2、始めの一歩 1(私はアルベラ)◆
眠りについたはずのアルベラは、早朝、人が溢れた見覚えのある――よく知る場所にいた。
「え、と……――ここって」
――通勤ラッシュの駅のホーム。
アルベラは辺りを見渡す。
(うんざりな通勤……飽き飽きしてた毎日……)
――彼女はこの人生に疲れていた。
飽きていた。見限っていた。
しかし死ぬ気は露ほどもなかった。
なんの才能も生きる意味も見いだせなかった人生にうんざりした時期もあったが、地道に真面目に堅実に生きた自分を心のどこかで褒めてもいた。
救いのない人生だ。
けど死ぬよりはましだ。
このまま私は小さな幸せに縋りながら、私らしく強く生きていこう――雑草でももういいじゃないか――。
そう思っていたのに……何の才もないつまらない自分を認め始めていたのに……、彼女の体はあまりにも簡単に、あっけなく段差の向こうへと飲まれ大きな鉄の塊に踏みつぶされてしまった。
「――!?」
ホームから落ち、地面から起き上がったアルベラ。
それを大きなクラクションを鳴らして電車が通り過ぎていく。
衝撃はない。
髪がそよ風に揺られた程度の影響だった。
呆然としていた彼女の周りはまた暗闇となり、その足もとに真っすぐ続くレールだけが残されていた。
――『十歳になったら全て思い出すよ』
アルベラは目を見開く。
「そうだ……」
随分前に、だが前の生に比べれてもっと最近に聞いた声。
それが頭の中に響き渡った。
線路の奥を見れば真っ白な光があった。
その光は小さな穴から噴き出すように勢いを増し、アルベラがためらっている間に彼女の全身を包みんこんでいた。
***
真っ暗な空間に少年がいたのだ。
アルベラにはその少年が白い光を放っているように見えた。
真っ暗なのに、光っているのにやたらとその姿かたちははっきりと見え、顔だけが曖昧でうまく認識ができない。
彼は楽しそうに、そして少し生意気そうに笑っていた。
『いいかい? 君はそこに書かれた君の役目を果たせばいい。失敗すれば死。一つでも取りこぼせば死。分かった?』
『拷問? 殺生? あははは! 面白いけど、この ≪悪役≫ ってのはそういう意味じゃないと思うよ。それに彼等を殺すのは僕にとってご法度だ。彼等は神様がが特に気に入ってる魂……それを僕側の君がやったら……きっとただじゃおかないだろうね』
『――え? 何でこのチョイスかって? そんなの気分さ。適当適当。――いいかい。君は運が良かったんだよ。この現象も皆平等に体験できるような物じゃないんだから』
『わかった? 皆がみんな、転生するわけじゃないんだよ。世界同様、魂も腐るほどある。だから次の世界で死んでも、こう都合よく転生できてさらに転生先を自分で選べるだなんて思わないでね。一度きりの人生だ、必死になって。特に“君達”はさ……――』
『体がある程度出来上がるまで、前世の記憶はお預けね。大丈夫、10歳になったら全て思い出すよ』
***
「そう……!!!」
深夜、アルベラはがばりと身を起こす。
時計は零時ちょうどを示していた。
彼女は体中に汗をかき、今まで息を止めてでもいたのか荒い呼吸に肩を揺らしていた。
前世の記憶と死後の記憶が一気に流れ込んできて、一瞬自分が誰だか混乱する。
身を起こし汗をぬぐい、彼女は自分がアルベラ・ディオールとして生まれる前の事を思い返した。
(前世の私。真面目で、地味で、卑屈で、ちょっとひねくれてて……ん?)
――なんだろう。ひねくれてるのは今も同じか?
と彼女は首をかしげる。
「って何考えてるの。私はしっかりした素晴らしいレディーよ。スレイニー先生だってそう言ってたじゃない!」
ペしぺしと頬を叩き、満足すると両手でその白く柔らかい頬を包み込んだ。
覚えのあるもう一つの自分の頬の質感が記憶としてよみがえり、「すべすべ……」と彼女は自分の頬に対し他人事のような感想をこぼしていた。
「そうだ……そうよ……――何はともあれ『お嬢様』、お金持ち……ふふ、ふふふ……」
前世はどこにでもよくいるようないち女でしかなかったのだ。
それが今は一国の公爵家のお嬢様。
「勝ち組ばんざーい!」
両手を上げて寝なおし、アルベラは掛け布団を引っ張り上げる。
(生き返る前、何か光ってる少年にやらなきゃいけない事みたいないろいろ言われたけど……『悪役令嬢』? やってやるわよ。学園の三年間、それをやり切ればこの二度目の人生は完全に私の物。次はもっと自分の気持ちに正直に生きてやるんだから……!)
拳を握り、彼女は満足間の中に眠気を感じた。
(中年女性の記憶を思い出そうが体は九歳……)
あくびをしその眠気に体をゆだねる。
(今は眠って、この件については明日改めて……)
数秒後、寝室には子供の健やかな寝息が流れていた。
翌朝アルベラはルミアが起こしに来るよりも早く目覚めていた。
寝ぐせでうねった髪をそのままに鏡の前に立ち、開口一番――
「可愛い……」
と呟く。
淡い紫色の髪はゆるいウェーブがかかっており、その毛先は水色となっている。アルベラは今までの経験から、この毛先が散髪して落としても新たに毛先となった部分が一日ほどかけてゆっくりと水色に変色することを知っていた。
肌は白く頬や唇は血色のいいピンク。
瞳は明るく透明感のある緑。
「まさに二次元の色合い」
アルベラは少々興奮気味に身を乗り出し鏡に両手をつく。
「うん……かわいい、私」
と言い、我に返りコホンと咳をつく。
(まずは状況を整理しなきゃ。私はアルベラ。ディオール家の長女で一人娘。お父様は公爵でお母さまは美人で……――それで、それでここはゲームの世界! のはず……)
アルベラは顔をしかめベッドに腰かける。
(乙女ゲーム『終焉のヴァタス……』ヴァタス……なんだっけ? カタストロフィっぽい感じだったと思うんだけど……ロフィ……ロフィ……――ヴァタスロフィ! そうだ! 『終焉のヴァタスロフィ』――)
***
アルベラは昨晩夢で見た生前の記憶、少年とのやり取りを思い返す。
「どう? 理解できた?」
まるで宇宙を模したような空間。
その少年は悪戯っぽく尋ねた。
年は十歳前後だろうか。
黒い髪。
黒い瞳。
白い半そでシャツに半ズボン。
夏休み中の小学生のような格好の子供は、「光る」という常人離れした技を披露しておきながらやけに印象の薄い顔をしていた。その目も鼻も口も見えているはずなのに少し目を放せば顔がわからなくなってしまう。気づいてしまうともどかしいものだった。
「で、どれがいい? 君が好きな『世界』を選んで」
ずいっと間近に迫った少年の顔。アルベラとなる前の彼女は驚いて身を引く。
揶揄うような笑みを浮かべたまま少年は続ける。
まるで狐やタヌキに化かされているような気分だった。
「選べないようなら僕が選ぶのもありだよ。転生の希望が無ければ……そもそもの摂理に従って君の魂は消滅するだけだけど、どうする?」
少年に言葉を向られたアルベラは、本人は気づいていないが生前のシルエットでしかなかった。体の輪郭内は塗りつぶされたように真っ黒だったが、少年には塗りつぶされた彼女の表情がしっかりと見えていた。
彼女は呆然としていた。
困った人間を前に少年はさも楽しそうに目を細めて笑む
「さぁ、どれがいい?」
アルベラの目の前には金に輝くカードが数枚並べられている。
それは少年が言うに、「転生先の世界」を記したものらしい。
(これ夢かな……? 妄想……?)
と、彼女はカードを眺めたまま動かない。
「どうしたの? 決められない? ――じゃあ、あと五つ数えるうちに選べなかったら君は消滅ってことで。いいかい? ――いーち」
「これ!!」
「消滅」という単語に、彼女は慌てて一枚のカードを示す。
少年は「そうそう、やればできるじゃない」とまたクスクス笑った。
彼女が1つのカードを手に取ると同時、他のカードが実態を無くし光となって消滅していた。
「ね。選ぶのなんて簡単だ」
「簡、単……」
「なのになんで皆、だんだんとそれができなくなっていくんだろうね。体裁や価値観、人の目……変わっていく事への恐怖……―――くだらないよね」
「何……、なんでそんな話……」
少年は全て見透かしているように目を細める。
「特に君はそれを引きずっているようだったから。違う?」
アルベラは苦いものを口の中に感じていた。何か言い返したい気持ちが湧くも、結局は「そうね……」と素直に返していた。その声は心なしか掠れている。
「ははは。素直じゃない君がよく素直に認めたね。偉い偉い」
(何なの。人の事を知ったような口で……)
「ねぇ、だから良い機会だと思わない? 君は記憶を残したまま新しい人生を始められる。前世の悔いをそこで晴らすも良し。成人した人間の知識を生かしてワンランク上の子供時代を謳歌しても良し。今までと違う新しい世界で、君は君の生きたいように生きればいい。その代わり、僕の駒としてしっかり働いて、そして楽しませて」
「新しい人生がありなおせる……」
現状が理解できていなかった女性の顔に小さな感情が灯り始めていた。
希望を見つけた様な、面白い物を見つけたような。
彼女の瞳には生き生きとした光が生まれ始めていた。
そしてふと気づいたように顔をしかめた。
「――は? 楽しませるって?」
「まぁまぁ、ほら、ちゃんと新しい人生の詳細を確認してよ。ここでゆっくりもしてられないんだ。君はもうそろそろ行かないと」
「そう……時間が……」
無いのか。とアルベラは改めて選んだカードを見下ろした。金のカードの表には見覚えのあるゲームのタイトルと、その下に役名が書かれていた。
――「終焉のヴァタスロフィ」……のクリソツ世界。役:悪役令嬢、アルベラ・ディオール、公爵家。
裏には「クエスト」と書かれており、小さな文字でずらりと書かれた内容は一目見ただけで頭の中に流れ込んできた。
(ヒロインに水をかける、ワインをかける……花壇を荒らす、プレゼントを壊す……うわぁ……陰湿ないじめ内容……)
「よしよし、君の準備は整った」
重力の感じさせない身軽さで、少年は嬉しそうにぴょんと飛び跳ねた。
暗い空間の中に浮かぶ光の合間を跳ねて回り、「あぁ、これだね」と少年は一つの光の前で足を止める。
「さぁ、世界の方も準備は出来てる。始めようか……君の第二の人生」
彼の言葉と共に空間が歪み変化を始めた。
(よし、やってやる。失敗すれば死。一つでも取りこぼせば死。……私は意地悪女……私は意地悪女……)
アルベラはカードを抱き自分に催眠でもかけるかのように言い聞かせた。
少年は何かを思い出し「あ」と声を上げる。
アルベラの手中で、カードは既に光となり彼女を包み込み始めていた。
アルベラの視界の中、宇宙のような風景は雨に流される水彩画の様に溶けはじめ、溶けた空間のその下から何もない白が覗く。
「そうそう! 忘れてた!」
少年の無邪気な声。
――え、なにを
と動かしたアルベラの口からは声が出ない。
「先輩と仲良くね。きっとあっちもそろそろ君を探し始めてるはずだ」
――先輩って
「上手く噛み合えば、きっと君の力になってくれるんじゃないかな。まぁ、あっちの考えにもよるだろうけど」
――ちょっと、何言って……
「ちゃんと死なないよう頑張って」
と、意地悪そうに笑う片目が見えた気がした。それは少年のようであり、老人のようであり――
アルベラの視界はもうまっさらな白一色だ。
少年の声だったようなものが頭の中に響く。
『役目を果たすんだ。役目を果たした後の人生は好きに自由に過ごせばいい。けど、仕事を放棄したらその瞬間に契約解除だ。君は死んで魂は消滅。もう新しい魂は送り込めないし、君の代わりは適当な誰かを見つけて頼むことになるかな』
(代わり……)
「なぜ死してもなお『替えの利く駒』や『歯車』のような扱いを受けなければならないのか」と彼女の中に反発心が芽生える。
『もし万が一役割放棄したくなっても、ちゃんと引き継ぎがいると思えば罪悪感なく放棄できるわけだし』
(それって自殺って事?)
『考えようによってはその役目に必要以上の責任を負わなくてもいいっていう素敵なシステムでしょ? ―――まあ、意思とは関係なく運悪く命を落とすことなんて誰にでもある。君が実際そうだったように。その後の心配はご無用とでも思ってくれればいいよ』
(そりゃ良いようにとらえるならそうでしょうけど……)
やはりどこか替えの利く駒として扱われているような感覚に、アルベラは呆れるも「けど、」と思う。
―――やり直せるのだ。
また人をやり直せる。
何もできなかったのではない、何もしなかった人生。自らの手で無味無臭にしてしまった人生。
――人生、人生、人生……――
(そう、私の――)
『――あー、あと』
(まだあるの!?)
『僕は神様じゃないし、神になんて祈っても無駄だよ。そこのとこよろしくね』
(じゃあいったい何――)
少年の声に気を取られていたアルベラはいつの間にか自分の体もなくなっていたことに気づいた。
ならば今の自分は何なのか。
考えれば「魂」という言葉が適切に思えた。
あたりの白はさらに眩さを増していた。
既に真っ白だったに、「更に真っ白」と感じることが不思議だった。
辺りの白が、光が、最高潮に達する。
彼女の「視界」なのか「意識」なのかは、一転して暗闇の中に突き落とされた。
たまに聞こえる水音や外界の音、声―――そして―――
***
(そして私が生まれたわけか。なる程。――……それにしも『クリソツ』っていつの時代よ)
とカードに書かれていた一言を思い出し呆れていると、扉がノックされた
「お嬢様、おはようございます」
世話係のルミアが朝の支度へと来たらしい。
ルミアはアルベラの返事を待たず、いつもの通り部屋へ入ってきた。
彼女は自分が来る前に既に起きていたお嬢様に目を丸くした。そして急いで頭を下げる。
「も、申し訳ありません! もう起きてらっしゃるとは!」
いつもなら眠っているアルベラを起こす所からが彼女の仕事だった。
世話役として当然の仕事なのだから、大して腹を立てようとも思わない。――のだが……
(いつもの私ならここで子供っぽく嫌みを言ってるところだな……)
「さてどうするか」と考え、結果アルベラは寝ぐせでうねり顔にかかる髪を片手で払い、胸を張った。
「今日はしっかり起きれてよ。どう?」
凄いでしょ? ほら褒めなさい。と言わんばかりのお嬢様の視線にルミアは一拍遅れて手を叩いた。。
「さ、流石お嬢様です! 凄いです!」
「ふふん、でしょう?」
(ルミア……私の扱い分かってるじゃない……)
こんなあやされ方をしている自分に少し切なくも思ったが、不審に思われては無いようだしこれでいいか、とアルベラは納得する。
ルミアも「機嫌を損ねなくて良かった」と安堵しているようだった。
人形のように動かないまま人に身支度をされ、アルベラは暫し自分の思考に没頭していた。
(クリソツ……クリソツねぇ……)
(お嬢様今日は静かね。今のうちにさっさと終わらせましょう)とルミアはテキパキと働く。
(クリソツってことは『そのまんま』ではないって事かな。けどある程度は同じなんだろうし、クエスト的にヒロインもヒーロー達もそろって入るはず。――どうしよう、私あのゲーム未プレイなんだよな……絵が綺麗だったし、面白いって聞いたから設定見たりプレイ動画見たりして大まかな流れは知ってるとはいえ……どうも記憶が大雑把……。だいたいなんで提示されたカード全部見覚えのあるやつばっかだったの? 『世界は幾らでもある』って言っても、こうも綺麗に自分の知ってるフィクションの世界がそろう事ある?)
アルベラは自分が見たカードを思い出す。
カード1:前回と同じ日本。小学生の女子に飼われるゴールデンハムスター。
カード2:同じく日本。時代は昭和。皆、名前が海の幸という特徴をもつ六人家族……に飼われる白猫の猫友達。
カード3:モンスターを捕まえてポケットに入れたり戦わせたりできる世界……の悪の秘密結社のモンスター。
カード4:科学が発展した世界。月側の人型戦闘機の戦闘員。
カード5:青い狸型ロボットが未来からくる世界……の未来のネズミ。
(――そしてこの乙女ゲームの悪役令嬢。他一つを除いて全部人外って何。しかもげっ歯類が二つ)
この世界を選ぶのは当然ではないかとアルベラは息をつく。
ルミアがすかさず「どうかされましたか」と尋ね、アルベラは無意識に「別に」と答えていた。
(登場する人物の大まかな見た目や設定は全部じゃないとはいえ覚えているわけで……。原作通りじゃないとしたらこの曖昧な記憶が更に役に立つか分からなくなるってわけ? てか仮にほぼ同じだったとしても初見殺しみたいなシナリオが原作内にあったら……そう言うのが忠実に存在してたら……困る。私死ぬんでしょ? それは困る)
うーん、と唸るお嬢様。
ルミアが「終わりましたよ」と声をかけた。
今日は誕生日パーティーだが、それ用のアルベラの本格的な準備は昼食後からだ。
アルベラは普段着、と言ってもそれなりにお嬢様な普段着を着た自分の姿を鏡の中に眺める。
「良いじゃない……」
(かわいい)
「はい?」
(けどちょっとフリフリしすぎね。もう少し動きやすい服も欲しいかも)
「ルミア、ご苦労様」
「はい」
「明日からこれ自分でやるわ」
「はい。――え?」
「明日からこれ、自分でやる」
「え、と……お嬢様。『これ』と言いますと」
「顔洗ったり歯磨いたりよ。髪は今までみたいにやってもらうけど、着替えは一人だと難しい時だけ手を借りるわ」
(この世界、デザインは古風なヨーロッパ調だったりするけど、魔法……だか魔術だかのおかげで技術や生活水準はそれなりに高いし、服も作りは前世のと同じような感じだもんな。ジッパーとかボタン止めとか、マジックテープみたいのもあるし。子供とはいえ一人で行けそう)
「お嬢様……本当に……ええと、」
「なに? これくらいもう自分でできるわよ。それともあなたも十歳の頃は人に歯を磨いてもらっていて?」
「いえ……私は」
「そうよね、平民だものね。使用人も雇えないんだもの、逞しいものね」
「はい……」
使用人のルミアはニコリと笑んでかえしたが、その拳は握られて震えていた。
生意気なお嬢様の発言に振り回されるのも彼女の仕事だ。
ならその仕事を奪ってやってはいけない。
ルミアの怒りには気づかないふりをし、「じゃあそう言う事だからわかったわね」とアルベラは部屋から出て朝食へ向かう。
その後をルミアが追った。
そして朝食の席。
「今日はラツィラス殿下がいらっしゃいます。アルベラは少し前に殿下に会った事がありますが覚えてますか?」
「……あ、はい」
(そうだった――)
早速のヒーローとの対峙を思い出し、アルベラは笑顔の裏で冷汗を流した。