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アスタッテの尻拭い ~割と乗り気な悪役転生~  作者: 物太郎
第3章 エイヴィの翼 (後編)
223/411

223、 初の前期休暇 4(騎士と冒険者の顔合わせ)



「皆さん、ご機嫌よう」

 キラキラと輝くようなお嬢様の挨拶に、いの一番に返ったのはナールの舌打ちだった。

「はっ。何がご機嫌ようだよ、さっぶいあいさ……ぐっ」

 ゴヤが無言でナールの頭を押さえ込む。無理矢理に頭を下げさせられたナールは大きな手の下で小さく震えており、僅かながらでも抵抗しているのは見てとれた。しかし彼が腕力でゴヤに敵うことはないらしい。ゴヤは手の下に押さえつけた青年の抵抗など一切無いかのように涼しい顔で自身も頭を下げた。

 そんな二人を隠すように、アルベラの目の前にビオとカスピが入り込む。

「旅にお供しない私までお招きいただきありがとうございます、アルベラ様」

「アルベラ様、こんな素敵なお持て成しをありがとうございます! 私とっても感激いたしました! 既に一生の思い出です!」

 悠々と振る舞うカスピはともかく、ビオは動揺が漏れ出ていた。

 アルベラはくすりと微笑む。

「まだパーティーは始まってませんし、是非そちらも楽しんだ上でいいおもいでにしていただけたらとおもいます」

 女性陣のやり取りを見守りながら、スナクスは頭を掻きナールに話しかけた。

「貴族に()()()()なお前がよくこの招待受けたな」

「俺は貰えるもんは貰う。けっ……どうせ『意地汚い庶民』だからな」

 自らを皮肉る彼の様に、「おめぇのそれ本当根深けぇな」とゴヤが心底呆れる。

「んな事より嬢ちゃん、なんか楽しそうな顔してんな。良い事あったか? 私にも分けなよ」

 体のラインが出た色っぽいドレスを纏ったアンナがアルベラの肩に腕を回す。女性的な体のラインが強調されつつも下品に見えないのは、胸元が布で覆われている事とそこに施された細く上品な刺繍のお陰だろう。

「身内ネタだから姉さんには面白くないわよ。それより皆とっても素敵ね。一人を除いてとても素敵。()()()()()()()()()()()を除いた皆さん、本当にとっても素敵よ」

「そこまで言ったらいっその事名指しにしたらどうだクソ餓……ぐんっ」

「おめぇ、もういい加減にしとけって。大人げねぇぞ。……ったく、こんなんでパーティーになんか出て大丈夫か」

 ゴヤが大仰なため息をついた。



 アルベラと共に部屋を訪れていたタイガーとガイアンは、扉の前に待機しアルベラと冒険者達を観察していた。

(あれが一緒に出掛けるっている冒険者か)

 ガイアンの青い瞳が全員の顔へと順々に向けられる。フードを被った年齢不詳の人物で目が留まり、その人物の横に見えたドレスの傘を辿って視線を上げると、共にいた金髪の女性と目が合った。

 ピンクがかった金髪にピンクとこげ茶の瞳の女性―――カスピは、ゆるりと微笑んで頭を下げた。

 ガイアンは一拍遅れて頭を下げ返す。

「―――見惚れたか?」

 隣から低い声が揶揄いのトーンで投げかけられた。

「ああ。素敵な人だな」

 ガイアンは淡々と返し、タイガーが調子に乗るのを抑える。

 この同僚が簡単には転がされてくれないのを承知のタイガーは、気にせず部屋の中の人物たちへ視線を戻した。その中で楽しそうに笑うラベンダー色の髪の彼女で目を止め、改めて今月の主となるその人物を値踏みするように眺める。

「お前、お嬢様の腕の程はどう思った?」

 ガイアンの青い瞳もその少女へと注がれる。

 今日の軽い腕試しの事を思い出しながら、彼は「そうだな……」と呟いた。

「お前はどう思った」

 問い返すガイアンに、「なんだよビビりだな。俺が先に聞いたんだ。正直に言ってみろ」というタイガーの返しが来る。

 ガイアン息をつき答えた。

「……普通だ」

「だよなぁ」

 タイガーのその言葉には残念そうな気持が現れていた。本人に聞こえていたら傷つけてしまうかも、という気遣いからか、声音は隣に待機するガイアンでも聞き逃してしまいそうなくらい小さく抑えられていた。

 「普通だった……」とタイガーは改めて呟き、「そうだな」と素っ気ないガイアンの相槌が返る。

 普通とはいうも、二人が今朝見たアルベラの実力は、「あの年のご令嬢の平均よりは良い方」という認識ではあるのだ。だが、それ以上に彼らの中で「ブルガリー伯爵の孫」というレッテルは期待を膨らませるに十分だった。

「もう少し伯爵の血を見れるかと思ったんだが…………見習いの昇格試験合格レベルはちと期待しすぎたか」

「お前……それは流石に期待しすぎだろう」

「わかってるよ。けどベルルッティの坊ちゃん、お嬢様と同じ年だろ。あれを知っちまってるからなぁ」

「あの方はあの方だ。家の方針も全く違うだろ」

「わかってる、分かってるって。伯爵からも『性根を鍛え直してやれ』って言われてきたしな。戦士を育てろって言われてきたんじゃないのは分かってたつもりなんだ。……今日見て育てがいがあるのも分かったしな。限られた期間だ。やれるだけの事やってやるよ」

「気をつけろよ。無理じいしたら逃げられるって念を押されてきたの忘れるな」

「はいはい。そこは気を付けるよ。けどお前もな。稽古してると口調がきつくなんの忘れんな? 俺より先にお嬢様に嫌われちまうぞ」

「分かってるさ。気を付けるよ」

 静かに返すガイアンに、タイガーは彼の訓練風景を思い浮かべて目を細める。

(本当に大丈夫か……?)



 アルベラは冒険者達との話を一旦切り、扉前に立つ騎士達を呼んで皆に紹介した。

「こちら、今回の旅の護衛と、その間私の体術や魔法を特訓してくださる騎士のお二人です」

「アレック・ガイアンと申します。北のブルガリー領から参りました。よろしくお願いいたします」

「ジヴァジ・タイガーと申します。同じくブルガリー領から参りました。よろしくお願いいたします」

 胸に片手をあてて頭を下げる二人に、アンナが「はいは~い! 歳は幾つですかー! 既婚ですかー! 彼女や愛人は何人いらっしゃいますかー!」と陽気にずけずけと失礼な質問をする。

 騎士達は突然のアンナの距離感に面くらい、場はしんと静まりかえってしまった。

 タイガーはワンテンポ遅れて苦笑を浮かべ、ガイアンは苦手なタイプなのか、固い表情と冷たい瞳をアンナへ向けていた。

 二人の騎士の反応に、冒険者たちの間に息苦しい空気が満ちる。

(あぁ……)

 とカスピが片手を額に当てる。

(出だしからからやりやがったな、姐さん)

 と、スナクスもカスピと同じような反応をしていた。

『もう! 質問の前にこちらも自己紹介でしょ!? ていうか初対面の貴族には敬語使ってっていつも言ってるじゃない!! 頼むからお願いだから礼儀正しくして! 本当お願いだから……!』

 ビオは恥ずかしそうに小声で訴えかけていた。 アンナの腕をぐいぐいと引くその表情は半泣きの少し手前だ。

「すみません騎士様。こいつぁ、多分あんたらに剣を抜かせたいんです。遠慮なく切り捨ててやって下さい」

 ゴヤはぺこぺこと頭を下げる。

(うわぁ……知り合いと思われたくねぇ)

 とナールは部屋の端で気配を消していた。

(うっわぁ………………。ん……?)

 その全体図を眺め目を据わらせていたアルベラ。

 彼女は、アンナがこの場を更にどう荒らすのだろうかと傍観の姿勢でいたのだが、ミミロウにドレスを引かれ視線を落とした。

 肌の一切が見えない豪華なローブ。金糸や宝石の装飾があしらわれたフードの奥から熱い視線を感じる。

 多分「この空気をなんとかして」とかそういう思いが向けられているのだろう。

「……」

「……」

 アルベラは無言のにらめっこに根負けし息をついた。

(はいはい……そうね)

 この場で一番偉いのは自分なのだから、恐れる事は何もない。

 ―――ぱん、ぱん。とアルベラは手を叩いた。

 皆の視線が彼女へと集まり、アルベラはにこりとほほ笑む。

「皆さん早速仲良くなられたようで嬉しい限りです」

 場の一切を無視した台詞。タイガーとガイアンは、このお嬢様の中に彼女の母やその母の兄の遺伝子を確かに感じた。



 ***



 自己紹介を済ませ、パーティーまでの余った時間を同じ部屋で過ごし。

 アルベラは冒険者たちと二人の騎士を連れて誕生日パーティーの会場へ移った。

 今年の誕生日は例年とは異なり大広間で盛大に行われる。

 ディオール夫妻は、去年までの娘の誕生日パーティーは招待客を選り好みし、貴族の平均的な誕生日パーティーと比べても、かなりこじんまりとした規模の会で済ませていたのだ。

 その事はアルベラも、今まで参加してきた他の貴族が開催するパーティーを見て良く分かっていた。

(パーティー会場での暗殺。贈り物に仕込みを入れての暗殺……過去にパーティーの主役が人前で堂々と殺されたってパターンもあるし、お父様もお母様もそういうことに警戒してるのは十分にわかるんだけど。……本当極端だなぁ)

 今までこの大広間を使用したところを見た事のなかったアルベラは、去年までとの規模の差に目を据わらせた。

 金銀、クリスタルに宝石、魔法石、「クワイ」と呼ばれる魔力片の拳より大きなサイズの物を示す魔力の結晶等。又は季節で無い花や珍しい動物の牙や角の装飾品、等々がそこかしこに散りばめられた豪勢としか言いようのない空間。

(我が家にこんなに目に痛い品があったとは……やるならとことんってか)

 彼女は会場内の我が父と母の姿を捉え、その目を更に細めさせる。

 アルベラが見ているのは父でも母でも、今日一日父に連れ回されているガルカでもない。父と現在進行形で言葉を交わしている執事服の男性だ。

 執事服を着ているのだから、きっとこの屋敷の―――「我が家」の執事なのだろう。四〇代後半であろうその人物を、アルベラは今初めて目にした。

(お父様に……我が家に執事がいるなんて珍しい。前の人が失踪して二年は経つよな。その間屋敷の事はお母様がリリネリこき使って色々と回してるみたいだったけど、ちゃんと次の人見つけてたんだ。執事って普通こんなにコロコロ変わらないだろうに……)

 前の執事もアルベラは大した関りは無かった。アルベラの身の回りの事は全てエリーが中心になり支えていたからだ。エリーがアルベラ専属の執事と言ってもいいだろう。

 では、屋敷の執事はと言えば、アルベラにはエリーがいるのでラーゼンとレミリアスの元を行き来することが多かった。レミリアスはレミリアスでリリネリを呼ぶ事の方が多いので、となると殆どラーゼンとの関りの方が多くなる。

 アルベラと顔を合わせる事と言えば、食事の時や偶然廊下ですれ違った時くらいだったのだ。

 アルベラは顔と名前もおぼろげになっていた以前の執事の事を考え、その彼のご武運を祈った。

(前の前の人は、理由はちゃんと教えてもらえずで『亡くなった』とだけしか知らされなかったもんな。ラッセルゴ(前の前の執事)、結構いい人だったのに……。当時はわけわからなかったけど、今だと『拉致されて殺された』か『我が家への刺客か何かだったから、やらかして捕まった』かで予想がつくのがなんだかな……)

 ため息をつき、アルベラは小さく首を振る。

(止め止め。パーティー楽しも)



「うわぁぁぁ……!」

 アルベラに連れられ会場を訪れたビオが、抑えきれずに感動の声を零す。瞳を輝かせ、彼女は豪勢な広間をきょろきょろと見回した。会場を見て、自身のドレスに視線を落とし、彼女は「ほう……」と悩まし気なため息を零した。

「どうしよう……私お姫様かも……」

「『お姫様になった気分』じゃなくて『そのもの』か」

 ゴヤが呆れて呟く。

 会場には既に招待客たちが訪れ始めていた。

 煌びやかな衣装に身を包んだ貴族や金持ちと並んでも問題ないくらいに、冒険者たちの装いは完璧だった。

 むしろ衣装の質で言えば、冒険者たちの方がそこらの男爵や騎士達より上の爵位に見えるくらいだ。

(ドレスなら予備で何着か持ってたけど、アルベラ様にお願いして正解だったわね)

 カスピは質のいいレースに包まれた手を胸に当て安堵する。

(会場に着いたら公爵様を紹介するって伺ってたけど……)

 カスピがアルベラに視線を向けると、彼女は悶々と何かを考えこんでいるようだった。視線の先には彼女の両親と執事と、前に顔を合わせた魔族の姿がある。

(私達をどう紹介しようか考えてるのかしら?)

「あの」

「……?」

 声をかけられ、カスピはその人物の方を振り返る。

 つい先ほど紹介されたばかりの騎士、ガイアンがグラスを持って立っていた。

 カスピは慣れたようにドレスを摘まんで頭を下げる。所属するパーティーでも、仲良くしている貴族との付き合いでこういった社交の場に招かれる事が毎年何度かあるのだ。

 「気楽にお願いします」とガイアンが表情を崩す。彼はカスピを前に、なんと呼べばいいのか考え頬を掻いた。

「先ほどの紹介ではファストネームしかお聞きしてませんでしたね。ファミリーネームはお聞きしても?」

「私にファミリーネームはありませんので、どうぞカスピとお呼びください。ガイアン様」

「分かりました。では、カスピさん……」



 頬を赤らめる同僚を眺め、タイガーは「ちゃっかりしてる奴」と笑みを浮かべて小さく呟く。

「タイガー殿、お連れさんは未婚で?」

 香水の香りがタイガーの鼻孔をくすぐる。

「はい。あいつはモテる癖に女運がないんです」

「おやおや。共に旅する仲なんだから、もっと砕けた話し方でいいんです事よ」

 アンナがタイガーに身を寄せ、彼の胸板を色っぽく突く。

(この人は本当に、距離感が凄いな……)

 タイガーは気を悪くしないながらも心臓に悪いと一瞬笑みを強張らせた。

「旅が始まったらそうさせていただきます。ですが今は人の目があるので、最低限の敬語はご容赦ください」

 そんな彼の反応を楽しみながら、アンナは色っぽい上目遣いで彼を見上げる。

「はいよ。貴族様ってのは大変だな。……んで、そういうあんたは既婚だね。子供もいるんじゃないかい?」

「ええ。よくわかりましたね」

「ふふふ、凄いだろ? 美女の勘って奴さ。ついでにもっと詳しく当ててやろうか」

「それは面白い。次は何をお当てに?」

 お遊びのようなアンナの言葉に、タイガーは余裕のある笑みを浮かべていた。だが、次に耳にする彼女のセリフに彼の表情は凍り付く。

「フォック・タイガー。これは奥さんの名前だ。ライアン・タイガー。これは長男、六歳だ。リッカ、長女、四歳。ウルフィ、次女、二歳だ。長男と次女は全体的には母親似。長女は父親似で元気なおてんば娘だね」

 訳が分からず、タイガーは固まった表情のまま「―――は?」と零した。

「ジヴァジ・タイガー、二十九歳。アレック・ガイアン、三十一歳。あちらさんはあんたの言った通り本当に未婚だね。伯爵家のご子息で三男。姪っ子や甥っ子をいたく可愛がっているようじゃないか。……ふふっ、けどまさか三十代とはね。とんでもなく童顔だねぇ。二十代前半って言っても通っちまう」

 アンナの口元で暗く深い色味の赤が綺麗な弧を描き、タイガーの視線はそれへと吸い寄せられた。

()()()()、私らの素性調べ上げてるらしいねぇ。何人で来たんだか知らないが、町を嗅ぎまわってる奴らはさっさと帰らせな」

 女の眼がにっこりと細められ、その紺色の瞳からは一切の感情消し去られていた。

 その瞳の質感に、タイガーはふと「この目は『装色』だ」と思った。装色(ソウショク)、又は偽色(ギショク)。髪の色や瞳の色を一時的に変化させる事や、その道具の事を示す言葉だ。

(パーティーのために髪色に合わせて来たのか? それとも普段から? ……いやまて。そもそもこの髪色も本物か? 今までの声や口調は? もしかして俺はずっと、彼女の見た目や言動に惑わされてたんじゃ……)

 アンナの無機質な瞳は微動だもせず、目の前の騎士を捉え続ける。

(……っ?!)

 タイガーは魔獣や魔族を前にした時と同じ緊張感に息をのむ。気づけば手は腰の剣へ触れていた。

 自分の手が剣を抜こうとしていた事に気付き、彼は息を吐き髪をかき上げた。その額にはうっすらと汗が滲んでいる。

 タイガーの体から意識的に緊張が解かれたのを感じ、アンナはくつりと笑った。

「……なるほど。ばれていましたか」

 タイガーのその声は、まだ少し普段のものよりぎこちない。

「ああ。腹が立ったけど生かしておいてやってるよ。私らの素性ならあのお嬢様が大体知ってる。特に私の事は概ねね。あの子はその上でウチを選んだんだ。ならあんたらは余計な事を考えるべきじゃない。だろ?」

「そうですね。すみません。同行してきた者達は直ぐにでも帰らせます」

「ああ。そうしておくれよ。伯爵様に報告が必要ならゴヤの奴に私らのプロフィールまとめさせるよ。あんた達の方からお嬢様に聞いてもらってもいいしね」

(全部承知か)

 タイガーは苦笑した。

「分かりました。不快にさせてしまい申し訳ありません」

「いいって。一緒に旅する仲だ。仕事の面では信用しな。………………けどお互い、これ以上の余計な詮索は無しにしよう。じゃないともしもの時、嬢ちゃんの安全は保障するがそれ以外は知ったこっちゃないよ。その事覚えておいてくださると嬉しいね、ジヴァジさま」

「重々承知いたしました、アンナ様」

「ははっ、様付けもいいもんだね」

 アンナはいつもの陽気な空気でケラケラ笑った。

 丁度傍を通った飲み物を配る使用人の盆からグラスを二つ取ると、彼女は一つをタイガーに渡し自分の分をくいっと仰いで一飲みで空にした。

 「流石、良い酒じゃん」と言い、彼女はアルベラの元へと移っていった。

 タイガーは手にしたグラスを見下ろし、「ふう……」と深い息をつく。

(成程。ご令嬢を護衛するに足る手練れって訳か。……全然聞かないパーティーだと思って侮ってたな)

 グラスを口に寄せると、共に来た童顔の同僚の楽しそうな笑い声が聞こえて来た。どうやらカスピとかいう冒険者とうまく打ち解ける事が出来たらしい。

(あの野郎……人の気も知らずに……)

 自分が得たいの知れない獣と対峙している間、随分と良い思いをしていたようだ。何とも理不尽な話である。こうなったら、何か細やかな仕返し(八つ当たりともいうかもしれないが)の一つでもお見舞いしてやれないものか。

(俺が彼女を口説くか……?)

 タイガーの脳裏に愛しい妻と子供の顔が浮かんだ。

 彼は「無ぇよなぁ」と呟き、こくりと酒を喉に通す。



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