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アスタッテの尻拭い ~割と乗り気な悪役転生~  作者: 物太郎
第3章 エイヴィの翼 (後編)
256/407

256、エイヴィの里 2(エイヴィと彼女の匂い 1/2)



 まだ大した民家も見えない道を辿りながら、ピリは先頭を歩きツンとそっぽを向いていた。

「ピリ、もうアルベラに抱き着かない」

 先ほど果たした再開はピリの心に大きなトラウマを植え付けていた。種族が異なる故の分かり辛い表情も、彼女が今ご立腹であることは誰の目からも分かった。

「ごめんね、ピリ。もうしないから……証明として仲直りのハグをしましょう」

「いや」

 後から追ってきて隣に並んだアルベラの提案を、ピリはばさりと拒否し反対側へと顔を向ける。アルベラは拒否されたにも関わらず、すねるピリの姿が可愛らしく見え笑いを噛み殺していた。

「ふ、ふふ……ごめん……本当にもうしないから」

「アルベラニヤニヤしてる。信じない」

「なあピリ坊、」

 アンナがアルベラとピリの横に並び、二人の前にひょこりと顔を覗かす。

 「ピリ女……」と言いかけ、ピリはじっとアンナを見上げた。彼女は首を傾げ真ん丸な目を瞬きもさせずに尋ねる。

「ティーチ?」

「『アンナ』だよ。さっき自己紹介したばっかだってのに、もう忘れちまったのかい? ピリ坊」

「ピリ女だよ」とピリは真顔で返し、やはりアンナをじっと見て「ティーチ?」と首を傾げる。

「あぁーん……? 何だい、そのティーチって?」

 アンナは当然とすっとぼけた。

(この人本当に隠す気あるの?)

 と、頑なに「ピリ坊」と呼ぶアンナにアルベラは呆れていた。

 ピリはアンナの問いに首を真っすぐに正すと、真っ直ぐでいかにも無垢な瞳で答える。

「ティーチは、えぇとね……、ヌーダの()()()()()()な女の人」

 そこに一切の嘘偽りは感じられなかった。

 アンナは笑顔で固まる。そして「ぶふっ」と吹き出し笑いながら尋ねた。

「そのティーチって女はそんなに美人なのかい?」

「うん! すっごい美人! 絶世の美女。ピリが今まであったことのある人で一番綺麗」

「そりゃあ凄い。私もぜひ会ってみたいもんだ。―――可愛い小鳥ちゃんだね。ほれ、はじめましての挨拶だよ。うけとんな」

 アンナが穴の開いてない銀貨(一万リング)をピリへと差し出した。

 「金か……」と呆れるアルベラの目の前、ピリはキラキラと輝く他国の銀貨を遠慮なく受け取った。

 そう言えば彼女はキラキラとした光物が好きだったなとアルベラは思い出す。

「わぁ! 有難う()()()!」

 そこでしっかりと「アンナ」呼びとなり、アンナは満足げに笑んだ。

「ちゃんとお礼が言えて偉いぞぉ、ピリ坊!」

「ピリ女だってば」

 そんな軽いやり取りを交わしながら幾つかの分かれ道を行き、一行はピリの案内の元里の中心部へとたどり着いた。そして一先ずはピリの両親が準備しておいてくれたという宿へ足を運び荷物を置き、それからピリの家へと案内された。



 ―――後でこの「ティーチがとんでもなく美人」という件をアルベラがピリへ尋ねた所、どうやら種族的な物の見え方という事らしく、基本女性がモノトーンのエイヴィは、派手な色の体色を持つ者(女)は問答無用で美人と定義付けされるらしかった。

 アルベラの「ピリはアンナの姉さんとティーチの姉さん、どっちの方が美人だと思う?」という問いに、「ティーチ」という即答が返った。

 なぜかと尋ねればピリは短く「カラフル」と返しアルベラは「ん?」と予想外の返答に内心困惑した。

「キラキラチカチカで美人。もしティーチがエイヴィだったらモテモテ」

(なるほど……。鮮やかな赤紫髪にベージュメッシュ、褐色、金目、その他チャラチャラした装飾品に人工感満載の蛍光色な服……。なるほど……)

 この里の者達の服も色んな色が使われてはいるが、どれも天然な色味でティーチが普段纏っているような目に刺さるような色味は無かった。

 エイヴィの美人の定義について、特に話す機会が無ければ自分からアンナへ話題にするのは辞めておこうとアルベラは思ったのだった。



 ***



 エイヴィ達の家の殆どは、背が高く太い木々の幹に寄り添うように建てられていた。木の上部、枝の上に構えられた家々は、太い枝を足場に互いの家を行き来しているようで、道が足らなければ橋を架けて木と木を繋いでいる。

 そういう基本の形の他にも、大きな木の根の隙間に扉を構え地中が住居となっているような物や、真ん丸な輪郭の家を大きな枝から木の実のように吊り下げられているものもあった。

 全てではないが、地上にない家は周囲に足場が組まれており翼を使わなくもと行き来できる作りとなっている。

 「森との共存感が凄いな」というのは、里の光景を目にしたアルベラの第一の感想だ。

 ヌーダの人里と同じ畑もあるがエイヴィの里では木の上での農業も盛んらしい。アルベラ達がピリの家へ向かい里を歩いている最中も、木の上で明らかに畑らしきものを作っていたり、木の実や木の幹に生えた何かを世話している人々の姿があった。

 木の上さえも畑にしてしまうエイヴィ達の生活への物珍しさに、アルベラは辺りをじっくり見たいのを我慢し大人しくピリの後に続く。

 そうして里の中ほどで、身を捩じらせながら伸びた一本の立派な木の前へと案内された。

 「あれだよ、」と言ってピリが木の上の家を指さす。彼女は翼を広げ木の太い枝の上に建てられた家の前、板張りの通路に降り立つ。

「ここ」

 冒険者たちは当然と地上からピリの居る足場へぴょんと跳ぶ。ガルカも翼を広げピリの家の近くの枝に腰を下ろした。

 アルベラも風を使って跳ね、彼等と合流する。ふとアルベラは自分が意識せずに魔法を動作の補助として扱っている事に気付き、「この旅で随分鍛えられたんだなぁ」と実感した。



「本当にウチの子がお世話になりました」

「ありがとうございます。まさか公爵のお嬢様に助けてもらい、お世話になったうえ送り届けてまで頂いて」

 ピリの母と父が順番にそう言い深く頭を下げた。ピリちちの隣にいるご老人はピリの祖母だそうだ。彼女はチラリとアルベラに視線を向けたのみで、後はずっと目を開いているのかどうか分からない角度で俯き、たまに茶を口に運んでいた。

 ピリをただ頭一つ分大きくしただけに見えるほど彼女にそっくりな母(ピリもその母親も鶉を連想させる顔立ちや模様や色味をしている)に、アルベラが前世でも良く目にしたヒヨドリっぽさのある父。(ヒヨドリぽいと言っても風切り羽は鮮やかで光沢のある青や緑色をしていたし、頭の後ろには鮮やかな黄色の冠羽がもあった)そしてヒヨドリとフクロウを足して割ったような特徴を持つ祖母。

 ピリの家族は現在この四人家族だそうだ。

 アルベラは彼等との挨拶を済ませ、夕食についての説明を受け、里の案内を受けるべく先導するピリの後に続く。

 全員でお宅に訪問は大変だろうと、室内に上がり込んでいたのはアルベラとエリーとガイアンの三人のみだった。他のメンバーは挨拶が終わるまで扉の前で待ってもらっており、皆家の前に渡された隣の木とを繋ぐ空中通路に座り込んでピリははが気を使い置いておいてくれたお茶とお菓子を頬張っていた。

 「行ってくる!」と元気にピリがそう言うと、彼女の両親から「いってらっしゃい」と和やかに返された。

 アルベラ達は彼等へ一礼し、「お邪魔しました」「また後で」等口にして家を出ていく。

 家の外に出ると、出てすぐの場所から見える部屋の窓があった。ピリはその窓を指さし、「あれ、ピリのお兄ちゃんの部屋」と言う。

「お兄ちゃん、一番近い町に働きに行ってるの。だから部屋空いてる。アルベラそこ使えばいいのに」

 今は換気で窓を開けているのだろう。その部屋の中がちらりと見え、言われてみれば確かに男の子の部屋という感じの遊び道具が置かれていたり、ポスターのような大きな絵が壁に張られたりとしていた。

「あら、確かに私とエリー位ならお邪魔に馴れそうね。けど護衛から離れるなってお父様から強く言われてるの。折角なのにごめんなさい。―――そういえばお兄さんは何して働いてるの?」

「配達屋さん」

「へぇ。空飛ぶ配達屋さん?」

「うん。エイヴィ、人運んだり荷物運んだりで稼ぐ人多い。体丈夫ならいい稼ぎ口」

「人も運んでくれるのね。楽しそう。そういうの里にもある? 折角だし乗っておこうかしら」

「うん! 専用のベルト付けるだけ。じゃあ後でか明日、ピリがアルベラ運んであげる! ―――あ……、でもアルベラくすぐる。やっぱなし」

(随分引きずってる)

 ツンと顔を背けるピリにアルベラは苦笑し、「もうくすぐらないわよ」と彼女の頬毛を片手でわしゃわしゃと撫でた。ピリは真ん丸な表情の読めない瞳にアルベラを映し、「気持ちいい?」と尋ねる。アルベラが「ええ、とっても」と答えれば、彼女は首を傾げ「ふーん」とどこか満更でもなさそうに返し、頬毛を好きに撫でさせてくれるのだった。

 一行はこの日、夕食までの二時間弱は自由行動とし其々過ごした。

 アルベラはエリーと騎士二人と共にピリの案内の元、里の半分を回る事となった。



 孫娘の客人との挨拶を終え、リビングで茶を飲んでいたピリの祖母は「はぁ」とカップに向けため息を零した。

「あのお客人、あの匂いは良くないねぇ……。ピリの恩人とはいえ、里に入れるべきじゃない」と彼女は重々しく口を開く。

 実の母の言葉に、ピリの父親は表情を渋らせる。

「母さん、遠くからわざわざピリに会いにきてくれたんだ。そんな事言うべきじゃない」

「義母さん、あの方々は明日には帰られるそうですし……。皆さんとてもお行儀も良く感じの良い方々だったじゃないですか。そんなに気にしなくても……」とピリの母親も遠慮気味に、できるだけ柔らかく告げた。

 ピリの祖母は何も言わずズズっとお茶をすする。

 彼等はアルベラの匂いの事は事前にピリから聞いていたのだ。その上での歓迎だった。それを祖母である彼女も了承していた。だが……、やはり実際にあの匂いが傍にあると自然と不安に駆られてしまう。ついその不安を溢したくなってしまう……。

 一度は了承した手前、そして孫娘の恩人である彼等への感謝も感じているため、彼女はそれ以上匂いについては何も言わない。ただ、あの客人達が出来るだけ早くこの里を立ち去ってくれることを胸の内で願った。



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