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アスタッテの尻拭い ~割と乗り気な悪役転生~  作者: 物太郎
第3章 エイヴィの翼 (前編)
178/411

178、学園の日々 8(彼等と茶会、部の立ち上げ)◆

挿絵(By みてみん)



 今週最後の平日。

 アルベラは午前の魔術の授業をさぼって食堂のテラスにいた。 

 テーブルの上にはコーヒーともう一つ、開かれた小包。その横にはその包の封をしていたのだろう可愛らしいリボンが波打って置かれていた。

 包みの中にはその店の売りである焼き菓子と、宝石のような塗装のされた小さな丸いチョコレートが幾つか入っている。

 彼女はそれを皿に移す等の体裁を整える工程は踏まず直接手に取り口に運ぶ。

 口の中の甘味が溶けてなくなるとともにコーヒーを口に含んだ。

「おいしい……」

 雪除けと温暖の魔術の内から雪の降る庭と聖堂を眺め、アルベラはぽつりと呟く。

 今日の魔術の授業は聖堂内で行われていた。内に施された魔術や装飾の意味を実際に見ながら学ぶらしい。

 体調が悪くなるのを分かっているのと「気が乗らない」という大きな理由から、代理としてエリーに出てもらっている。

(聖堂か……)

 ふと友人の顔が浮かび、アルベラはため息をついた。

 両腕をテーブルの上に組み、そこに顔を埋める。

「はぁ……何であんた達は人が悲しむ顔を純粋に楽しめるのか」

「何で貴様にはそれが出来ない。いつまでうじうじしている気だ、下らない」

 アルベラの正面では、ガルカが偉そうに脚を組み見下すような視線を投げかけていた。

「あの臭いメス餓鬼、はっきりしない態度をとっているが貴様と話したがっているぞ。水に流していつも通りじゃれ合ったらどうだ」

「あんたそれスカートンの事言ってるなら口に溶解液突っ込むわよ。話たがってるって情報は有難いけど……」

 腕の中から片目を覗かせ、アルベラはガルカを睨みつける。

「ハッ。そうだそいつの事だ。やれるものならやってみるがいい。どうせ無理だろうがな」

 「可愛くない……」と彼女の片目はまた腕の中へ伏せられた。

 授業中で辺りには全く生徒の姿が無かった。

 たまに数人見るも、彼等もサボりなのか用合って休んでいるのか、アルベラには分からない。

 誰もいないと思っているアルベラと異なり、ガルカはずっと人の気配を感じていた。感じるだけではない。見ようと思えば彼らの姿も見ることが出来た。

 自分達より先に来ていた先客だ。立場上身を隠しているのだろう。

(隠蔽の魔術……。コイツには十分な質だな……)

 まったく気づかないアルベラを、ガルカは「間抜けなものだ」と口にしてあざ笑った。言葉の意味を理解してないアルベラからは「うるさいー」とくぐもった声が返る。

 ガルカはそちらから動きを感じて顔を上げる。

 近くの席に居た二人が姿を現しこちらへ向かってきたのをみて目を細めた。

 「客だぞ」と小声で伝えられ、アルベラは腕に顔を埋めたまま「なに?」と答える。

「人の悲しむ顔を楽しむ、か……。相手が悲しむことで自分に利益があるなら、それで頭を満たせばいいんじゃない?」

「流石は殿下。捻くれた素敵なお答えですこ……と」

 声のトーンや雰囲気、咄嗟に見えた金髪と微笑みに、アルベラは反射的に嫌味を返していた。

 顔をあげながらそう返し、二人の人物をちゃんと視界にとらえて目を丸くする。

 そこに居たのは予想していた彼等ではなかった。視界の端に「馬鹿め」とガルカが目を細めてあざ笑ったのが見えた。

「こんにちは。ディオール嬢。……ラツと間違えたかな? 噂通り仲が良いんだね」

 くすくすと笑う「殿下」にアルベラは沈黙し、数秒置いて「申し訳ございません……」と頭を下げた。彼は笑いながら「いえいえ」と返す。



「お友達と喧嘩?」

「……ええ、まあ」

 アルベラは苦い表情を浮かべ、「お恥かしい所を……申し訳ありませんでした」とまた謝罪の言葉を口にする。

 バツが悪そうな彼女の姿に、ルーディンの斜め後ろに控えるガーロンは「か、可愛らしい……!」と心の中声を上げる。そこに少し大きめな舌打ちが聞こえ、彼は公爵ご令嬢の使用人へと視線を向けた。先ほどまでぞんざいな態度で主と会話していたその青年の使用人は、改めたように背筋を伸ばし礼儀正しい表情を浮かべていた。

 「舌打ちが聞こえたと思ったが……」、とガーロンが考えているとその使用人は口の端を吊り上げた。その瞬間を確かに目に止め、彼は眉を寄せた。

 自分と同じ年頃の使用人へ、ガーロンの中に僅かに対抗心の火が灯る。



(舌打ち?)

(舌打ち?)

 アルベラとルーディンはニコニコと対面したまま、聞こえた音に疑問符を浮かべていた。

「ルーディン様。初めまして」

「初めまして、アルベラ・ディオール嬢」

 彼は自己紹介はいらないとばかりに本人より先にフルネームを述べる。

「よろしければ席をご一緒しても? (ガーロン)もいいかな?」

「ええ、勿論」

 アルベラ、ルーディン、ガルカの視線を受け、ガーロンが「ありがとうございます」と頭を下げた。

 何の準備もできてない状態での対面にアルベラは若干の動揺をしつつ「お二人もよろしければ」と頂き物の菓子をすすめておく。

 正直なところ、彼女の中には彼らに対する個人的な興味がかなりあった。

 第三と第四王子様が同じ学園に来た以上、公爵家である自分は関わりを完璧に絶つことは不可能なはずだ。……多分。

 そのように考えていた。

 同学年だし少なくと第四とは何かしらの関わりは出てくるだろう。その前には挨拶等で軽く接触し、相手の大まかな人柄なり空気なりを自分の目で確認しておきたかった。

(それがまさか、こんな急な……)

「ごめんね。こんな形で挨拶する事になって」

 第四王子様の言葉に、急いで「ご令嬢の皮」を被ってアルベラはゆるりと首を振った。

「いえ。こちらこそ申し訳ございません。ちゃんとお伺いせず」

(といっても。形式上のご挨拶お伺いのお手紙は初日に出してから返事待ちの状態だったわけで……)

 アルベラ同様、ルーディンも同じものを思い浮かべ苦笑を浮かべた。

「挨拶のタイミングに悩んでてね。結局二週間も経っちゃったわけだけど……。こんな形でもお会いできて良かったよ」

「いいえ。お気遣い頂き感謝いたします。私もどんな形であれ、ご挨拶できて嬉しいですわ」

 「良かった」と彼は「彼」にそっくりな笑みを浮かべる。

「それで、お友達とは大丈夫? 仲直りできそうかい?」

「ええ。多分……。今度、ちゃんとお話ししてみようと思います」

 「そっか。頑張って」と彼は柔らかく微笑む。

(顔と声、それと雰囲気までそっくりか。……けど、なんていうかあちら程輝かしくはないというか……目に痛い成分がないというか……毒気? が無い気も。……瞳のせい?)

 あまりじっくり見ないよう気を付けながら、自然な頻度でルーディンと目を合わせるようにする。

「ディオール嬢は今日の魔術学はサボり?」

「ええ……、ばれてしまいましたね。ルーディン様は?」

「……実は僕も」

 彼は恥ずかしそうに笑った。

 アルベラの脳裏に祝福の日のことが過る。

 自分が出席したあの日、聖堂にはルーディンはいなかった。この間聞いた「同じ目」という言葉が思い浮かぶ。

(『聖堂が苦手ですか?』なんて、流石にこの流れで出したら露骨すぎるな)

 どう話を切り出すか考えていると、あちらから「なんで授業をさぼったのか、聞いてもいいかな?」と尋ねられた。

 彼の言葉と表情に、「あちらの殿下」と話しているような気分になる。つい「その話三日前にしましたよね」という言葉が頭に浮かんだ。

「朝、少し体調が悪かったんです。それで念のため。……祝福の時に見たきりなんですが、こちらの聖堂はとても立派ですね。街中にある物より手が込んでいて、手入れも行き届いていて流石と思いました」

(うーん。この話のもってき方は無理やりかな……)

 どうだろう? とルーディンの顔を見ると、彼は「そっか、祝福か」と微笑んで庭の奥に見える聖堂の屋根へ目を向けていた。

「ディオール嬢は祝福に出たんだね」

「はい。三聖女が揃っての歌は普段聖堂で聞く聖歌より圧巻でした。それはもう非にならない位素晴らしくて美しくて……」

 忌々しいくらいに強烈で、と言いそうになり口を閉じる。

 普段聖堂に行く事のないアルベラが思い浮かべたのはスカートンの部屋から聞く律歌や聖歌だ。きっとあの祝福は、聖堂の外から漏れ聞いたとしても苦痛を伴う気がする。

(……本当。恐ろしい歌だった)

 アルベラは二週間前の苦痛の記憶に遠い目をする。

「そっか。そんなに良かったんだ。僕はあの日、用があって欠席しちゃったからな……。祝福を受けられなかったのは残念だよ」

 憂いの表情を浮かべる主に、ガーロンが「また機会はありますよ」とほほ笑む。

 そんな彼をアルベラはちらりと見上げた。

(殿下とギャッジさんみたい)

 アルベラの視線に気づいたガーロンは赤面し、彼の顔と心音にガルカはまた舌を打った。



(『授業の半分まで食い込む用があった』か……。なんの用事かは分からないけど、第四王子の体質については殆ど黒塗りしてる自分がいるんだよな……)

 二人が去っていくのを見届け、アルベラは息をついた。

 多分……いや、確実に、黒塗りの原因はラツィラスから彼を怪しむ言葉を聞いてしまったからだ。

(何かない限り中立でいるつもりだけど……私は大分、第五王子様に肩入れしすぎてる……)

 「付き合いの長さ的に仕方ない」という言葉も浮かんだが、どこか言い訳じみて感じた。

「扱いやすい奴だ」

 ガルカがくつりと笑う。

「誰が?」

「あの騎士だ。挑発に乗り安い。素直で扱いやすい人間だな。ああいう人間は剣や魔力が無ければ魔族の格好の餌食だ」

「王子様の護衛なんだから、変なことしないでよ」

 「仰せのままに」というあっさりとした返答に、信頼にかける言葉だとアルベラは呆れる。

「そういえばあの王子様の近くは大丈夫なのね」

「ああ。あれは神臭くない。寵愛や加護の類も全く無いからな。楽なものだ」

「そう」

(天から授かる物にあからさまな差があるとか……そりゃ色々(こじ)れるよな……。まあそれは兄弟間の話だけでもないか……。今の私だって……)

 アルベラは前世と今の自分を比べながらぼんやりと聖堂を眺めた。

 今の自分は、前世の自分的には嫉妬の対象だ。その嫉妬を自覚し、自己嫌悪し、更に生に投げやりになる。投げやりになり現状が停滞する事で周囲との差がさらに付きその後も劣等感や悔いが生まれ、そして更に投げやりに……。見事に負のスパイラルが完成していた。

(自業自得だ)

 アルベラは懐かしさに目を細め、ほうっと息を吐く。

 そして今の自分の学園に入ってからのこの短い期間を振り返った。

(友達と距離が縮まって少し嬉しく思ったり、(もつ)れて悩んだり……)

「ちゃっかり青春してるよな……」

 「は?」とガルカが興味薄の声を返す。

「何も。楽しいなぁ、って話」

 吐き出すようにそう言って「この生が楽しいと感じられるのは前世の反省を生かして努力しているからか、美人で金持ちだからか。一体どちらだろうね」と自分に問うた。

 自虐の籠った薄笑いを浮かべ、ふと思う。

(……やっぱり。こういう所は前と同じだ。正直ちょっと落ち着く。私、あの頃は認められなかったけど、自分のひねくれた部分そんなに嫌いじゃなかったのか……。はぁ……本当今以上に自分に素直じゃなかった……なんだろう。生まれのせい……遺伝的な性格とか、環境の違い……)

 見た目が引き寄せた環境と、そこから培った物も多いのでは……。という考えが浮かび「ルックス至上主義」「精神衛生の敵」という言葉がずるりと思考の奥から這い出てきた。

 彼女は何とも言えない不快な感情を誤魔化すように冷めきった紅茶をグビッと飲み干した。

(くそ!! 細かいことなんて知るか!! 生きる!!)

 カチャン! とカップとソーサーが音を上げ、「行儀が悪いぞ」とガルカから指摘の声が上がる。



 ***



 後の休息日を翌日に控えた放課後。

 キリエは兄に手伝いを頼まれて放課後の校内を教員棟に向け歩いていた。

 学園内には部活動に励む生徒達の掛け声や楽器の音、独特な爆発音のようなものが上がっていた。

 通り過ぎる廊下の掲示板は部員勧誘のチラシで埋め尽くされていた。メジャーなスポーツから、言葉の意味からよく分からない部活、そもそも文字の解読が不可能な部活など、色々と貼られている。

 ―――げほっ、ごほっ

 どこかから咳き込む声が聞こえた。

 まったく人の気配がなかったのに、突然聞こえた人の立てる音にキリエは脚を止める。

 何だろう。

 首を傾げ、今通った場所をもう一度通り直してみる。

「……だ……………ってろ?」

(聞こえた。……ここら辺かな)

 音が聞こえた場所に立つ。

「おい。これとかどうだ?」

 はっきりと声が聞こえた。

 空に見える教室からだ。

 カーテンも何もない。廊下から教室内が見えるが、そこには誰もいない。

(目隠し系の魔術……)

 それと防音の魔術か何か。音がこの場所だけ聞こえるは、きっと魔術に綻びがあるからだ。

 キリエはじっとその部屋を見つめた後、通り過ぎる。



(キリエ・バスチャラン。……駄目だったか)

 上の服をはぎ取られ、半裸で部屋の中央に立たされていた男子生徒は残念そうに視線を落とす。ここに連れてこられた際に、ばれないようにこの部屋の魔術に綻びを作ったのだ。

「びっくりした。ばれたのかと思いました」

 椅子に座る二人の女生徒が上品に笑う。

「本当ね。彼、一年生かしら? あなたのお友達?」

 上級生に囲まれたトミタ・トシオは首を振る。

「そりゃそうだろう。トミタの初の友達は俺達だもんな」

 トシオの肩に手を乗せ、大柄な男子生徒が楽しそうに笑う。

 彼に殴られた腹部がズキリと痛み、トシオは表情を歪める。

(……どこにでもこういう奴っているんだな。こんなのの下に将来就かないといけないのかな……はぁ……。入学したばっかだけど退学したい……)

「俺これやりたいんだけど」

「ははは。これは駄目だって。治すの大変だろ」

 机の上で分厚い本を開き、二人の男子生徒が笑い合っていた。付箋を付けたページを先ほどからめくっては、その中から目ぼしい魔術を選んでいた。

「なあ、これとか丁度いいだろ。難易度と言い程度と言い」

「おお。いいね」

「じゃあ誰からいく?」

「はいはい! 俺から」

 魔術によく使用される蝋石を床に走らせ、陣を描いた男子生徒がそこに両手をついて魔力を注ぎ込む。

 陣が輝き、ふわりと風を起こした。

 ―――ガラッ

 教室の扉が開く。

「―――?!」

 室内の面々がギクリと身を揺らした。

「トシオくん?」

 部屋に入ってきた人物が疑問形で半裸の彼の名を呼ぶ。

「……え。だれ……。ていうか何で半裸……」

 それは自分もなのだが、筋肉隆々のテカテカの誰かにトシオは一歩身を引いた。

 いや。だがよく見れば筋肉に埋まったような頭部には見覚えがあった。黄緑色に黄色のメッシュの髪。

「あ、あれ。お前……」

「先輩方」

「ヘ、ヘイ?!」

 五人の中で一番ガタイのいい、腕に自信があるだろう男子生徒が裏返った声を上げる。

「俺、彼に用があって。借りてっていいですか?」

「は……はぁ、はい! どうぞ!」

「服は?」

「はい! こ、ここに!」

 本を開いていた生徒が、トシオの服を渡す。

「どうも」

 魔法で筋肉を肥大化させたキリエは、服を受け取りトシオへ渡す。

 室内を見回すと、女生徒たちは扇子で顔を隠していた。

(まあ、兄さんが見てるからいいか)

 キリエは窓の外の小鳥に目をやる。


 

「やあキリエ。お疲れ」

 兄のザッヘルマの部屋に着くと、キリエとトシオは温かいコーヒーを勧められた。

 戻ってくる際に魔法を解いていたキリエは、もう「いつも通りのキリエ」だ。

「突然鳥が入り込んできたから何かとおもったよ」

 兄が笑い、鳥が持ってきた陣の書かれた紙をキリエに返す。その机の上には生徒名簿と五人の名前が書かれた紙が置かれていた。

「ごめん兄さん。けどちゃんと見えてたようで良かった」

「一応な。陣の質が良かったおかげだな。それミーヴァ君が書いたんだろう」

 キリエは苦笑し「うん」と頷く。

 「何かあった時に便利だ」と、中等部の頃にミーヴァが書いて教えてくれたのだ。動物に好かれるキリエ向きの、小動物の目を使った望遠の魔術だ。

「彼等には厳重に注意しておくよ。数日指導かな。どうするかはキビシ先生が決めるだろう。ちょっと待ってろ。……ああ。待ってなくて良いか。頼んでた作業しててくれ。本格的なのは後でな。僕は報告してくるよ」

 ザッヘルマが席を立つ。

 キリエは今度の魔獣学で使用するのであろう道具類を見て、メモに会った内容をトシオと共に手を付けていく。

「あの、バスチャラン様。ありがとうございました」

「キリエでいいよ。そっちの方が短いし呼びやすいでしょ。トシオ……えーと、トミタ君。ミーヴァが君の事話してたよ、昔の魔術を良く調べてる、応用の仕方が面白いって」

 キリエの人のいい笑みに、トシオは照れながら「ど、どうも」と小さく返す。

「昔の魔術の本しか身の回りに無かっただけなんです……。あの……キ、キリエ様。さっき先生の言ってた本格的なのって?」

「ああ。温室に行って魔獣を探すんだ。小さい奴でさ、足が速い上に空も飛べるから捕まえるのが大変みたいで。トシオ君は無理に付き合わなくて大丈夫だよ。殆どタダ働きだし」

「いえ。僕も手伝います。その……気になりますし……」

 道具をまとめつつ、トシオはチラチラと気になる様にキリエを見る。

 「どうかした?」と聞かれ、彼は遠慮気味に切り出した。

「あの。さっきのは魔法ですか? 凄い体が大きくなってたあ れ……?!」

 トシオはぎくりと肩を揺らした。キリエが嬉し気に瞳を輝かせ、身を乗り出していたのだ。

「びっくりした?! 凄いでしょ! あれ、俺の自慢の魔法なんだ!!」

「ま、魔法……やっぱり……」

「そう! 最近失敗無く安定して展開できるようになってきたんだ。お母様とかミーヴァは気持ち悪いとかいうんだけど」 

 「気持ち悪い……」とトシオは繰り返し、フルフルと肩を震わせた。

「トシオくん……?」

「そ、そんな事ないです! 全然気持ち悪くないです!」

 トシオは声を上げ、ハッと口に手を当てる。

「僕は、あの……かっこいいと思いました! 凄い努力を感じたっていうか」

「ほ、本当……?」

「は、はい! 嘘じゃないです! かっこよかったです!! あの、もしかして毎日トレーニングとかされてるんですか? 普通の体でやったって、幾ら魔法とはいえあんな綺麗に膨らむはずないですもん」

「分かる?! そう! そうなんだよ!」

「わ、分かりますよ!!! 身体強化の魔術だって体の動かし方知らなかったり部位への意識が足りなかったりすると、魔力の注ぎ込みに偏りが出たりしますし!!」

 キリエとトシオは意気投合した様に手を握った。

「あの、僕もそのトレーニングご一緒させていただけませんか? 全然、ずっとひょろひょろで……食べても動いても細身な自分の体に嫌気がさしてたんです。なんとかしたいのにどうにもできなくて……」

「うん! 是非やろう! そうだ。部活動どうしようか考えてたんだ。折角なら何か入りたいなって。体鍛える系のに入りたかったんだけど良いのが無くて。俺、大会出たり競ったりしたいわけじゃないしさ。この際二人で『トレーニング部』立ち上げない?」

「……ぼ、僕と? 良いんですか?」

「うん! 是非! 後で兄さんに部活の立ち上げについて聞いてみよう」

「は、はい!」

 キリエは嬉しそうにはにかみ、トシオは瞳をキラキラと輝かせた。



 トレーニング部、第一代目結成の感動的な瞬間だった。



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