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アスタッテの尻拭い ~割と乗り気な悪役転生~  作者: 物太郎
第3章 エイヴィの翼 (前編)
199/407

199、 皆の誕生日 4(会議室とルー)



 ちょっとした模様替えのような、手のかかった冗談から始まった会だったが、なんだかんだでアルベラとルーはあれから黙々と勉強をしていた。

 お手洗いで席を離れたり、ちょっとした休憩で手を止めたりとしながらも、気づけば三時間近くが経過していた。

 いい加減飽きてきたかも……、とアルベラが必修科目の教科書から顔を上げると、ルーは先ほどアルベラが背を伸ばした時に見た体制と一切変わっていなかった。本を読み、手元のノートに試験の回答になるであろう単語やら短文やらを書き出していた。

 カリカリとペン先が紙の上を走る音が聞こえる。

(凄い集中力ね……)

 アルベラはこの約三時間。彼の休憩回数が明らかに自分よりも少なかったことを思い出す。

 いつものヘラヘラしてない彼の真面目な表情に、「黙ってればちゃんといい男って感じだ」と、アルベラは話しているとすっかり忘れてしまう彼の整った顔立ちにしみじみと感心した。

「……人の顔じっと見てどーした。見惚れたか?」

「そうね。良いお顔」

 アルベラはさらりと流して、自分の勉強道具類を閉じたり重ねたりして整える。

「なんだ。もういいのか」

「ええ。休憩。私は貴方方みたいに超人じゃないので」

「誰と一纏めにしたんだか」

 呆れたような笑みを浮かべルーも手元の勉強道具類をまとめだした。

「じゃ、お茶にでもするか」

 彼は唇で弧を描き、テーブルの上のベルを鳴らした。



 勉強をし始めの方でアルベラはルーに、「適当なタイミングで抜けていい」と伝えていた。

 伝えていたのだが、結局彼がこの部屋に滞在し、三時間近くの勉強に加え、一時間のお茶会を経て、計約四時間が経っていた。

(付き合いが良いなぁ)

 彼が女性に対して懐が深いのは知っている。出会った頃は年上にこだわっているようだったが、年々その許容範囲は同性や年下へも広がっているようだった。

 今も変わらず年上好きだと言っていたが……それはともかく。

(……この懐の深さは同性にも向くのかどうか、非常に気になるものだ)

 勿論アルベラが彼の社交に何も問題のない事など知っている。問題がないどころか、アルベラから見たら公でのルーの立ち居振る舞いは(ちゃんとしている時は)完璧だ。流石王族の血筋、と思える位の社交術が彼には叩き込まれていた。

 気になったのはそこではない。

 アルベラはチラリとエリーに目をやる。

 学園へ入ってからルーとエリーはアルベラ抜きで茶会を嗜んだ事もあるわけだが……果たして。彼は「彼女」が「彼」である事にはいつ気付くのか。気づかないのか。それとももう既に気づき始めているのか。

 それが気になっていた。

(けど聞けない。……なぜならエリーはよく分からないタイミングで地獄耳だから)

 共に部屋に連れてきていたエリーには、今は適当に楽にしてもらっている。同じ空間に居るのだからそれらしい会話は簡単に拾われてしまうだろう。

 ちなみにガルカはと言えば、ここに共に閉じ籠るか、都の外で一日時間を潰すか、どちらが良いかと尋ねたら即答で後者を選んだ。

 何となくアルベラの意識が自分に向けられていることを察したエリーは、ニコリと彼女へ笑顔を向けた。

(だめだ……あの笑顔が『余計なこと言うなよ』って圧にしか感じない……。気のせい……? 気のせいか? ただ笑っただけ……いや。圧あるよなあれ……)

 冷や汗を浮かべながら視線を逸らした主人の姿に、エリーは首をひねる。

(何かしら。ついプレッシャーをかけちゃったけど……あの子(お嬢様)、目逸らしたわね。何かやましい事でも企ててたかしら? 可愛い)

「……? なんだなんだ? 俺を仲間外れにして二人でアイコンタクトか?」

 楽しそうに笑みを浮かべるルーは「ハッ」とエリーに目を向け、そままその視線を止め、じっと彼女の顔を見つめる。

「……やっぱりエリーさんはいつ見ても最高だな。このままあと四~五時間、見つめさせてもらって良いか?」

「あら~。私もルー様とならいつまでも見つめ合いっこできましてよ」

「じゃあこんな部屋さっさと切り上げて、改めて俺の部屋でどうだい?」

「素敵ですわね。でしたらお互いを肴に飛び切りのワインもいかが? いつでもお休みできるよう、肌着で大人な酒盛りパーティーと行きましょう、三人で」

「さらっと私を混ぜるな」

 と言うアルベラの言葉と、

「お、いいねぇ」

 という弾んだルーの言葉が重なった。



「あ、そうだそうだ。パーティーといえば」

 先ほどの多分茶番であろう流れをあっさりと手放し、ルーは思い出したかのように話題を変える。

「あれからスチュートからは音沙汰なしか?」

 随分な話の方向転換にアルベラは驚きつつ頷く。

「ええ。貴方方は相変わらず?」

「ああ。良好良好」

 そう言って彼は、魔術具のおかげで冷める事のないコーヒーを、美味しそうに口に運んだ。



 王族の血筋。そして同い年。

 ルーとスチュートは幼い頃からの付き合いなのだ。

 付き合いの長さや親睦の深さで言えば、ルーはラツィラスよりスチュートとの方が長く深い。

 ラツィラスと知り合ったのは、第五王子が城に来て約一年後。

 ラツィラスが六歳、ルーが八歳の頃なのだ。

 ラツィラスと始めて顔を合わせた時、ルーはスチュートと共にいた。

 その頃にはスチュートはラツィラスの存在を認めており、嫌悪もしていた。ルーは、ラツィラスと出会って早々に、彼等義兄弟の間にある険悪な関係を知る事となったのだ。

 ルーが彼の腹違いの兄弟について、当人であるスチュートに聞いても、スチュートは「あいつのせいでお母様が倒れた」「あいつは兄さまの偽物だ」と言った断片的な怒りの言葉を呟くばかりで、具体的な人物像は教えてもらえなかった。

 ラツィラスが十歳になり、公での誕生日パーティーを開くようになり、そこでようやくルーは気になっていた第五王子様と関わるようになったのだ。

 その参加も公爵家として「堂々と」……とはいかず。初めはどこかスチュートへの後ろめたさもあり、顔と名前を隠し、隠れるような形での参加となった。



 ルーはカップをテーブルに置き唇で弧を描く。

「気を付けろ。あいつ、お前等に何かちょっかい出すかもしれない」 

 あいつ、とはスチュートの事だと話の流れで分かる。

 では「『お前等』とは……」とアルベラはルーへ目をやり首を傾げた。

「……私達、『成り上がり組』の事かしら」

「ああ」

「なぜそう思って?」

「この間誕生日会をどうするか、ご機嫌で話してたからな。お前らを誘うことへの不満が一切出てなかった。ってことは、お前等を呼ぶことをむしろ歓迎してるって事だ」

 「……あら」とアルベラは息をつく。

「歓迎されるのは嬉しいけど悪だくみは困ったわね」

 「だよな」とルーは頷く。

「お前等を揶揄う程度の小さな悪戯ならいんだけどな。あいつはたまにやり過ぎる……。流石に公の場で、高位の貴族相手に怪我させるような事はしないと思うけど……少し不安だ」

 彼の口元は微笑んだままだが、目は笑ってはいなかった。

 どこか憂いを帯びた瞳は、ちょっかいをかけられる側へも気をかけているようだったが、かける側への心配も多いようだ。

「度が過ぎなきゃいいが……。『あいつら』が参加するならこんなモヤモヤしないで済んだだろうに……。ったく……どうしてこうも……いい年にもなって餓鬼みたいな事を……」

 今ルーが思い浮かべているのは、小さい頃から気が強く、俺様気質だった赤茶の瞳の幼馴染の顔だ。

 以前のお茶会でルーがスチュートと幼馴染だという話を軽く聞いていたアルベラは、気になっていた事を訊く。

「貴方は、第三王子様とそれなり仲良くやってるのに、その親の仇みたいな第五王子様の事は何とも思っていないのね」

「……さあ。どうなんだろうな」

 ルーの視線が下がり、目が細められた。

「お前は聞いたか? 『第一妃様が倒れたのはラツに手を出したから』……ってのは確かだって話」

「それは初耳ね」

「そうか。まあそうらしい。呪いが跳ね返ったんだと。跳ね返したのはラツ自身の力じゃねーって話だけど」

「ねえ、その話」

「この部屋でのことは『他言無用』だろ?」

 クスリと笑み、ルーは続ける。

「……そういう意味では第一妃が死にかけた原因自体は『あの人がラツに手を出したから』ってわけだ。けどそんなの自業自得だって、俺にも分かる。俺だけじゃない。誰だってそう思うだろ」

 ごもっともなセリフに、アルベラはただ頷く。

「親が死にかけて、その怒りや悲しみの矛先を誰かに向けたくなる気持ちは分かるよ。だから事情を知った頃は、あいつらの関係は仕方がない事だと思った。……つっても、俺もちゃんとした話を知るまでは、あの第五王子様はスチュートの言うようにくっそ嫌な奴なんだろうって思ってたわけだけど」

 懐かしそうに、ルーはくつくつと笑った。

「もともと嫌いだったけど、事情を聞いて中立の立場になったって事かしら?」

「まあそんな所だ。……けど……『中立』、ねぇ……」

 アルベラの言葉にルーは笑っていた表情を残しつつ息をついた。

 その顔はどこか寂し気で、あまり聞かせたくはない様に、彼は「……じゃ、ないのかもな」と小さく呟く。

「お前はどうだ?」

 赤とベージュのオッドアイが、アルベラをじっと見つめる。

 アルベラはそれを受け止め、こちらもあまり大きい声では言いたくなさそうな雰囲気で答える。

「中立……ではいたいけど。第三王子様へのイメージはあまり良くないから。綺麗に真ん中とはいかなそうね……」

「おいおい、素直にスチュートよりラツの方が好きだって言って良いだぜ? んで、ラツより更に俺の方が良いとも言ってくれれば大正解だな」

 ルーの隙あらばな冗談に……「()()冗談」に、アルベラは「はいはい」と頷く。

「お前さ、学園に入学してから更にラツに懐かれたよな」

「そう……………………かもね」

 逸らされた緑の瞳は「懐かれた」という言葉に対してか、話題自体にたいしてか不満げだった。

「お前も大分気を許したように見えるけど……あいつが自分の素性を素直に話してくれるようになって絆されたか?」

 それはいつ見た感想だ、と思いつつ、アルベラは否定せず。しかし認めるのも癪なのだと言うように、唇を小さく尖らせて返した。

「……色々……積み重なって絆されたの。五年関われば……そりゃね……。貴方と同じよ。とりあえず根は良い奴ってのは分かったの。……とりあえず今のところの話だけどね」

「俺も同列みたいに言ってくれるんだな。まあ、あいつに比べたら俺の方が、お前とは初めから大分打ち解けてたし。俺の中では圧勝だから多めに見てやるよ」

「そうね。圧勝圧勝」

(どこがどう初めから打ち解けてたって……?)

 アルベラの片手が自然とこめかみへと引き寄せられる。

「……で、中立じゃないとしたら貴方はどっち寄り?」

 ルーはくくっと笑い、さらりと答えた。

「スチュートだ」

 アルベラは頭を動かさず視線だけを上げ、眉をひそめる。

 盗み見たルーの顔は、やはりいつも通りの余裕のある緩い笑みを浮かべていた。



 ***



 茶会を済ませ自室に戻り、夕食も自室で済ませたアルベラは、借りていた本を適当に捲りながらルーとの会話を思い返していた。

 彼女は、ルーの第三王子側だという言葉を聞き、自分がどこか寂しい気持ちになった事が引っかかっていた。

 どうせ彼も第五王子側だろう、と思っていた事もあるが……

(まてまてまて。『第五王子側』ってなんだ。『彼も』ってなんだ。私だって、別に第五王子様をがっつり後援するわけじゃないし、そうそうな事が無いなら第三王子とぶつかる気だって無いし……。付き合いの長さで片寄るのは仕方無いけど、建前だけはしっかり保てよ私。自分は中立、自分は中立………………よし)

 ―――ぱたん、とアルベラは本を閉じる。

(ルーにはルーの付き合いや基準がある。誰に付こうがどう動こうが彼の自由だ。健闘を祈ろう。私には私の役割がある。頑張れ私)

 アルベラは本を眺め、ちらりと時計を見る。

(十九時過ぎてるけど……いいか)

 時計はもう少しで二十時を示すところだ。

 アルベラは外套を羽織り、借りていた本を手に取る。

 散歩代わりに本の返却でもして来よう。そう思ったのだ。

「エリー図書館に行ってくる」

「はい。ご一緒は?」

「いい。コントンも居るみたいだし」

「そうですか。では、お気をつけて」

 


 ***



 夕食以降の時間帯。

 校内は割と出歩いている者達は多い。

 息抜きに散歩をしていたり、アルベラと同じく図書館へ向かったり、馬小屋に自分の騎獣へ会いに行っていたり……寮生達の時間の使い方は其々だ。

 もっとも今は、考査前のせいか先月よりも出歩いている者は少ないようだ。

 アルベラが前世のテレビや本で見た、どこかの宮殿の大庭園を思わせるような園内を道なりに歩けば、丁度寮と図書館の中間地点に、噴水がトレードマークの広場がある。

 そこにも点々と、一人で、または友人達と、または恋人であろう相手と散歩している生徒達の姿が目に付いた。

 生徒の他にも、いつもの如く学園指定の鎧をまとった騎士が警備をしている姿。

 貴族の子供が自分の傍に護衛も付けず、身軽に出歩けるのはこの学園ならではだろう。念のため、それぞれ自衛の術はあるのだろうが、やはり園内では皆街を出歩くときよりも気を抜いているようである。

(堂々と一人で出歩ける有難さよ)

 アルベラもその恩恵を噛み締めている一人だ。

 屋敷内でも出来る限り使用人と共に居るように、と物心つく頃から父や母に言われていた事を思い出すと、その解放感は改めて身に染みた。



 ***



 受け付けに本を返すと、アルベラは所々に設置された案内を見ながら、次に借りようと思っていた神や悪魔、または神話に関する本のエリアへ向かった。考査とは関係のない、勉強に飽きた時用の気分転換用だ。

 先ほど返却したのは魔獣についての本だ。

 これも考査に関係のない物である。

 見たかったのは愚の欄だった。

 アンナたちの話を聞き、何となく興味がわいて調べてみたくなったのだ。

 本を借りて分かったのは一般的な姿や認識。

 その生成方法は話に聞いていた内容とほとんど同じことが書かれていた。

 知らない事はあまり書かれて居らず、借りたメリットと言えば姿絵が見れた事くらいだった。

 愚については、アルベラが冒険者たちと食事をした日に知った事が殆どだったらしい。

 むしろ、話で聞いた内容の方が、本よりも更に情報が濃かった。



 ―――『あんなのはただの遊びだ。自分の力を他の魔族に誇示するため、単に完成度の高い愚の制作を目指したかったため、人の苦しむ顔が純粋に好きな奴。大体はその三つだろう』

 これはあの日ガルカから聞いた、魔族が愚を作る理由だ。

 「完成度の高い愚」というのは「本来の、完成された愚は不死身である」という、魔族の間にある伝承、言い伝え、噂、のようなものがあるらしい。ガルカ的にも、炎雷の魔都的にも、実際にそんな物を魔族が作り出せるのかは怪しい話なのだという。

 それでも、その伝承を信じで愚を作り続ける魔族と言うのはいるらしく。彼等は全労力をかけて、生きている時間の大半を愚の制作に費やすのだそうだ。

 この魔族視点の内容は、アルベラが借りていた本には書かれていたなかった。

 そしてもう一つ。

 本とは関係なく、あの日聞いた話の中で、愚の話を通して知ったエリーの腕っぷしの強さもなかなか記憶に濃かった。

 彼女は過去、愚を一人で倒したことがあったらしい。

 ―――『私の場合は偶然です。旅の途中行き当たってしまったようなもよでして。別にそうしたくてそうなったわけじゃないんですよ?』

 その話をした時のエリーの笑顔は歪んでいた。

 コミュニケーション上の感情表現として作った物でない。

 それは単に表情が上手くコントロールできなかった時の歪み方で、彼女にしては珍しかった。

 ―――『本当、心底 《ろくでもない》 と思いました』

 愚を殺した瞬間に感じた心が壊れる感覚。絶望感。

 そしてそんな愚を作り上げた魔族への嫌悪。

 故郷を出てふらふらしていた彼女は、適当な旅の一団と共に近くの村や町へ同行させてもらうことも良くあった。

 それらの中で魔族に襲われることも数回あった。道中を共にした者の死。とある村で目にした、目の前で魔族に子供を生きたまま貪られた母の、嘆き狂う姿。

 ……それらの光景や感情をまざまざと思い出したエリーは、嫌忌の籠った視線をガルカに向けた。

 愚という存在は、エリーが魔族を嫌う大きな要因の一つのようだ。と、話を聞いていたアルベラには感じられた。

 愚だけでない。旅の中で魔族と関わり、積み重なり、総合して信用すべきでないと固く思うに至ったようだ。という事も、今までの関わりの中から伝わった。

 ―――『ですからお嬢様、どうか奴らを心から信用はなさらないで』

 そう言ったエリーは、瞳に鋭い光を湛えていた。

 あの日聞いた話には、更にもう一つ。人間の立場からしいてどう捉えたらいいかよく分からない話を聞いた。

 炎雷の魔徒も、過去に同時に二体作った事があったらしい。

 もうどちらも絶命しており、魔徒も今は愚への興味関心があまりないようだ。

(魔族の言う事をきかない魔族のペット……。これはこの世界固有の物かしら。それとも、あの賢者様がこの世界を壊すために撒いた『種』とやらの一つ……………………だったらな私と八郎は対処のしおうがあるかもしれないんだけど……どうなんだろう)

 魔族の言う事をきかず、人間を使い生まれ、更に人やその他の生き物を食い荒らして回るだけの生物。

 本には、愚はひたすらに死を振りまく迷惑極まりない生き物のように書かれていた。持ち合わせた感情は悲しみだけ。人の視点から感じ取れる本能は破壊のみ。

(この世界の人間から作った破壊兵器って見方をすれば、賢者様の種説有力なきがするんだよな……)



 「賢者様」「種」と言う言葉から、アルベラは芋づる式にとある集団の話も思い出す。

(頭のおかしい人達の集まり、「ドグマラ」……)

 ドグマラについて。冒険者達に知られている例のジンクスとやらは「人の多い場所で彼らの名を口にしてはいけない」というものだった。

 もしそこに彼らがいれば、名を口にした途端、彼等(ドグマラ)はそこに居る全ての人間の敵となるそうだ。

 その場に居合わせた全員が、一人の発言がもとで殺される。

 だから口にするなという事だ。

(エリーは合った事ないらしいけど、兵士や騎士達の中で噂になってて、冒険者達も知ってて、名前もついてて。……それが本当に噂通りの物なのかどうかはともかく、多分『ドグマラ』っていう何かは存在するんだろうな。噂の傾向的に良い物ではないみたいだけど)

 アルベラはラツィラスから彼の寵愛について聞いた時のことを思い出す。

(……あの子(ラツィラス)、彼等が私と同じ体質の人間の集まりだとか言ってたけど、どこから持ってきた話かしら)

 それが本当なら、その体質はあの賢者様が関わっているという事ではないだろうか。

(世界に送り込める魂は私と八郎だけとか言ってたし。ならきっと『種』的な物か? だったとして、私の役割項目には全く関わりないみたいだし)

 アルベラの学園での役割の中に「ドグマラ」と言う単語は一切でてこ無い。あるのはユリやヒーロー達に関する事柄のみだ。

 なら、『原作のアルベラ』とは関係のない話なのだろう。

(すべての種をどうにかしなくても、重い部分だけどうにかすればこの世界は後は勝手に回復してくれるみたいだし。ドグマラについては都市伝説程度に楽しんでおけばいいか。私が賢者様と再開できず、事情を聞けずでいたら興味も持ってたかもって感じだけど…………ん?)

 本棚に囲われ個室のようになった席に、ランプが灯っていて目が引かれた。

 そこに突っ伏しているのは鮮やかな赤い頭の男子生徒だ。

(ジーン)

 勉強中に寝落ちしてしまったのか、彼は自身の腕を枕にしてすっかり眠りに落ちていた。

 彼の突っ伏した丸テーブルの隅み。一冊の本が開いたまま端に追いやられていた。そのページの見覚えのある絵に、アルベラは足を止め目を凝らす。

 細いエッチングで描かれた、幾つもの人の頭部や腕、脚を生やした巨大な魔獣の姿画。

 愚だ。

 先ほどアルベラが返却した本の絵とは微妙に描かれている形は異なるが、それは確かに例の魔獣だろう。

(なんてタイムリーな)

 アルベラは暫し考え、ジーンの陣取る席へと足を一歩踏み出した。



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