく、純粋に自分の実力を試すことと彼女の傷を消すことに専念しているように見えた。その様子からは異性として絶対に射止めたい相手―――として彼女を見ているようには思えない。なのにたまに見せる表情には深い愛情があるようにも感じる。そういう姿が、彼の真意は何処にあるのかとジーンをもやつかせた。

(なに考えてんだか)

 二人の関係がどうであろうと自分の生まれはそこらの平民で「ニセモノ」だ。自分の事をあまり卑下したくはないが、騎士と言う貴族号を持っているとはいえ一代限りのもので、公爵や伯爵と言う爵位とは異なり上の人間達の気まぐれにより簡単にはく奪されかねない代物だ。そんな家柄も何もない立場の人間が王族の結婚に気軽に口を挟むべきではない。自分は友人ではあれど社会的にあの二人とは対等ではないのだと、ジーンは常々自分に言い聞かせていた。

(あいつから相談されたならともかく……)

「あ、あれだね」

 と道の先を見ていたラツィラスが声を上げた。先から現れたのは一人の護衛だ。彼は二頭の馬を連れていた。

 ラツィラスとジーンが馬を受け取ると、商人風の装いをした彼は何事もなく適当な路地へと入っていき姿を眩ます。王子様の護衛業務へと戻ったのだ。

「もしかして、最後言い欠けた事が気になってる?」

 馬に跨るとラツィラスは思い出したように問いかけた。

「……ああ、」

 そういえばそんなのもあったと、ジーンはラツィラスの言葉に便乗して先ほどの自分の中途半端な言動を誤魔化した。

「ふふ、一つ裏技を思い出してね」

「裏技?」

「そう。聖女様の治癒について、外国人の治癒に証明書が要らない裏技」

「ああ、そういう事か」

 証明書は治療される側が聖女様や教会や国にとって無害だということを証明するものだ。それは教会に立ち入る際に力を発揮するものであり、聖女がふらりと外に出てその地で気まぐれに誰を治療しようとも聖女の奇跡を披露しようとも、それは聖女達の勝手なのだ。

「お前が頼めばヤグアクリーチェ様はどこにだってついてきて治療してくれそうだもんな」

「そうだと良いんだけど聖女様だってそんなにちょろくないよ」

「そうか?」

「そうだよ」

「けど聖女様に教会外での治療を頼む気なんだろ?」

「うん。でも命令じゃない、あくまでお願いね。『強制力のあるお願い』」

「命令と何が違うんだか」

「違うよ。これは聖女様のお詫びだから」

「は?」

「聖女様、前に僕が気に入ってた玩具を壊しちゃったことがあって」

「……?」

「その時彼女『お詫びに何でも一つお願い事聞く』って言ったんだ。僕、そのお願い取ってあるんだよ」

「玩具って、それいつの話だよ……」

「六歳の時だったかな。魔力を流し込んで遊ぶ砂時計みたいな綺麗な玩具なんだけど」

「あれか。けど六歳って……ほとんど十年経ってるじゃんか」

 そんな子共騙しに発したような詫びの言葉、効力どころか相手の記憶にさえ残っているのか疑問だ。

「大丈夫、ああ見えて聖女様はマメだから。約束はどれだけたとうと守ってくれるよ」

「ふーん……そうか?」

「そうだよ」

「何で言わなかったんだ?」

「保険かな。アルベラに言っていざ予想外の理由で断られたら、きっと彼女残念に思うでしょ。期待してた手が実は使えませんでした〜、なんて。それはちょと可哀想だし」

「そっか。なるほどな」



 二人は会話が途切れたりまた別の話題にとなったりしながら城への道を行く。気になった店を覗いて足を止めたりとする中で、ラツィラスはふと「そういえば。アルベラ、聖女様は仲良くなれただろうか」と聞き逃した事を思い出す。

 馬車で聞いたのは要件のみだ。詳しいやりとりや会話の内容については触れていない。

(……まあ、あの二人なら大丈夫か。お互いうまく立ち居振る舞ってそうだし)

 まさかアルベラも聖女も互いに印象最悪などと、彼は思ってもみないのだった。



 ***



 適当に選んだ手ごろな宿。アルベラは八郎に場所を知らせると部屋についたシャワー室で汗を流した。

 ガルカの部屋は隣にとっており、八郎には宿についたらそちらに行くようにと伝えていた。

「はぁ~……お風呂最高〜……」

 髪をタオルで拭きながらアルベラは満たされたように呟く。

 湯あみをしない日など今世全くなかった。前世でだってない筈だ。アルベラは三日ぶりに体が洗え清々しい気持ちだった。

(このまま何も考えず家に帰れたらどれだけ良いことか。靄と傷消して、一緒にでた皆と合流しないと……。はぁ……、休みが明けるまでに終わらせなきゃ。―――八郎は……来てるのか。―――嘘、捕まえたの!? さすが八郎!)

 八郎とのスクロールを確認し、到着の連絡を見てアルベラはさっさと乾燥の印を描く。

(ここの曲線を太くし過ぎると火の精霊を呼びすぎて焦げるから……よし―――)

 印へ魔力を流し魔術を展開する。



「八郎!」

「アルベラ氏おつでござる! おっつ! おっつおっつ!」

 八郎は部屋中央のテーブル席に座り、機嫌良くアルベラを迎え入れる。

「凄いわね、もう木霊を捕まえたなんて」

「これしき拙者の腕にかかれば容易いこと! ……と、言いたいところでござるが、実はあちらから出て来てくれたんでござるよ。コレ、多分使いでござるな。本人はどこか遠くからこれを操ってると思うでござる」

 と、八郎がテーブルの上に乗せていた鳥籠から布を下ろす。

「その布は?」

「特に意味はないでござる。アルベラ氏にジャーンって感じに見せようと思ってたでござるが不発にて」

「スクロールで捕まえた事言っちゃったところから失敗でしょ」

「喜びのまま、つい」

 アルベラはテーブルの上を覗き込む。鳥籠の中木霊がちょこんと座っている。まるで人形やぬいぐるみだが、それはかさりと纏った葉を揺らしアルベラを見上げた。その体は一般的に知られる木霊と違い黒くくすんでいる。

「ヨウ、やっと来たナ」

「あなた、もしかして誕生日にラヴィに付いていたやつ?」

「オウ、あとお前が寝込んでる時にモ挨拶に行ったが忘れたカ?」

「寝込んでる時……ああ、確かにそんな幻覚を見たきも……私の上に乗って何か言ってたやつ?」

「あー、ありゃあただ意識あんのカ正常なのカ確認してただけダ。ボイの糞野郎の瘴気全部吸っテ、どうなってんのか気になったからナ」

「ふーん……、で、どうなの? あなた達この状態についてはよくご存じなんでしょう? 知ってる事をぜひお聞かせ願いたいんだけど」

 アルベラは八郎の向かいの椅子を引き腰掛ける。

 木霊は「やっぱカ」とくつくつ笑った。

「ずっとそのままで変だと思ったんダ。お前、その靄の事知らねぇナ。ドガァ・マ・ンラが二人揃ってるってのにそんなことも分からないとハ。これだからヌーダってつくづく鈍感だよナ!」

 木霊はアルベラを小馬鹿にするようにクツクツけたけた笑い転げる。

「そういう自分だってヌーダのお仲間とつるんでる癖に」とアルベラは指先で籠を弾く。竹のような素材の籠はカツンと軽い音を上げた。

「オ? お前もしかしてダタの事覚えてんのカ?」

「は? ダタ?」

「なーんダ。やっぱヌーダは鈍感だナ」

 「ヌーダは愚鈍、ヌーダは鈍感。はいはいはいはい……」とアルベラはうんざりと目を据わらせぱしぱしと籠を弾く。

 アルベラの誕生日に彼女が体験したことを聞いている八郎は「例のラヴィ殿の犯人はこいつでござったか」と納得していた。

「して『ドガァ・マ・ンラ』と『ドグマラ』は同義であってるでござる? やはり拙者達もドグマラでござるか?」

「ンー? はぁ、そこからかヨ」

 「どうすっかナー」と腕を組みアルベラと八郎を見上げる木霊。彼は葉をわさわさと震えさせると、「ン? そうカ。まあ別にいいけド」と独り言をこぼす。

「ねえ、私あなたにダークエルフの姉の居場所やそこに仲間がいるかとか聞きたいの。てか靄の消し方知ってるならそれもさっさと教えて欲しいんだけど」

 木霊は片手を額にあて、アルベラに向け「あー、はいはい。急くなっテ」と片手を振る。

 腕を組み黙ってしまう彼を前に、アルベラと八郎は目を合わす。

 黙った木霊を黙って見下ろす二人。それをベッドの上横になって眺めるガルカは、暇そうに大きな欠伸をかいた。



「ヨシ! 交換条件ダ!」

 籠の中、木霊が急にぴょんと跳ねる。

「玉を持って来イ!」

「玉?」

「あの緑のおっかない玉ダ。お前持ってんだロ」

「ええ。それを寄越せって?」

 アルベラは意見を求め八郎を見る。八郎が答えようと口を開きかけた時、木霊が「ちげーヨ」と声を上げた。

「くれるなら貰うガ、俺が言ってるのはレンタルダ。玉を使いたイ」

「どうやって?」

「それは直接話して聞ケ」

「は?」

「あと俺は二十一番、エリオルニエの瓶ダ」

「『俺は』って、玉は別の人の希望?」

「あア。それはお前らが玉を準備したらナ。そいつの希望が叶い次第そいつがその瘴気について答えてやル。どうダ?」

 アルベラはチラリと八郎を見る。

(どうせ玉を使えるのは私か八郎だけだし、八郎がいれば大抵の相手は怖くないし……)

 アルベラの視線に答え、八郎はこくりと頷いた。ならば決まりだ。

「いいわ。とりあえず玉を使いたいって人の話を聞いてからまた考えさせてもらうかもだけど、それでもいいなら」

「オウ、わかっタ! ―――そいつもそれでいいってヨ! んじゃあ先ずは玉だナ、玉持ってこイ!」

 木霊はころりと横になり、まるで殿様か何かのように尊大な仕草で片手を払った。



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