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アスタッテの尻拭い ~割と乗り気な悪役転生~  作者: 物太郎
第3章 エイヴィの翼 (前編)
202/411

202、 皆の誕生日 7(考査終わり)



 静まりかえった室内。

 生徒達は間隔をあけて席に座り、配られたプリントの裏面を緊張した面持ちで見つめていた。

 アルベラもその緊張感を懐かしく思いながら、じっと滑らかな白の一面を見つめる。

 スカートンの誕生日会があったのが九日前の事。

 あれからスカートンとキリエと軽い勉強会をしたり、その合間誕生日会のお土産話を聞きいたり。または別日、実技系の試験の練習をしたり、また椅子に座り勉強をしたり、勉強をしたり、勉強をしたり……。

 そして日は経ち、学園は考査の期間を迎えていた。

「鐘がなったら開始してください。時間までに終わった者は静かに席について待っているように」

 教諭のセリフに、アルベラにふと懐かしさが蘇る。

 ペーパーテストに臨む生徒達の姿も、その実施内容も、殆どあの国の物と同じだった。

(安心感があるような、そわそわするような……)

 ―――ゴーーーン、ゴーーーン、ゴーーーン、……

 学園の鐘が鳴った。

 一斉に紙をめくる音と、筆記用具を手に取る音が教室内に上がった。



 ***



 ペーパーテストを受け、馬に乗ったり、授業の担当教員と魔法をぶつけ合ったり、授業で教わった印をそらで描いた物を提出したり。

 その全てを終えた放課後、辺りからは解放感から明るい笑い声が聞こえていた。

 アルベラは五時間目を終え、ルーラと雑談を交わしながら自室へともどる。

 都内はここの所ずっと晴続きだ。

 春の陽気が訪れ、日中の暖かさと日の光に雪はすっかり溶かされていた。日陰になるあたりは冷たい空気と共にまだ雪も残っているが、それももってあと数日だろう。

(あー。終わったなぁー……)

 窓から入り込んだオレンジ色の明かりが目に眩しくも気持ちがいい。精神面からフィルターがかかっているのだろうが、いつも以上に窓から見える景色が綺麗に思えた。

 テスト期間最後の放課後。

 アルベラは自室で一息いれ解放感を噛み締める。

 その後ろではエリーが粛々と夕食の準備をしていた。

 学園指定の使用人服を身にまとった寮のスタッフたちが少し大き目な四角テーブルを運び込み、テーブルクロスを敷き、明るい色合いの花を生けた花瓶を中心に置く。

 アルベラは後ろから聞こえる物音など全く気にも留めず、窓際、気まぐれに散歩から戻り転寝(うたたね)をしているスーへ目をやる。

 夕明かりを受けてキラキラと輝く青い鱗。そこに一枚、小さな丸い花弁が付いているのみつけ、アルベラは目を細めた。

(春だなぁ……)

 季節の変わり目。暖かい陽気。

 自然と浮足立った気分になってくる。

(明日は学園の外でも散歩しようかな。王子様の誕生日前……。特に欲しい物とかはないけど、装飾品とか見に行くのも良いかも)

 アルベラはご機嫌に伸ばした脚を揺らした。

 この二日の休日を挟んだ後、来週は解答用紙の返却と解説だ。または実技ならやり方のおさらいやコツ等の解説と実践。

 授業は軽いものとなり、試験内容のおさらいが済んだら早めに切り上げる科目もあるのだと聞いた。

 そのため生徒達の半分以上が、もう長期休暇の気分に浸り始めていた。

 自分に与えられたクエストを思い浮かべ特に急ぎで準備が必要なさそうなの物がないことも確認し、アルベラも安心してその気分に浸る。



 少しすると、先ほどまで出入りしていた人の気配もなくなり、自室は静まり返っていた。

 コンコンと扉がノックされる音が聞こえ、図書館で借りていた本を眺めていたアルベラは振り返る。

 ベッドの前にはパーテーションが置かれ、アルベラの居るスペースとベッドのあるスペースとが分断されていた。窓と勉強机とソファにクローゼット。そして普段にはないこの時間様に準備されたテーブル。

 アルベラの背後では生活感を感じさせない立派な個室が出来上がっていた。

(いいじゃない)

 アルベラは既に扉の前にいたエリーへ視線を向ける。

 彼女は誰が訪れたのかを知っていたため、エリーの顔を見ると何も確認せずに「OK」と返し席を移動した。

 エリーはニコリと微笑み扉を開く。

 招かれた客人は二人。

 彼らは「お疲れ様」と親しい笑みを浮かべながら姿を現した。

 スカートンとキリエだ。

 二人とは最終日、軽いお疲れ様会という事で食事をする約束をしていたのだ。

 彼等の使用する部屋は相部屋。

 二人の部屋の者達に悪いので、また、アルベラは二人の部屋には以前お邪魔させてもらった事があるので、今日のお疲れ様会は二人を自室に招くことにしたのだ。

 学食での夕食もいいが、こういう自室での夕食会も気楽でいい。

 準備されたテーブルにつき、アルベラも微笑む。

「二人ともお疲れ」



 ***



 考査が終わり、訪れた休息日。

 学園はすっかり解放感と笑顔に溢れていた。

 気を楽にした生徒達の姿がそこかしこに見える。庭園や屋上、学食等で談笑する学生たちは皆明るい笑顔を浮かべていた。

「ねえ、ユリはお休みずっと学園で過ごすとか言ってたよね。バイト先もう決まったの? 学園?」

 図書館横のテラスにて、ユリとリドは図書館前の立派な庭園を眺めながらお茶 (ジュース)などを嗜んでいた。

 友人の問いにユリは苦笑を浮かべる。

「実はまだ悩んでて」

 候補は幾つかあるのだが、悩んでいる理由は「どれも面白そう」というものだ。

 特待生達は学園から幾つかのバイト先を紹介してもらう事ができる。

 紹介先はどれも、学園が学生にとって有益と思える場所が揃えられているのだが、中には個人的な趣味や研究で手が足りない教員が雑用欲しさで人手を募集している物もある。その仕事が学生にとって有益となるか、本当にただの労働でしかなくなるかは学生と教員の組み合わせ次第だ。

 前期はバイトし懐をいくらか温め、中期休暇にて祖父母の家へと帰ろうとユリは考えていた。祖父と祖母には手紙でもそのように伝えており、「満足するまで頑張っておいで」と言う返事も既に貰っている。

「えーと、都の図書館、厩の手伝い、温室の手伝い……とかだっけ。あと侍女とかも無かった?」

 リドは前に掲示板で見たものを指を折りながら思い出す。

「そうそう。貴族のお屋敷に行って使用人の見習いとしてマナーを学ぶんだって」

「うげぇ……。私はそれごめんだなぁ。休み使って下働きって……それはなぁ」

「確かにね。けど他のも下働きには変わりないよ?」

 ユリは笑いながら返す。

「気持ちは分かるけど、先輩の話聞くと結構楽しいみたい。言葉的にあんまり皆やりたがらないみたいだけど、毎年そのバイトを受けてる先輩が結構穴場だって言ってた。報酬も良いし。特待生の受け入れを快諾してくれてるお屋敷しか登録されてないらしいから、他の使用人の人たちにも可愛がってもらってるって」

 「うーん。それでもなんかなぁ。何か運次第って気もするし……」とリドは渋る。

「まあ確かにねぇ」

 学園に入学して三か月。

 ユリも身をもって、貴族にも色んなタイプの人が居るのだと実感した。

 平民を毛嫌いして関わろうともしない者、平民だけでなく地位の低い貴族も分かりやすく見下す者、毛嫌いしているからこそ突っかかって来る者。地位など全く気にしていないように、誰にでも隔たりない態度を示す者、憐みなのか過度の気遣いからか貴族に対する時よりも優しく接して来る者。

(結局、こういうのって平民も貴族も同じなんだなぁ。人への態度は人それぞれ……)

「人間関係ってむずかしいねぇ」

 両掌で包み込むように頬杖をつき、ユリはしみじみと零した。

 リドはぷっと吹き出し「お婆ちゃんみたいな顔ー」とくすくす笑う。

「まあそうだけどさ、思ったよりは楽しく過ごせた」

「そっかぁ。良かったぁ」

 と微笑むユリの顔を見て、リドは言いづらそうに何度か視線を動かした。

 彼女はぐっと耐えるようにユリで視線を止め直すと、触れる事を悪く思いながらも気を遣うように口を開く。

「……ユリは大丈夫なの? 何か……『面倒くさい奴ら』がいるけど、辛くない? ほら、あの固まってないと何もできない奴らとか、よく分からない公爵のお嬢様とか……」

 ユリはぱちりと瞬く。

「低レベルなことしてくるあいつらもムカツクけど、あのお嬢様の事も結構気にしてるみたいだし……。なんかモヤモヤしてる事あるなら話しちゃえば? ……あ、どうしても嫌なら仕方ないけど。同居人的には、ほら。やっぱ一緒の部屋で暮らす友達には楽しくいて欲しいし、何かもやもやしてるの見てるだけって、こっちもモヤモヤしちゃうし……?」

 へへ、と申し訳なさそうな空気を誤魔化すようにリドは笑う。

 ユリはそんな友人の顔を見て言葉を失いかけハッとする。

「あ、ええと、その……違う、違うの。私そんなに思い悩んでないから大丈夫! 本当だからね」と体の前で両手を振った。

「けど、そっか。思い悩んでるように見えちゃってたか……、ごめんね」

 頬を掻き、ユリもへへっと笑った。

「えーとね。私、嫌がらせについてはある程度覚悟してたし、良い人たちもいるから、それで多分ダメージはプラマイゼロみたいになってるの。同じ平民の同級生もいるし、不安を共有できる仲間がいるから心強いっていうか」

「そう、ならいいんだけど……」

 リドはストローを口にし、「ちゅー」とオレンジ色のジュースを吸い上げる。

 どこかまだ心配そうな友の姿。

 ユリは「けど……うん。そうかも」と、自分でも少し情けなく聞こえるような声で言った。

「私……『あの時』みたいに、アルベラとミーヴァと、もっと沢山三人で過ごせるんじゃないかって期待してたの。次はもっと色々、楽しい事を三人で出来たら良いな、やりたいなって……。だから、その期待が叶わなくて、一人で悲しい気持ちになっちゃてた。入学前に勝手に期待を膨らませ過ぎてたの。前に会った事あるって言ったって、そんなの一日の内の数時間だけで、手紙のやり取りをしたって言っても、それも一回だけだったし。……それでね、最近は『私、都合よく考えすぎてたよな』って反省してたの」

「反省……?」

「うん。期待して、それと少し現実が違くて、それで『諦めないぞ。自分の期待の形にしてやろう!』って考えてた事に気付いて………………これってつまり、アルベラに自分の理想を押し付けようとしたんじゃないかって、そう思って。そしたらちょっと恥ずかしくなったっていうか、申し訳なくなっちゃって」

 リドは「うーん」と首をひねる。

「そうかぁ……そうかぁ……?」

 腕を組み、目を真ん丸にして自分を見つめる友人の姿がフクロウのようにユリの目に映る。

 首の角度が限界に達すると、リドは「……それは」と呟き首を戻す。

「―――考えすぎでは」

「……え?」

 ユリは考える。

 そして情けない笑みを浮かべる。

「えぇ……そうかなぁ……」

「うん。あ、まあユリが期待してたのと現実が違ったってのは仕方ないとして、別に理想を押し付けるとこまでは行ってないでしょ。だってお菓子渡した日から大して関わってないわけだし。しっかりユリは気を使って距離とってたじゃん」

「そう、だけど……。ああ……そっか。その期間に考えすぎて拗れたのかな私……」

「うんうん。それだよ。ユリが深く何か考えてる時、何か目がいっちゃってたもん。混沌としていたっていうか、」

「え?!」

「もうね、ちょー怖かった。そのうち髪の毛を編んで人形作り出すんじゃないかとか、手首とか切り出し始めないかとか、心配で心配で」

「えぇ?! わ、私そんな酷い顔してた?! 嘘?!」

 ぷっ、とリドは吹き出す。

「嘘嘘。鬱々と考えてるのは分かったけど、手首とかは流石にいくとは思ってないよ」

(鬱々とはして見えてたんだ!)

 やっぱ、ごめん! とユリは頭の中で声を上げる。

「まあ、そっかぁ。そういう風に考えが行くかぁ」

 「なるほどねぇ」とリドは目を糸のように細くしながら頷く。

「反省もほどほどにね」

 ユリはリドに頬を摘ままれ、「はひ……」と弱弱しく返した。

「相手の事を『悪い』『おかしい』って思うのも大事なことだと私は思うよ。実際そうな事だってあるじゃん? 責任負いすぎても疲れちゃうし…………うーん、何て言うかなぁ。そういうの全部自分のせいにしてたら、ちゃんと物事が判断できなくなっちゃう気がする。でね、それが積み重なると、人生が『どよーん』ってしちゃいそう」

 リドは伝えたいことをどう言葉に出したら良いのか、両手の人差し指をこめかみにあて、言葉を捻り出そうとしているかのように眉を寄せる。

「相手を悪く思いたくないって時は、じゃあ自分は悪かったのかって考えるべきだよ。んで、自分も悪くないって思ったなら、それは単に運とか巡り合わせが悪いだけ。ユリが今気にしてるの何てまさにそれだって。 ……あ、『あの集団』は別として」

 リドはユリからアルベラが水をかけるに至った経緯や、お菓子を渡した時の話を聞いて「運の問題だろう」と思った。

 水をかける経緯については謎の「自称父」という変出者が現れ、その粛清に巻き込まれたから。お菓子の時は何か取込み中だったから。それだけだ。

 ビンタに関しては「何故ユリも」とは思ったが。

「あのお嬢様がユリに目をつけてる、生意気だって思ってるって、変な噂もあるけど、グラーネ様はそんな話本人からは全く聞いたことが無いって言いきってたじゃん?」

 それはスカートンの誕生日に聞いたことだ。

 スカートンは眩いばかりの笑顔を浮かべ「我知らず」「その件に我関せず」を貫いた。

 更にそれらの二人に関した噂にはアルベラ本人も加担しているが、リドとユリが知ることは無い。

 「それにそれに」と、ユリを納得させる材料を探すリド。

 ユリは申し訳なさと、感謝の気持ちから情けない形に表情が崩れる。

「リド、もう大丈夫。ありがとう」

「うん? そう?」

「うん……あのね。だからそろそろ頬っぺたはなひて……」

「うわぁ! は、ははは。ごめんごめん。握り心地のいいほっぺでして」

「もう……、そろそろ約束の時間なのに」

「ごめん~。癒しって自分に掛けれるんだっけ?」

「それはまだ練習中!」

「そっかぁ。ほらジュースで冷やしな」

「リド、」

 すっとユリが目を細める。

 その空気が少し冷たくなった気がして、リドは「へ?」と目を丸くする。

「―――お行儀が悪いですわよ」

 わざとらしくお嬢様言葉を使うユリに、リドは察し、「あら」と言って背筋を伸ばした。

「失礼いたしましたわ、ジャスティーア様」

 二人は目を合わせ、同時に吹きし笑い合う。



「そろそろ行こうかな」

 あれから少しゆっくりし、ユリは時計を見て席を立った。

 予定を聞いていたリドは手を振る。

「いってらっしゃーい。メイって子のお守頑張ってね~」

「う、うん……頑張る……」

(お守……されてるの私かもしれないんだよなぁ……)

 ユリは何とも言えない気持ちで手を振り返した。

 


 その日、ユリとメイはぶらぶらと街を歩き、お決まりのように魔獣と出会った。

 今回は小鳥の魔獣だ。

 十羽前後で行動する魔獣で、とある建物の屋上で景色を見ながら雑談すしている時に現れた。

 メイは当然と「行け! ユリ! 必殺周囲巻き込みの斬撃!」等と煽りの声を上げる。

(私だって巻き込みたくないのに!)

 と、ユリは心の中で涙を流しながら反発の声を上げつつ、無事魔獣退治を完遂した。



「ユリはお休みずっと王都だっけ?」

 考査の準備の為にひと月ほどメイとは会っていなかった。

 メイは教会までユリに送ってもらう中で、前に聞いた話を思い出しつつ尋ねる。

「うん。アルバイトして家に帰るお金貯めようかなって。良いお土産も買って帰りたいし」

「そっか……アルバイト……」

 「ふーん。へぇー」と口にしながら、どこか上の空で楽し気な表情を浮かべるメイ。

 そんな少女を、ユリは冷や汗をかきながら見下ろす。

(聖女様、何か企んでらっしゃいませんか……?)

 「いたいけな少女」のフリをした聖女様を、ユリはニコニコしながら不安の心境で見つめた。



 ***



「また……随分と見覚えのある封筒だこと」

 街を散歩して帰ってきたアルベラは、自室に戻るなり前にも受け取った事のある滑らかな手触りの白い封筒を拾い上げる。

 白は白だが、光に当たると大き目な繊維がキラキラと上品に光を反射する。輝いてる『繊維』は植物性の物ではない。羽だ。純白の羽が装飾として練り込まれた紙なのだ。

 送り主におあつらえ向きな素材だなとアルベラは感心する。

「ふん。何て臭い。燃やして捨てろ」

「無駄口叩く暇があったらお茶の一つでもお嬢様に準備して差し上げなさい」

 共に散歩から帰宅したガルカとエリーが部屋に戻るなりちょとした言い合いを始める。

 アルベラは気にせず部屋の中央にある丸テーブルの前まで行くと、椅子を引き腰を下ろす。

(また……王子様からのお誘いねぇ)

 手紙を開き、ラツィラスからの手紙にアルベラは息をついた。

(来週の前の休息日……『豪華なメンバーをそろえての』、か……)

 来週の休息日と言えば、一日目は第三王子様の誕生日会だ。その次の日に茶会の予約とは……何とも意味深に思えてしまう日取りである。

(感想でも聞き出す気か? 茶会なら平日の放課後にも出来るだろうし、あえて休みに入るぎりぎりの日程を取るとは。第三王子の誕生日後を選ぶなら、まともに人集められそうなのってこの日しかないもんな。次の日平日で前期終了式あるし)

 「ふーん?」と小難しい顔をして手紙を見下ろすアルベラの手前、珍しくエリーの言う事をきいたのか、ガルカがカチャカチャとお茶の準備をしていた。

 アルベラはそれを気配で察しつつ、手紙の内容に集中する。

 そこには、考査期間を終えたお祝いと、休みに入る前に一度集めてみたい顔ぶれがある事が書かれていた。だがその「顔ぶれ」とやらは秘密にしたいようで書かれていない。何ともあの王子様らしいとアルベラは息をつく。

(集めてみたい顔ぶれ、ね。公爵家? まさか義兄弟誘ったりは……流石にないだろうし。思い当たるのはそこら辺だよな)

 トポトポとカップに液体が注がれる音。紅茶のいい香りがアルベラの鼻をかすめた。

(エリーやガルカも使用人としてではなく、招待客としてどうぞ、か……)

「ねえ、どうする?」

「なにがだ」

 アルベラが顔を上げると、ガルカがテーブルに腰かけ、今しがた紅茶を注いでいたのだろうカップを口に運んでいた。

 コクリと一口それを飲むと、彼は満足げにカップを見る。

「流石俺の淹れた茶だ」

「………」

 アルベラはその姿をじっと見上げ、ぽつりと呟く。

「それ私のじゃないの?」



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