115、彼の生活 6(彼らの願い) ◆
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ヴィオンの様子がおかしい。
レーンは起き上がらない兄の体に触れ、震えていた。
兄の体はとても熱かった。
どうしよう、どうしよう、と考えては、答えが見つからずに絶望する。それを繰り返しているようだ。
三人が三人、こうなってしまったことに対して、自責の念を抱いていた。だから、三人とも「こうなってしまった事への責任は、自分が取らなければ」と考えていた。
「ねえ、ホーク………」と、レーンの消え入りそうな声。
「私とお兄ちゃんで、あいつらの気を引くから、………だから、そうしたら、ホークだけでも、ここから出れる?」
ホークは言葉を失う。
「………………………やめろよレーン。それ、今全然冗談になってないっつーの」
何とかこの空気を壊そうと、無理して笑った。だが、レーンがそれに笑い返すことはしなかった。
気まずくなり、ホークは笑うのをやめる。すると一気に室内は静まり返ってしまった。
ヴィオンは静かだが、眠っていないのは分かった。罪悪感の籠った視線を感じ、ホークはそれに、感じたままの言葉を返した。
「やめろよ。………俺がやりたくてやったことだ。………お前らのせいだなんて、全然思ってない。お前ら、どうせ自分が悪いとか思ってんだろ? 俺だって同じなんだから。だから、そんな顔すんなよ。………余計、辛、く、なる」
気づけば、涙がボロボロとこぼれていた。本当の事を言おうとしただけなのに、それがこんなにも頭に熱を持たせて感情を揺さぶるなんて。素直な言葉を吐くのがこんなにも難しい事とは、とホークは頭の片隅で困惑する。
「俺だって、やってみたかったんだ………恥ずかしかったんだ。ここの事知って、お前らみたいにすぐに『皆を助けよう』って思えなくて。自分が情けなくて………………………………だから、それが嫌だから、変わらなきゃって。だから、こうなったのは、俺がしたかった事をしたからなんだ。やめろよ。………お前、凄いんだから。頼むから、そんな顔すんなよ」
「ホー、ク………」
釣られて、レーンも泣き出す。
二人が静かに泣くのを見て、ヴィオンが「ありがとな」と唇を動かして笑った。
ホークは諦めきることが出来なかった。
本当に自分たちがライラギへ戻れなくなったとしたなら、ここからはもう自力で出るしかないという事だ。
飲み水は毎朝、部屋の入り口にバケツに入れておかれた。一つのバケツに入った水が、この部屋の全員の飲み水だ。人数分のコップが置かれるので、子供たちはそのコップで水をすくって飲んでいた。
レーンは上着を脱ぎ、その比較的奇麗そうな部分に水を含ませる。日が出ているうちに、ヴィオンの顔や首元を拭ってやっていた。
夜になれば、この部屋には外の明かりは届かない。窓はあるが、背の高い木々に覆われ、この部屋は日中でも薄暗かった。窓は施錠され、強化や防音系の魔術がかけられているらしく、壊すことはできない。
出口は部屋に設置された扉だけなのだ。
「レーン、ヴィオン………」
レーンは黙って、こくりと頷く。
ヴィオンは、脂汗を浮かべて、笑んでいるように口元を歪ませた。
何も知らないローウィンがやってくる。彼はホーク達がここに詰められてからというもの、お昼過ぎに決まって様子を見に来ていた。そして決まって、ホークへ八つ当たりをして去っていく。
ここ最近、サトゥールとリリの口論が絶えなかった。
原因は良く分からないが、今まで当たり前に見過ごしていたような何かが、見過ごせなくなってきているらしい。リリの酒癖、サトゥールの女癖、ちょっとした意見の食い違い。たまに聞こえてくる二人の罵り合いからは、そいう内容が聞こえていた。
ローウィンは、そんな彼らにイラついているようだった。「小間使いしやがって」「都合よく八つ当たりかよ」そんな文句をぶつくさと吐きながら、無抵抗のホークをサンドバッグにして帰っていく。
そしてホークも。
気が立っている彼らの影響か、やけにイライラしていた。状況が状況なだけにその原因はここの大人たちだと、疑いようがなかった。
ローウィンの拳など、サトゥールの物に比べれば大したことはない。細身とはいえ、青年の腕や足が当てられれば勿論痛かったが、動けなくなるほどではなかった。痣にはなれど、体を動かすのには支障はない。
―――やるなら今なのだ。
(ごめんな。レーン。怖いだろうけど、体力があるうちに)
これは二人で話したことだ。体力がないとできないことは、体力があるうちにしよう。
打てる手は片っ端から打ってやろう。
二人して情けなく泣いた時、そう話し合ったのだ。
今からやるのは何のひねりもない強行突破だ。
抜け出して助けを呼ぶ。
足音が近づいてきた。ホークは扉の真横に身を潜めた。扉が開く。
いつもの通り、入ってきたのはローウィン一人だった。この時間、他の二人は自分達の部屋にいた。本来なら夫婦同室なのだろうが、今は別々の部屋だ。
ローウィンが扉を開けると、目に入ったのはレーンの姿だ。窓を叩き、「誰か! 誰かー!!」と叫んでいた。
「馬鹿じゃねーの! 無駄だっての!」
その姿に、ローウィンが笑う。
(もう少し、もう少し開け—————————中に入れ)
ホークは扉の影からローウィンの様子をうかがう。その立ち位置に気を張る。
「出して、お願い。外に出たいの。私、帰りたい」
レーンが涙目で懇願した。ローウィンが喜びそうな、弱者の顔で、もっとこちらへ来いと誘い込む。
(今だ!!!)
心の中でそう叫んだのはレーンだった。
その声と共に、ホークはひらりと扉の外へ抜け出していた。ローウィンは足元を何かが掠めた気がして振り返る。だが、物陰に隠れたホークには気づかず、後ろ手に乱雑に扉を閉めた。
(出られた!!!!)
ホークは靴を掴む手に力を入れる。足音に気を付け、あの部屋へと駆けこむ。何となく、玄関から出るべきではないと思っていたのだ。あそこには魔力を感じていた。だからこの部屋の窓を選んだ。
部屋に入ってすぐ、目に入ったのは窓際のあの少年だ。そしてずっと笑みを浮かべている少女。話し合う二人。天井を見つめる少年。目に布を巻いた少年。
「お前ら………」
ホークはぐっと言葉を飲み込む。
「ごめん、窓借りるな」
「たすけて、たすけて、たすけて、たすけて………」
ぼんやりとした目で窓の外を見る少年は、ホークには見向きもしない。ホークは身を乗り出し、何の仕掛けもされてなさそうな窓に手を伸ばした。埃の積もっていた窓の鍵に手を掛ける。
ふわり、と柔らかい風が入り込む。
「………………………………………あ、ああ」
窓際の少年の言葉が途切れ、感嘆の声が漏れた。
「ああ、あああああ、風、風、………………………ああ、あ、あ」
ズレたような位置についた目が、大きく見開かれて、涙をためていた。
「あいた、あいた」
彼は嬉しそうにホークへ話しかける。
「ああ。勝手にごめんな」
ホークは窓を飛び越えて外に出た。後ろから少年の声が聞こえる。
「あいた、あいた………………………ああ、あああ、ありがと、ありがと、ありがと、」
感じる魔力をよけながら走り、庭を囲む生垣の影へと隠れる。あの窓を振り返ると、少年が嬉しそうに笑っていた。
窓が開いたというのに、そこから出ようともしない。彼にとっては、窓が開いたという事実が十分に嬉しいようだ。窓際の少年の横に、目に布を巻いた少年が立っていた。彼はホークの居る場所が分かるのか、手を振っていた。無表情の口元が、小さく「待ってる」と動いた気がした。
ホークは今自分がどこに向かってるのかもわからない状態で走っていた。あの家が見える。とにかく何でもいい。行きたいのは、兵士の詰所か、配達所か、役所。走っていると道が二手に分かれた。
(くそ、どっちに行ったら良いんだ。どっちに行っても人いるかな)
「おい、どうした。見かけん顔だな」
五~六十代の農夫が、道の横にある麦のような穀物「トウバク」の畑から顔をのぞかせていた。
「助けてください!」
とっさに声を上げる。いかつい顔の彼は、見知らぬ少年の突然の言葉に、眉を顰め小さく息をついた。
「ほら、まずは落ち着け」
農夫は近くの小屋へとホークを招き入れいた。暖かいお茶と、パンを出してくれた。見知らぬ小汚い少年の向かいに座ると、男は落ち着いた様子で尋ねる。
「お前さんどっから来た。その傷はどうした」
「あ、あの、お願いです! 助けてください!」
ホークは身を乗り出した。
「おれ、ここの養護施設に預けられて、他の町から来て!」
「ほら、良いから落ち着け」
男がトントンと指でテーブルを叩いた。座れと言っている様だ。
ホークは反射的にまくしたてようとしていた自分に気づき、言われた通り椅子に座り直す。お茶を一口飲み、落ち着いて話しだした。
「あの施設、虐待してるんです。しかも子供が売りに出されてて、なのに表向きは貰い手が見つかったみたいになってて。俺の………俺の友達が、前の施設から一緒に来た兄弟みたいなやつが、あそこの大人に痛めつけられて、閉じ込められてて。今、様子がおかしくて。けがの手当てとか、検査してもらったらりしたいのに、それもできなくて」
「なるほど」
農夫はテーブルに肘を乗せる。ホークに自分の体の横を向けるように座り、遠くを見る様な目で聞いていた。
「お願いです。あそこの施設を通報してください。兵士を呼んで、中を調べて貰って。あいつらから、あそこの子供を助けてやってください。皆、あそこから出たがってる」
お茶を口に運び、ホークの顔を見て、ゆっくりと腰を上げた。
「落ち着いたか?」
「………はい」
「そうか。………今から兵を呼んでくる。ここで、一人で待ってられるか?」
兵と聞いて、ホークは喜びに声を詰まらせる。
「は、はい!!」
やっとできた返事は、やけに大きく小屋の中に響いた。
「じゃあパンでも食べて待っておれ」
小屋から出ていく背中を見て、ホークはライラギの施設でも見たような背中だなと思った。
(そうか。あの人、ガミッサさんに似てるかも)
三日ぶりの食事と、久々の安堵感。もしかしたら、このままこの村からおさらばできるかもしれない。
ホークはうきうきとした気分で、農夫が返ってくるのを待っていた。
そして待つこと数十分。
「待たせたな」と農夫が扉を開く。
期待に満ちたホークの表情が、農夫の連れてきた人物を見て一瞬で消えた。
農夫が連れてきたのはサトゥールだった。
「なん、で」
「ありがとうございます。飲み物とお食事まで出していただいたようで」
サトゥールは、自分達を向かい入れた時のような、余所行きの顔を農夫に向けていた。
「いいさ、いいさ、これくらい。あんたらのとこも大変だな」
「いえいえ。これも仕事ですし、なにより彼らのためです」
何を、何を何を何を何を何を………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………お前は何を言っている。
「おじさん、」
ホークは農夫の服を掴んだ。
「あんた、兵を連れてくるって言ったよなぁ。俺の話、聞いてたよなぁ?!」
怒りで声が震えた。掴んだ農夫の服に力を込め、ホークはそれを揺さぶった。
分厚くしわくちゃの農夫の手が、ホークの手を無情に叩き払った。
「………にせもんが馬鹿馬鹿しい!」
「は?」
「生まれながらの大ウソツキが、この期に及んで更に嘘を付きおって!」
———なんで
「嘘じゃない! 本当だ! あいつが俺らを閉じ込めてるんだ!」
「そりゃお前がにせもんだからだろ! 虚言癖で精神病で! だからお前さんのためにそうしてるんだろうが!! なんでわからん!! 大バカ者!!!」
———なんで信じない
「虚言じゃないし精神病でもねえよ!! この傷だってあいつらにやられたんだ! それに中を見ればわかる!!」
「恩知らずのクソガキめが! 聞いたぞ! お前あん中で大層悪さしたってな!!! 他の子らにすぐ暴力振って、新しい家族が決まった子には嫉妬して邪魔や嫌がらせ!!! 貴様らのようなにせもんが、寝床や食事がもらえてるだけで有難いとなんでわからん!!! 大バカ者が!!!」
———俺の目が赤いからか? 赤いのがそんなに駄目なのか?
「違う! その話が嘘なんだ!! なんでわからないんだよクソ野郎!! なんで俺の言葉が嘘になるんだよ!!」
「ほら、ホーク行くよ」
サトゥールがわざとらしい、優しい声でホークの腕を掴んだ。
「触るな!」
ホークはサトゥールの腕を振り払った。すると突然、ホークの視界がチカチカと白く点滅する。床に肩ぶつかって、良く分からないうちに、体が倒れ込んでいた。
「え………な………」
ぼんやりと、ホークは頭を動かす。
農夫が、拳を握っているのが見えた。顔を真っ赤にし、フーフーと荒い息を漏らしている。
「このガキが。調子にのりおって」
サトゥールがホークの腕を掴んで立ち上がらせる。ホークは呆然とし、されるがままだった。
(おれが………)
やり取りする大人たちの横、ホークはぶたれた頬に手を当てる。口の中が血でしょっぱくなっていた。頭のなかが乱暴に大きくかき混ぜられたようになってぐちゃぐちゃだった。
サトゥールが農夫に頭を下げ、二人は施設への道を歩いていく。
ホークはまるで人形のように、引かれるまま足を動かしていた。
「おらぁ!」
乱暴に、部屋の中へホークが投げ込まれた。どさり、と部屋の中央に倒れ、もぞもぞと蹲うずくまる。
「これに懲りたら二度とあんな真似はするな」
暗い部屋の中、逆光でサトゥールのシルエットだけがくっきりと浮かび上がっていた。赤い髪が光を透かし煌々と輝く。
大きな音を立てて閉められた扉の向こうから、鼻で笑い、「またやってもいいが、どうせ失敗するけどな」という言葉が投げかけられた。
(なんでお前が、あいつとおんなじ………)
足音は遠のき、リビングの方へと向かっていった。
室内に投げ込まれたホークは、子供たちの落胆の視線を感じた。
「………ホーク、大丈夫?」
レーンが恐る恐るちか寄る。
ホークは顔を上げ、レーンの顔があざだらけになり、腫れているのを見て息を飲んだ。
「………レーン」
「大丈夫」
レーンは悲し気に笑った。
「………俺も、大丈夫。それより、ヴィオンは?」
「お兄ちゃんなら」
ヴィオンは壁際で、横になり眠っていた。
ホークはレーンに支えられながら、ヴィオンの元へと体を引きずる。
「ごめんな…………」
噛み締めた口から、泣き出しそうな小さな声が漏れ出た。それに返る声はない。
顔を腫らしたヴィオンは、ホークの隣で小さな寝息を立てていた。それは、気道に何か遮るものがあるのか、ヒューヒューとすきま風のような音がして痛ましい。
「………ごめん」
ホークは歯を食いしばり、掠れる声で小さく繰り返した。
そんな彼を、ヴィオンが薄く目を開いて見つめていた。口を開くが、声は出ない。
ホークは、ヴィオンからの視線には気づいていた。だが、申し訳なくて、顔を上げることが出来なかった。膝に顔を埋め、折角のチャンスが、自分のせいで台無しになってしまったのだと打ちひしがれていた。
血のつながってない兄弟の、小さく悲し気な声がヴィオンの耳に届く。
―――ごめん。ごめん。俺がニセモノだから。俺の目が赤かったから、信じてもらえなかった。俺のせいで失敗した。ごめん。ごめん………
「ちがうよ」とヴィオンは口を動かす。そして強い眠気に誘われるまま目を閉じた。
***
翌朝。
ホークは薄く目を開く。
(まだだ)
横たわったヴィオンは、昨晩までの痛々しい呼吸も収まり、深い眠りについているようだった。
(今日。もう一度)
まだ体力ならあった。気力は、希望は失いかけてもいたが、ヴィオンを手当したいと思えば、体はそれに付いて来てくれそうだった。
(次はレーンと一緒に出よう。レーンは隠れて、村から出ててもらって………一人にするの嫌だけど、俺といるより、きっと安全だ………)
ローウィンがいつものようにバケツに水を入れてやってきた。
ホークは嫌な顔を見ないようにと、膝に顔を埋める。
水を置いたローウィンは、ヴィオンの方へ目をやる。暫し観察すると、ずかずかとやってきて、横たわる少年の体をつま先でつついた。しゃがみ込んで、彼を見下ろすと、その表情はニタリと笑った。
「なんだ。こいつ死んでやがる」
ホークの鼓動が大きな音をたてた。
扉の横の、無気力な少女の瞳が、誰にも知られず小さく揺れた。
時間が止まったような静寂。
ローウィンの言葉が呑み込めない。一拍の静止の後、ホークは軋む首を動かす。隣りで寝転がる、少年の顔を見下ろす。それはヴィオンの顔だった。当たり前だ。隣にいるのはヴィオンなのだから。
傷だらけの顔。口元には大量の血がついていた。腹に片手を当てた、昨日の姿勢のままだ。よく見れば、唇は渇いてカサカサになっていた。その顔はやけに白い。
「………………………死?」
レーンが、言葉の意味を知らなそうなトーンで、小さく呟く。
ホークは声が出なった。唇が、手が、動かそうとするもの全てが震えていた。
(———なんで)
瞳が揺れる。視点が定め辛くなる。
ヴィオンを見下ろして、ローウィンがニタニタと笑っていた。「ざまーみろ」と彼は楽し気に吐き捨てる。
(なんで)
ヴィオンは何も悪くないのに。
良い奴なのに。
ただ、皆を助けようとしただけなのに。
(なんで―――)
ホークの頭が、視界が、怒りで染まる。
ホークだけではなかった。
レーンも兄の死に怒っていた。悲しみよりも先行して、憎悪が心を満たしていた。
その部屋にいる子供達も同じだ。彼らは、あの三人を乾いた思考で眺めていた。期待はしないようにし、無駄な体力や精神を使わないように努めていた。だが、心の奥深く、久しく抱くことのなかった希望は、気づかないうちに彼らの内に芽吹いていた。———それを目の前で打ち砕かれた衝撃。
その部屋に、結託した怒りと憎しみが凝縮される。
———あんな大人なら、いらない。
あの日のヴィオンの、力強い声が聞こえた。
(———ああ。いらない!)
ホークは、それに頷く。
———『キキトドケタリ』
其々の怒りが頂点に達した瞬間、どこかから声が聞こえた。
施設の子供達、大人、村の人々。そこに暮らす全ての人間の体が、一瞬水中に落とされたかのように小さく持ち上がり、元に戻る。
子供たちは次々と意識を失い倒れていく。
大人たちは、頭を押さえ、苦痛に悶える様に呻きだした。
この部屋でも、唯一の大人であるローウィンが錯乱していた。
(声………)
聞いたことがある、あの声。どこで聞いたんだっけ。………………何でもいいか。あれがきっと、全部壊してくれる。
あれは多分、そいうものだ。何となくだが、ホークは「あの声」の実態を理解できた気がした。怒り、憎しみ。あの声は、それらで満たされているのを待っていた。
ホークの記憶の中、滝の裏の祠が開け放たれていた。そこに玉は鎮座し、嬉し気に、燦々と輝いていた。
青年の、苦しそうにふらつく足元がみえる。
「………沢山苦しめ、クソ野郎」
ごぼごぼと、自分の口から泡が出て、上へ上っていくのが見えた。狭まる視界の中、ホークはその泡を見上げ、目を閉じる。
この日、一つの村は、一瞬にして水の中に沈んだ。





