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アスタッテの尻拭い ~割と乗り気な悪役転生~  作者: 物太郎
第3章 エイヴィの翼 (前編)
198/407

198、 皆の誕生日 3(スカートンの誕生日会)◆

挿絵(By みてみん)

「この度は、お招きいただきありがとうございます」

 恵みの教会の宿舎にて、今日はスカートンの誕生日会だ。

 聖堂にてシスターに声をかけ、案内された庭の奥。招かれた宿舎の入り口でユリとリドは頭を下げた。

 スカートンが気恥ずかしそうに笑い、「こちらこそ、来ていただきありがとうございます」と返す。

「どうぞ、中へ」

 二人を聖堂から案内してきたシスターが微笑み、更にこのまま目的の部屋まで二人を案内しようと足を持ち上げた。

 それをスカートンが慌てて引き留める。

「カリアさん、後は私がやりますから。あの、どうかお勤めにお戻りに。人では十分足りていますし」

 小声でそう伝えるスカートンに対し、シスターはやんわりと微笑み、通常の声の大きさで返した。

「あら、これも大事なお勤めですよ。大切な姉妹や兄弟の祝いの日をお手伝いする事も神様はお望みです。啓示がありました」

(啓示……!!)

(啓示……?!)

 神がわざわざ言葉をお伝えになるなんて、流石聖女の娘の誕生日。とユリとリドが驚き、そんな二人へスカートンは「冗談ですよ?! 啓示なんて滅多にないことですよ!」とカリアの言葉を否定する。

「カリアさん、お願いです。お付きのお二人にも申し訳が立ちませんので」

 スカートンがぐいぐいと押しながらカリアというシスターを聖堂へと押していく。

「あらあら。あの二人も楽しそうになのに」

「それはとても嬉しいですが……!」

 二人のやり取りを眺めながら、リドが「予想よりも和やかぁ」と少々呆然としながら呟いた。

 「だねぇ。良かったぁ」とユリが小さく笑い、戻ってきたスカートンが二人を宿舎の中へと案内する。



 ***



「うわぁー! 食べられるー!」

「ぐわぁぁぁぁ! まてぇぇぇぇぇ!」

 わー! きゃー! と子供たちが楽し気な声を上げた。

 子供たちに引っ張り出され、庭で行う事となった鬼ごっこ。鬼となったリドから、子供たちが夢中で逃げ回る。

 ユリは何故か「大人だからハンデ」と、一人子供を背負わされていた。

「お姉ちゃん早く早く! リドゴン来ちゃう!」

 ユリの背中で女の子が後ろを振り向き、キャッキャと笑う。

 その庭の端では、キリエとミーヴァが数人の子供達と共に花の冠づくりをしていた。

 花はミーヴァが魔術で芽吹かせたものだ。自分達の身の回りだけ成長を促し、子供たちはそこから花を摘んでキリエに渡したり、作り方の分かるものは自分で指輪を作ったりとしていた。

「ねえ、これも入れよう。スカートン様に似合いそう」

 自分では冠が作れないその子は、興味深そうにキリエの手元を見ていたのだが。先ほど「お花とって来る」とどこかへ旅立っていた。

 戻ってきた彼女が手にする、どう見ても庭に生えてそうもない種類の花にキリエとミーヴァは首を傾げた。

「わぁ。立派な花だね。どこから持ってきたの?」

「あれ」

 キリエの問いに女の子は、庭から見える誕生日会場の部屋を示す。

 部屋の中にはオードブルの置かれたテーブルの上、今手に持つ花と同じものが生けられた花瓶があった。

 「なるほど」とキリエはクスリと笑う。

「ねぇねぇ。もう一回書いてみて」

 キリエが冠を作る横で、ミーヴァが印を描いて子供たちに教えていた。

 それはただ、描いた印の線が光るというだけの物だ。

 自分が印に流した魔力、または大気中から印に集めた魔力をが可視化するための印なのだ。

 魔力の扱いの基礎練習用の印である。

 ミーヴァは自分が任された腕輪は完成させてしまったため、他の子の要望に応えて魔術や魔法の練習に付き合っていた。

「最期にここをちゃんと閉じて、後は手で触って」

 ミーヴァの指先が印に触れると印の線が白く輝く。

「ほら、手貸してみろ」

 自分ではまだ印が書けそうもない年の子は、ミーヴァの印を使って光らせる練習をしてみる。

 印に触れた子は何の反応もないそれに首を傾げた。

「わかんない」

「指先がくすぐったかったり、熱かったりしないか? 他になんか変わった感じとか」

 男の子はじっと指と地面を見つめる。

 そして首を傾げた。

「わかんない」

 「そうか」とミーヴァは苦笑した。

「もう少し大きくなったら出来るようになるかもな」

「わぁ! 光った!」

 自分で印を書いていた三人の子供達。その中の一人がやっと掴んだ感覚に嬉し気な声を上げた。

「すごーい! どおやったの?」

 まだ光らせられないでいた子が尋ねる。

「何かね、指先からさわぁーって、水が出てくる感じでね」

「水? 水が出るの?」

「水とか、空気とか……? とにかくなんか出て、流れてく感じ」

「私は集まってくる感じだったよ? 」

 そう言ったのは三人の中で一番早く印を光らせる事に成功していた子だ。

「ここら辺からね、この線に向かってぶわぁ~ってなんかが集まってくる感じ」

「集まるの? 手から出るんじゃなくて?」

「うん。手はちょっとむずむずした」

「人によって感覚は違うからな。魔力の使い方も、体の中から出すタイプと、体外から集めるタイプがいる」

 ミーヴァの説明に、子供たちは「ふーん」や「そっかー」と頷く。

「それってどっちがいいの?」

 まだ印を光らせられないでいる子が尋ねた。

「どっちもどっちだ。体の中から出すタイプも、体外の魔力を一旦体に吸収させるって校庭挟んでるだけだし。そこら辺は得手不得手だよ」

「エテフエテ?」

「得意不得意、な。練習すればどっちの方法でも魔力は使えるようになる。印を光らせながら感覚を掴むと良い」

 「ふーん」と、その子は再度土の上に描いた印に手を乗せる。だが印はうんともすんとも言わず、彼は耐え切れずに地面をパンパンと叩いた。

「全然光らないじゃん!」

 そんな少年の姿にキリエとミーヴァは苦笑する。

 印を光らせた二人は、

「きっとお祈りが足りないんだよ。お祈りしに行く?」

「ゼンギョーつもう! あと悔いを改めよう! 今までした悪い事全部告白してみ?」

 等と、冗談か本気かよく分からない事を言い少年を混乱させた。



 ***



「っはぁ~~! がきんちょどもめぇ。体力無限かぁ……?」

 宿舎の前のベンチに腰を下ろし、リドが大きく息をつく。

「私喉乾いちゃった。リドは?」

「私もぉー」

 「だよね。飲み物貰ってこようか」とユリが腰を浮かせたところ、丁度宿舎から五人の人物が出てきた所だった。

 出てきたのは二人のご令嬢と、スカートンとその後ろに二人のシスター。

「お二人共、わざわざ足を運んで頂きありがとうございました」

 スカートンがほほ笑む相手はルーラとラヴィだ。

「いいえ、こちらこそ……あら、」

 ルーラが、近くのベンチに腰かけていた二人のくたくたな姿を見て微笑む。二人の特待生と目が合い、彼女の方から手を振った。

 リドが慌てて居住まいを正し会釈する。ユリも慌てて会釈し返した。

 ラヴィは二人を見ると、興味がなさそうに「ふん」と顔を背けた。彼女がユリとリドに向ける態度は終始そんなものだったので、リドは「分かってた」と苦笑を漏らす。

 ラヴィはルーラの体を盾にしながらスカートンへ言葉を向ける。

「あの女が居なかった分楽しめたかしら。皆さま、引き続き楽しんで」

「はい。お気を付けてお帰り下さい。また学園で」

 「はい、また学園で」とはらはらと手を振り、二人はその場を後にした。

 ルーラの後ろ、ラヴィは不貞腐れるように「もう……殿下がいらっしゃるまで待ちたかったのに」と小さく呟いた。

 ルーラが「残念でしたね」と揶揄うように笑った。

 ラヴィは父から、考査について厳いお言葉の書かれた手紙を受け取っているのだ。

 せめて三分の一の上側に入る様に。もし三分の一以下であれば、前期休暇に予定していた旅行や茶会は日数を減らすことにする、と。

 だから今日のこの会も早めの退散で考査に備えようとなったのだ。

「お二人もありがとうございます。こんなに遊んで頂いて。あ、飲み物持って来ましょうか?」

「いえいえ。お気遣いなく! 私達も一旦中に行こうかなって思っていたところ何で」

 リドがぶんぶんと手を振った。

 その言葉に、二人の回復を待っていた子供たちがブーイングを上げる。

「えー! もっと遊ぶんじゃないのー?」

 「みんな……」と言いかけたスカートンの裾が、ツンツンと引っ張られる。

 スカートンが視線を落とせば、子供たちがニコリと笑い、花冠や花の腕輪、指輪を差し出した。

「スカートン様、おめでとう!」

「わぁ、ありがとう」

 スカートンはくすぐったそうに笑い、それらを身に付ける。隅から見ていたキリエとミーヴァに手を振ると、「あ」と気づいたように口に手を当てた。彼女はユリとリドに絡まる子供達へ微笑みかける。

「ほら、あっちのお兄さんたちはまだ元気」

 示したのはキリエやミーヴァ達だ。

 彼らはギクリと身を揺らした。

 生贄のようなってしまったが、スカートンには悪気は全くなかった。ただユリとリドを休ませてあげたいという思いが先行してしまった。

「よぉーしあっちだー!」

「めがねが弱っちそうだ! めがねから倒すぞー!」

 わー、きゃー、と声を上げて彼等へ走っていく子供達。

「フォルゴートお兄さんとバスチャランお兄さんですよ」

 と、スカートンと共に客人の見送りに来ていたシスターの注意が飛ぶ。

(お二人さん……ご愁傷様……)

 ユリとリドは心のなかで手を合わせた。



 子供達の手により誕生日会仕様に飾り付けられた部屋。

 貴族より庶民寄りな会の装いを、招待を受けた友人たちは気兼ねなく楽しんでいた。

 テーブルを囲い優雅なお茶会をたしなんでいるのは大伯家令嬢ラン・ウェンディと中伯家令嬢サリーナ・テリアと、二人と中等部から仲のいい中伯家令嬢アプル・マクドナルと、男爵家令嬢ルトシャ・モースだ。

 談笑していた彼女らだが、サリーナが「そういえば」と流れと関係なく思い出したような声を上げる。

「ねえ、清めの教会の古い宿舎の話知ってる?」

「清めの?」とアプルがカップから口を話ながら疑問符を浮かべた。

「そうそう。お化けが出るっていう」

「あ、私もその話知ってます!」

 部屋の入口の方から声が上がり、四人の視線がそちらへ向かう。

 外で遊んでいたユリとリドが、スカートン共に戻ってきたのだ。

「お二人共お疲れ様です」と、外での頑張りを室内から見ていた皆がねぎらう。

 二人は控えていたシスターからすすめられるがまま、空いてる席に腰かけてお嬢様方のお茶会にお邪魔させていただく。

 庭で遊ぶ前に、既に自己紹介や挨拶は済ませているので顔も名前も皆知った仲だ。

 加わった特待生達をお嬢様方はすんなりと受け入れ話題へと戻った。

 「清めの宿舎?」とユリがリドを見ると、「知らない? お化けの噂」と返された。

「ロイッタさんはその宿舎は見たことあって?」と楽しそうにサリーナが小さく身を乗り出す。

 スカートンも聞いたことのある話に興味深そうに耳を傾ける。

 友人たちの話に頷いたり、答えたり。彼女が頭を動かすたびに、植物を象った金細工の髪飾りがしゃらりと揺れた。

 それは一足先に開いた祝いの席でアルベラがスカートンに送ったものだ。

 頭の後ろに感じた小さな音に、スカートンは気を使って今日この場を欠席した友人の顔を思い浮かべる。

(アルベラも今頃楽しんでるかしら?)

 今日は考査の勉強と息抜きを繰り返しながらだらだら過ごすのだ、と言っていた彼女。

 その希望の通り、今日という日を満喫してくれてたらいいな、とスカートンは今目の前にいる友人たちとの時間を甘いお菓子と紅茶と共に味わう。



 ***



「んで、お前は仲のいいお友達との会を休む理由に俺を使ったと」

 どかりと、椅子にふんぞり返る様に腰かけたルーが、教科書片手にコーヒーを口に運ぶ。

「仕方ないじゃない。私とスカートンが仲いいのは皆さんご周知だろうし。彼女の誕生日会不参加の私が、その時間に街やら学園内で遊んだりだらけていたりするのを見られたら不味いでしょ、私の評判が」

(私がいたらスカートンはユリと話しずらいだろうし。私もユリにどう接したらいいか分からないし)

「おいおい。そこは―――」

「『友との会を休んでもルー様とお時間を共にしたかったの』。かしら?」

 アルベラはノートに目を落としたまま微笑む。

「それ後でもう一回、膝の上で言ってくれるか?」

 ルーは教科書から顔を上げて四角テーブルの正面に座るお嬢様に要求するが、返されたのは無言だった。



 二人が居るのは学園で貸し出している部屋の一室だ。

 会議室として使用される畏まった内装のその部屋で、二人はテーブルの上に勉強道具を広げ試験勉強に勤しんでいた。

 二人の茶会は、実はもう五回目となる。

 と言っても、休憩中の四~五分席を共にしたのも合わせての話だ。

 まともに約束を交わし時間を取って行ったのは一回目と四回目、そして今回の三回だ。

 一回目は庭での件を離すという名目で、茶会用の貸し出し部屋でお茶。

 しかしラツィラスに口留めされたらしく「すまん、話せない!」と言われ普通に世間話をして終わった。といってもラツィラスの誕生日以外でちゃんと顔を合わせたのは学園で再開してから。

 なぜ仮面をかぶってたのか。何故身の上を秘密にしていたのか、留学先はどんなところで、どんな学校だったか等、アルベラが聞きたかった事もそれなりにあったので話は尽きなかった。

 二回目と三回目は休憩中に通りがかり、相手の席に通りがかった側が座って短い時間同席した。

 ちなみにその時は何の授業を受けてたか、次は何の授業かと言うたわいもなく手短に終えられる話をした。

 四回目は休息日の午後ルーの部屋で。

 アルベラがラツィラスから兄弟の話を聞いた後の事もあり、その事もルーには伝っていた。

 「庭での話に関する事は本人から聞いたんだってな」と、一回目の茶会で話すはずだった内容は省かれた。

 代わりに話題は第三王子の誕生会と、その日の昼食に薬が盛られていた事。その時同席したラツィラスやジーンから聞いたエイプリル家の話等になった。

「俺も盛られた盛られたぁ」とルーはケラケラと笑っていた。



『いやぁ。女から盛られた薬の美味い事。隅に置けない男の特権だな』

『殿下はあまり好きなお味ではないようでしたが』

 すました顔でアルベラがそう言うと「あいつもまだまだおこちゃまだなぁ」とルーがいい、アルベラは「こふっ」と口に紅茶を運んでいたカップの中、小さく音を立ててしまった。

(あれをおこちゃまと言い切って笑い飛ばすか……)

 とアルベラは従弟様の余裕に感心した。



 そして今回の五回目。

 アルベラが事前にルーに手紙を出し、時間を作ってもらっていたのだ。

 始めの手紙で書いた内容はこうだ。

 ―――この日、よろしければお茶会しない? 部屋の予約はこちらでします。大した話もないけど、会話の内容等は他言無用でお願いします。

 即OKの返事が来て、アルベラは不安になりつつも念を押して「用事を休む言い訳に使わせて欲しいだけだかからね?」と送った。

 「分かったって。任せろ」と短い返事が来た。

(……)

 めをつむり、便箋を前に数秒黙り込み……アルベラは思考を放棄した。

(よし。ルーもこう言ってるんだしこれで安心ね)

 そして今日を迎え、会議室の中に入って目にした本来ならここにあるはずのない天蓋付きのベッドや部屋を飾り立てる真っ赤な花々や焚かれたお香。アルベラはひきや呆れを通り越して感動さえ覚えつつ、彼の大掛かりなボケの一切を無視して、テーブルに向かい無言で試験勉強を始めたのだった。



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