162、お爺様の試験 2(聖女イベントと不穏な忠告)
(うん?)
一瞬小さく身を引いた彼に、アルベラは首を傾げる。
彼女の肩に乗っていた髪がさらりと流れ、その仕草をも、彼の胸に深く突き刺さっていた。
(美しい……そして、可愛らしい……!!)
ガーロンは「うっ」と零しながら、熱を帯びた顔を隠そうと片腕を持ち上げる。
「あの、」
アルベラは持っていた紙袋を小さく揺らせて見せた。
「こちらの荷物、貴方のだと思ったのですが違いました?」
「……あ、いえ。はい。私の物です」
紙袋を受け取ろうとした彼の指先がアルベラの手に触れる。彼はまた小さく身を揺らす。
すぐに気を取り直し、アルベラから紙袋を受け取った。
「ありがとう、ございます……」
どぎまぎとした返答だ。
(……恥ずかしがってる? ……なーんて、訓練されてる王子様の護衛にあるはずないか。まさか……警戒されてるなんてこと……)
『……アルベラは遠慮なく、彼等と仲良くしてね』
あの日の王子様の言葉が頭を過り、第三第四王子等に何かあるのではと、つい深読みしてしまう。
でなくても成り上がりの公爵組と言うのは、王族公爵組と違い、第二、第三、第四王子との関わりが少ない。特に第三は顕著で、父や母も滅多に見ないと言っていた。
どういう理由で功績組が距離をとられているのかは知らない。だが、もしその理由がどちらかに都合が悪い物だと仮定したら。
(第四王子の護衛である彼が、それらの事情と私の素性を知って、警戒していてもおかしくない……まあ、仮の話だし変に決めつけちゃ駄目だ。笑顔笑顔)
「お礼を言うのはこちらです。あの、確かルーディン殿下のお付きのガーロン様でよろしかったかしら?」
「わ、私の事をご存じでしたか」
「はい。魔法の授業でルーディン様と同じクラスに居ましたから。名前は友人たちが噂していたのを聞ききまして」
「噂?」
「ええ。硬派で素敵な騎士様だと、盛り上がっておりましたわ」
「硬派で、素敵……。それはなんと言うか……自分が聞くと恥ずかしい物ですね……」
彼が頬を染め視線を落とすのを見て、アルベラはクスクスと笑う。
ガーロンの顔が更に赤くなった。
(あれ? 普通に恥ずかしがって見える……)
「学生ではなく、護衛としてご一緒しているとも聞きました。授業をご一緒に受けてるなんて、お仕事熱心なんですね」
「い、いえ。ルーディン様と授業を回る事自体は、私も楽しんでやっていますから。……あの、確かそちらはディオール公爵のお嬢様だったと思うのですが。お間違いないでしょうか?」
アルベラは口では「あら」と驚いたように、頭の中では「やっぱり知ってたか」と呟く。
彼女は改めて、服を小さくつまみ上げてあいさつする。
「アルベラ・ディオールと申します。そちらも、私の事はご存じでしたか」
「はい。失礼のない様に、出来るだけ貴族の方々の名前と特徴を覚えておくよう、主に言われていますから。……ですが、お恥かしい事にまだ顔と名前が一致していないのです」
(まさか、実物がこんなに素敵な方だとは……。誰だあのリスト作った奴。あんな悪人みたいな顔写真同封しやがって)
ガーロンは記憶の中の意地悪そうなご令嬢の写真を思い出し、その写真を準備したものを呪う。
「いいえ。ちゃんと当ててらしたもの。凄いと思いますわ。私も、ガーロン様のお名前をお聞きしてよろしいかしら?」
自分の紹介がまだだったと、ガーロンは慌てたように背筋を伸ばす。
「失礼いたしました。私はガーロン・ベイリランと申します。以後、お見知りおきを」
「ではベイリラン様とお呼びした方が良かったかしら?」とアルベラが口元に手を当てる。
「い、いえ。ガーロンで……いいです」
「そうですか。では私もアルベラで良ろしいですわ。ガーロン様は……」
どこの出身か、いつから第四王子のお付きをしているのか、という疑問がアルベラの頭に浮かんだが、彼の紙袋を思い出し言葉を切る。
「……ガーロン様は、お使いの途中か何かでしょうか?」
本人もすっかり忘れていたのか、思い出したように自分の紙袋を見下ろした。その口から「あ、」という言葉が漏れる。
「申し訳ありません。実はそうでして」
「でしたら、早く帰った方がよろしいかしら? お礼と、もう少しお話ししてみたいと思いましたが」
「いいえ、私にお礼など。お気持ちだけで十分です」
「そうですか? ……あら?」
アルベラの視線の先、適当な木箱の上に腰かけ、こちらの様子を見ているガルカの姿があった。
ガーロンが不思議そうにアルベラの視線の先を追う。そこに使用人服の青年を見つけ、彼の視線がそこで止まる。
「私のお付きが戻ってきたみたいです」
「……そうでしたか。では、私がいなくなっても安心ですね」
「ええ、ひとまず。本当にありがとうございました」
くすりと笑う彼女に、ガーロンは間をおいて小さく口を開く。
「……あの、ですが」
「……?」
彼は、固く低い声を絞り出す。
「アルベラ様がよろしければ、お話しの方はまた……したい……次第です」
「ええ、もちろん」
柔らかく微笑むご令嬢に、青年の表情は一瞬嬉しげに輝く。
安心したように「良かった」と小さく呟くと、彼はいつものきりりとした表情に戻った。
「で、では。私はこれで」
「ええ。お気をつけて」
(意外ね。もっと軽薄な感じかと思ってたけど、予想より感情豊かというか……普通に人間らしいというか……)
去っていく彼の背を見送り、アルベラは「余計よくわかんなくなったなぁ」とぼやいた。
アルベラの視線の先、ガーロンの歩調が徐々にゆっくりとしたものへと変わり、やがて止まった。何かを思い直したように、彼はアルベラを振り返ると、決心したかのような顔で歩調を速く戻ってくる。
「……あ、あの?」
目の前で難しい顔をし、じっと佇む彼に、アルベラは圧迫感を覚えた。
「アルベラ様は……」
「はぁ」
「ラツィラス殿下と、仲がよろしいのでしょうか?」
(殿下?)
「……仲は、悪くはないかと。普通にご友人と言った感じでして。……多分」
(彼の言動に裏がなくてそのまま受け取って良いなら『多分』)
ガーロンは眉間にしわを寄せ、分かりやすく険しい表情となる。
「アルベラ様、無作法をお許しください……ですが、どうしても」
「え? え、あの」
ガーロンは突然片膝をつき、首を垂れた。慌てるアルベラと、仰々しい彼の姿に、道中の人々の目が集まる。
ガーロンは気にせず、アルベラにだけ聞こえる声量で言葉を続ける。
「あの方は、見た目こそルーディン様のようにお優しく美しい相貌をしておりますが……本気になれば、人の心を操って死に追いやる事もできる危険な人物です」
「は、……えぇ?」
彼は静かに立ち上がり、困った様子のご令嬢を見下ろした。大事な物を労わるように目を細める。
「貴女のような方が傷つく姿は見たくありません……できるだけ、お関わり合いにならない方がよろしいかと……どうかお気をつけください」
(……んな?!)
「では、失礼いたします」
(んな?! んな?!)
急ぐように走り去っていく彼の背を見つめ、アルベラは心の中で「おおおおおおい!!」と叫ぶ。
(最後になんて爆弾投下していきやがった!!)
こちらへ歩いてきたガルカが、揶揄うように「随分熱い視線を送るじゃないか」と騎士様の去っていった方を見つめるアルベラへ投げかけていたが、彼女はそれどころではなかった。
***
少女は大きなネズミと向き合い、必死の様子で魔法で威嚇していた。
ユリはその光景を前に、深呼吸をして急いでどうすべきかを決める。
ノーマルラット。
人里での遭遇率の高い魔獣だ。
基本的には無害だが、空腹だったり気が立っていれば人を襲う事もある。大きな前歯で急所を狙われれば、人間の子供なら一撃で命を落としてしまう。体格差がなければ食べつくされてしまうこともある。
だが、魔獣の中では可愛い方だ。
(気が立ってる……けど、あれくらいなら私でも……。先ずはあの子から離れなきゃ)
足元の小石を数個拾うと、少女たちがいる場所から一つ手前の通りへと走る。自分の立つ路地に人がいない事を確かめると、石をラットへと投げた。
「こっちに来なさい!」
大声と石礫に、ラットの気がユリへと向けられる。
自分の方へ駆けてる来る大きなネズミを確認し、ユリは横の道へと走り込む。後ろからラットが来ているのを感じた。
走りながら胸に手を当てる。両手のいくつかの指先が、胸の中心で重なった。心の中で神に祈りを捧げる。
「よし、」
振り向くと、予想以上に近くノーマルラットが迫っていた。
(魔力を片手へ……)
半分伏せられた瞼の下の瞳が、オレンジの髪が、温かく輝き、ふわりと浮き上がった。
(大丈夫、いつも通りに……)
彼女は片手を胸に当てたまま、もう片手を大きく振るう。
小さな風がユリのまわりに吹いた。突如、それらは強い光を伴って、幾つもの刃となった。
向かってきた突然の風と光に、ラットは方向転換もできず全てを正面から受け止める。
余った刃が辺りを傷つけ、壁や地面が大きく抉れた。
刃が全て消え去ると、辺りはゆっくりと上昇して消えていく、光の粒で満たされた。
ラットの体は、光の粒子とは真逆へ―――地面へと吸い込まれるように黒い塵となって散り消滅した。
(良かった……)
ユリはほっと一息つく。
少女の元へ戻ると、ユリは彼女の身の安全を確認する。
「大丈夫? 怪我は?」
「ありがとう、お姉さん!」
少女は傍に来たユリへとしがみ付く。体が小さく震えていた。少女の頭に、ユリは優しく手を置く。
「良かった、かすり傷だけで」
「お姉さん凄いね。回復系の魔法も使えるなんて。さっきお祈りしながら魔法出してたし、もしかしてシスター?」
二人は手をつなぎ、大通りへと歩いていた。
少女の熱い視線にユリは照れるように笑い、「回復は、本当に少しだけなの」と答える。
「それに、シスターさんでも無くて、ただの学生」
「へぇ。お姉さん勉強が好きなのね」
「好きじゃないけど、楽しい時は楽しいし、うーん。何と言ったら良いのやら……」
「じゃあ好きってことにしておくね!」
「そうね。それでいいかも」
二人は顔を見合わせ笑いあう。
ちょっと家の近くまで送るつもりが、少女に示されるまま道を歩く事一時間。
気が付けばユリは癒しの教会の前に居た。
(ど、どどどどどうしよう。あのお店、戻る頃には閉まってないかな……)
左手近くの肩掛け鞄に触れ、中の壊れた箒と聖杯の事を思い出す。
「……ユーリィ、どうかした? そういえば、そのはみ出しているのは何?」
少女に示され、ユリはカバンを見た。ぼろぼろになった羽が一本、カバンの後ろから突き出していた。
(うわぁ。みっともない!)
ユリは慌ててそれを押し込み、カバンを開いて少女に中身を見せた。
「ええと、こういうのの買い物をしようと思ってたの……」
「……え? 鳥の死骸?」
「違う違う! よく見て! 羽で作った扇みたいな、ハタキみたいな道具なの」
「へぇー。うわぁ。ボロボロね」
「メイちゃん、こういうお店、この近くにあるか知ってる? もしよければ教えてもらえると嬉しいかも」
「ここら辺、……ん? 銀貨? お財布に入れないの?」
箒を持ち上げようとした少女は、その上に置かれる様に鞄に入れられた銀貨を見つけ、不思議そうにユリを見上げる。
「それ、拾い物なの。届けなきゃと思って」
「……届ける? お金だけ?」
「うん。それか、教会に寄付をって思ってたの。ちょうど恵みの教会に来たことだし、ここに寄付していくのも良いかも」
メイは呆れるように息をついた。
「いいじゃない。拾ったなら貰っておけば? ユーリィが私を助けてくれるって知ってた神様からのご褒美だよ。大体、お財布とかならともかく、銀貨だけ届けたって落とし主なんて見つからないでしょ?」
一般的に、見るからに持ち主が傍にいなければ、落ちていた硬貨は拾った人間の物だ。たった一枚であればなおの事、大体の人間がなんの後ろめたさもなく懐へしまうものである。
メイの言葉に、「ご、ごもっとも……」とユリは苦笑を浮かべた。そんな彼女の顔を見て、「それとも、」とメイは悪戯にほほ笑む。
「持ち主に戻したいとかじゃなく、拾った事実に戸惑って、ネコババするのも心苦しくて、『そうだ! どこかに押し付けちゃお!』みたいな?」
この言葉には今までのあどけなさがなかった。まるで心を見透かされたようで、ユリは「え?」と驚きの声を漏らす。
「へへへ、正解?」
ユリは少々驚いた表情でこくりと頷いた。
メイは、「わーい、あたったー」と、無邪気に両手を上げて喜ぶ。
(きのせい……? もしかしてこの子、小柄なだけで年上なのかもって思ったけど……)
『じゃあさ、それはユーリィのご褒美としてネコババ決定ね。ねえ、家の近くまで送ってくたお礼。ちょっと聖堂の中で座って待ってて』
少女に背中をがっちりつかみながら押され、ユリは空いてる席へと誘導され腰かけていた。
この国では神を「光の輪」で象る。ここの聖堂の奥には、線で装飾的に太陽を描いたような像と、その奥に輝くステンドグラスがあった。どちらもあの輪こそが、人々にとって神なのである。
ユリは後ろの席から、その像やステンドグラスへ祈りをささげる人々の頭を眺め、小さく息をついた。
(どうしよう。休息日の間に別のお店で買いそろえるかな……。指定のお店じゃないけど、ちゃんと専門のお店で買えば大丈夫……じゃないかな……)
神経質そうな先生の顔を思い出し、つい不安になってしまう。
授業の事に頭を悩ませるも、体はいつもの通り祈りのポーズをとっていた。胸に手を当て、祈っているかのように軽く首を垂れる。その動作だけで、ユリには体の中に魔力が満ちていくのを感じた。
少しすると、メイがユリのもとに戻って来た。
腕をつつかれ、ユリは「はっ」と顔を上げる。
「はい、これ」
彼女の小声に、ユリも小声で返す。
「え、これって……」
メイが両手に持って突き出していたのは聖杯と箒だった。
「どーぞ」と言われ、ユリはそれらを手に取る。
使い古されてはいるが状態は良く、作りもしっかりした品だ。特に、聖杯の装飾は繊細で美しく、くすんで色味の変わった金がさらに味を出していた。
新品をセットで買おうとすれば十万前後はするだろう。癒しの教会の紋章が施されていて、元の持ち主が教会であるのも証明されている。中古でもきっと五~六万の値は付けられるはずだ。
(アンティーク品としてみたらもっと根が張るのかな……。もしも聖女様も使用するような品だったとしたら、値段はむしろ跳ね上がるだろうし……。まあ、これは絶対違うだろうけど)
ユリはちらりとカバンを見た。
(計四千リング……十倍以上の品……。普段なら絶対手が出せないな……)
むしろ、この品をもらったのち転売してはどうかとも考えてしまう。例の店で平均的な値段の品をそろえ、余った金額を生活費に回すのだ。
(人のご厚意を転売だなんて、罰当たりだよね……)
自分の思考に呆れて苦笑が漏れる。
「どう? 気に入った?」
「……うん。あなた静養の子だったのね。こんないいもの、私がもらっていいの? というか、あの……」
静養の子とは、教会が引き取った「静養者」と呼ばれる孤児たちの事だ。
ユリは視線を後ろの壁端に向ける。
メイが戻ってきてから、聖堂内の監視役であろうシスターからの視線が熱い。
メイはユリの視線を追ってシスターを見る。目が合い少女から手を振る。シスターは涼やかに会釈のみ返し、他の人々に目を向けた。
「大丈夫よ? 勝手に持ってきたとかじゃないから。それね、もう買い替えて要らなくなった品なんですて」
「……そう、なのね。ありがとう。じゃあこれ、ありがたく使わせていただきます」
ユリは深々と頭を下げた。
「いいのいいの。助けてもらったお礼。神様のお導き」
少女はくすくすと笑う。
「ねえユーリィ、もしよければ今度は一緒に街のお散歩でもしましょ」
「ええ。喜んで、メイ」
(良かった。これで来週の授業は大丈夫ね。またダメって言われたら、今度こそあのお店に行けばいいし)
メイへ手を振り、ユリは足取り軽く帰っていった。
少女ははらはらと手を振る。その唇はにんまりと弧を描いていた。
(ふんふん。まあまあね、後継様。……聞いていた通り)
ユリは、祈りによる魔力の吸収に長けていた。だが、力の制御がほとんどできていないのだ。
今回の例も同様。魔法を放つことが出来ても、それを絞った的に当てることが出来ない。威力のコントロールもおぼつかなく、彼女の魔法の使用には必ず周囲の破壊が伴ってしまう。
(魔法の威力があるだけに厄介よね。だから三級か)
メイは学園の魔法学のクラス分けの話を思い出した。基礎基本は三四級、ある程度のコントロールができてから、応用の一二級。
(磨けば十分光りそう……これからみっちり鍛えてあげないと)
彼女は「ニシシ」と楽しそうに笑う。
そんな少女の横に、一人のシスターが並んだ。シスターは困った表情で少女を見下ろす。
「ヤグアクリーチェ様、どういうおつもりですか? あの道具」
聖堂で監視をしていたシスターだ。
「ふふふ。見た? あげちゃったの。ちょうど新しいのが欲しいなーって思ってて」
「なら新しいものを準備してから差し上げるのが順当でしょう……」
「あら。手元に十分使える状態の物があるのに新品を調達してくれるほど、こちらのお財布係はお優しくて?」
「あなの『発作』さえなくなれば、彼もそれくらいのお買い物は快く承諾してくれますよ」
「いやよ! 私の大事なストレス発散なんだから! ちゃんと働いて元取ってるんだからいいじゃない!」
「なんでこう最近の子たちはお金に厳しいのかしら!」と文句を残して去っていく少女の後ろ、シスターは困ったように息をつく。
(あなたがそうだから、癒しの教会にそういう人材が行くよう城に手回しされるんですよ……)
物陰に隠れて一連を見届けていた八郎は、きらりと眼鏡を輝かせる。
(ふっふっふ……。入学式では出会いイベ。一週間後に見習い聖女イベ。ここからあとひと月は、各キャラとの触れ合い期間。ゲームならそこからルートを絞って攻めていくところでござるが……。やはり、アルベラ氏の今までの行動が、若干影響しているでござるな……)
今日一日、八郎は学園内を探索し、他の主要人物達について嗅ぎまわっていた。
スクロールを通してアルベラから聞いていた、第三と第四王子含め、友人であり学園サポートキャラのリド含め。
(幼少の頃に出会っているせいか、先ずユリ殿のアルベラ氏に対する恐怖心がないでござる。『話しかけるのも躊躇われる、高貴なご令嬢』というよりも、『懐かしい友人』『会えてうれしい友人』という心情が先行しているようでござるな……。ウォーフ殿とセーエン殿は、拙者が知っているキャラとあまり変わり無し。友人であり学園サポートキャラのリド殿も同じく。……しかし、原作では魔法学でキリエ殿は三級のはず。それが二級に振り分けられていたでござる。些細な変化でござるが、ミーヴァ殿の主語が『俺』でござった。……キリエ殿は多分、性格合わせて、筋トレや、筋トレをするに至った『頑張ろう』という気持ちからの影響。ミーヴァ殿はそんなキリエ殿と仲が良い故、主語が引っ張られた……というとこでござるか。『僕キャラ』が王子一人になっているとは……。まあ、野郎の主語なんて正直何でもいいんでござる。……騎士殿はもっと不愛想だったはずでござるが、人当たりが柔らかくなってるでござるな。原作よりよく笑うというか……友達が増えてたでござるし……)
性格が変われば思考の方向性が変わる。そうなれば普段の行動も変わってくる。
(ユリ殿がヒーロー達と関わる場が若干変わっているのを感じて不安になったでござるが、こうして聖女イベはちゃんと存在するようだし、一先ず安心でござる。さてはて……)
八郎は、アルベラから聞いていた「王子達を倒す」というクエストを思い出す。
(あれが体育祭や、ちょっとしたカードゲームやなんかの勝敗についてならいいでござるが……)
あの内容、もしや「敵対ルート」は強制か? とアルベラ本人と話し合った事もあるのだが、クエストの内容が変動し、増えたり減ったりしている以上、あの内容もいつどう変わるか分からない。
(アルベラ氏の行動で、他のクエストに変わってくれるか、消えてくれるかすればいいでござるな)
最悪一対一の場合、アルベラと王子が真っ向からただの戦闘を行えば、アルベラに勝算が無いのは誰の目から見ても明かだ。どんなズルをしようと、道具を使用しようと、彼の魔力とその扱いは、アルベラの身のこなしや道具など簡単に無効化してしまえる。
そうなればアルベラに待つのは死だ。王子がアルベラを殺さなくとも、アルベラとあの老人が交わした契約が彼女を殺す。
(アルベラ氏とユリ殿……拙者はどちらにも平穏無事に、楽しく暮らして欲しいでござるよ……)
八郎は嫌な想像に「すん」と鼻をならす。
(……よし!)
暗い気持ちを払い除け、八郎はぐっと拳を握った。
(お兄ちゃん、頑張って防犯グッズ量産するでござるよ! ついでにユリ殿にもおすそ分けをば!!)
気を取り直した彼は、土埃を立てる猛スピードで、隣町の我が家へと駆けて行った。
***





