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第三話 宝箱を開けたくて

 〝何でアイコンメロンパンなの?〟


 〝特に理由はないです〟


 楽しい!楽しすぎる!ただ表札みたいな板を指先で操作し、会話を…いや、会話ということじゃなくて(会ってないし)、メッセージのやり取りをしてるだけなのに、こんなに楽しいのか!?


 あの後俺は、表情は平常心を保ってるように見せたまま、心は狂ったように踊りまくっていたまま歩いて、誰に見られる訳でも無いのに、周りを気にしながら帰宅した。


 そしてメッセージを待ったまま、晩ごはんを作り、食べ、風呂に入ろうと思うと、その間にメッセージが来てしまうのではないかと思い、シャワーを5分浴びてすぐに着替え、扇風機を回したその瞬間、彼女からのメッセージが送られて来た。


 いきなりメロンパンについての話題に触れられたのは意表を突かれたが、本当に理由が無いのでその通りに送ると、少し沈黙が顔を出してきた。

 俺はまた話をすぐに終わらせてしまった…SNS上ですらコミュ障なのか俺は…。


 〝チョコスナックありがとう、本当に美味しいねこれ!〟


 よ、よかった、彼女が機転の利く返信をしてくれて1人勝手に気まずくなっていた俺は、誰もいない部屋で「ありがとうございます」と呟いた。


 〝食べてくれてありがとう、心配してたんです、過度なダイエットは体を壊しますし、成長期は特に〟


 ちょっと長文過ぎたか?いや、まだ許容範囲内だろう…親からのメッセージに、「うん」とか、「分かった」としか返答した事無いから、語り合う経験が無いため、加減が分からない…。


 〝心配してくれたんだ〟


 ん?俺変な事言ったっけ?…ここは普通に返信すればいいか、話が俺の一言で変に終わらないように、考えてから返信しないとな…。


 〝当然です、そもそもダイエットとは、本来日常の食事という意味なので、どう痩せる行動に意味されるようになったのか、不思議でたまらないですね〟


 やはり長いか?…しかし送ってしまったし、即既読が付いたから、取り消す訳にはいかないな…。


 〝そうなんだ!知らなかった~、物知りなんだね〟


 中学校の時の家庭科の教科書のどこかにそう書いてあったのをたまたま覚えていただけなのだが、こんな風に役に立つとは、覚えておいてよかった…。


 〝物知りという訳じゃないと思いますが、印象に残った物事を記憶していただけです〟


 無難に答えたつもりだが、自慢みたいに捉えられて、こいつ面倒くさそう、とか思われないだろうか…女子という生き物の頭の中は恐ろしく複雑らしいからな…そう、解明するのは悪魔の証明だ。


 〝すごいね、明もその1つなの?〟


 明はそれとは違うな…ダイエットはたまたま目に入った情報を無意識的に覚えていたが、明は興味を持とうとして半ば強引に頭に詰め込んだ、俺の中の興味という魔力の副産物に過ぎない。


 〝そうかな〟


 て!!何嘘送ってんだ俺!!確かに今のをありのまま話せば確実に会話は止まっていたが、だからといって嘘はダメだろ!!…だが、このワードしか思いつかなかったのもまた事実…うぅ、我ながらコミュ力の無さに落ち込むなぁ…。


 〝そっか、実は私も、そんなにアニメに興味はなかったんだ〟


 おっとぉ予想外の返信だ、これは会話を繋げるための、受け手側に疑問文を言わせて、それに答えるパターンのやつだ、ここは普通に…。


 〝じゃあどうして明の事を?〟


 〝クラスメイトが見てて、話題についていくために嫌々見てて、それでも、唯一印象に残ったのが明だったの〟


 〝どうして明だったんですか?〟


 〝だってすごいじゃん〟

 〝あんなに辛い過去持ってて、いっつも人の言いなりだったのに〟

 〝主人公に活を入れてもらった途端に、他人を気にせず自分を貫けたんだもん…〟

 〝私だったら、主人公がウザくてたまらないって思ってたかも〟


 怒濤のコメントの連打だ…けど、それだけ思い入れがあるって事か…嫌々見ててって…スクールカーストでもあったのかな…俺はそういうのなかったけど、いや、実はあったけど俺だけ知らないって可能性も無くは無い…。


 〝好きなタイプっていうのは、性格というより、覚悟に魅せられたって事かな?〟


 〝そうかも、こんな話誰にもした事無いんだけどなー、宮代君話しやすいね〟


 はっ、話しやすい!?…俺が!?…嬉しい…褒められ慣れしてないから、なんか、ん~、どうしたらいい俺…。


 〝ありがとう〟


 はい会話終了ー、やらかした俺、はは…何風の強さ強の首振ってない扇風機相手に表情豊かになってんだ俺…。


 〝草〟


 草?…なんだ草って…想定外中の想定外の返信が来たぞ…あの日本語にしてたった五文字の感謝の言葉のどこに、返信が草の点があった!?どう返答すればいいんだ…史上最難関の壁だぞこれは…。

 可能性としては2つ、まず1つは、予告無しに唐突に大喜利か何かを始めたか…もう1つは、ネット用語というものだ…テレビでやっていた、女子高生の流行語とやらで、ネット上でのみ用いる言葉があるのだと…高確率でこっちだな。

 つまり、この草には、タイミング的には…どういたしまして、か何かの暗号、と捉えるのが妥当か…そうだな、だとしたら次の俺の返信は…。


 〝森〟


 森だと!!?何なんだ一体!!草と森を繋げて草森?いや誰だよ!この場合、草と森に隠された暗号は、類似していると考えるべきだ、なら俺が返すべき言葉は…。


 〝大草原〟


 ぬおおおおお!!!何なんだ一体!!もう訳が分からない!!こうも連続して送っても問題無い暗号という事なのか!?俺は…俺は…。


 〝そういえば、予定はどうなんでしたっけ?〟


 …もう…これしかなかったんだ…無理矢理会話を終わらせて…本題に持って行く…勘弁してくれ…俺にネット用語は通じないんだ…友達0だし。


 〝明日の10時に駅前集合ね〟


 よ、よし、何とか本題に持って行くことに成功した…。駅前集合か、電車に乗るのかな…後でチャージしておくか。


 〝了解です、何か必要なものとかありますか?〟


 〝多分何日か戻れないから、必要だと思うものは各自で持ってきてね〟


 何日か?…電車の往復よりも、ホテル代の方が高いと思うけど…え?…ひとつ屋根の下?…いやいやそういう事じゃない、どこかにアテがあるということなのかな…何にせよ…あまり深入りしない方が…。




 ───何か、深入りしない方が良さそうな事ばかりだ…。

 もし、俺が彼女に固執せず、他の女子のパンツを見たいと本気で思ったら、どうしただろう…きっと、どうにかするために戦略を練って、早く見ようと模索しただろう。それでもある程度の勇気と覚悟がいるが。


 だが俺は何もしていない、出来ないではなく、しなかったのだ。出来る自信も無いけど。

 ゲームでも俺は、簡単なモードでプレイし、敵を選び、雑魚モンスター相手に圧倒的な力でねじ伏せる事が好きだ、要するに、満たしたい欲望への道のりは近道をしたくなる。


 なのに俺は、彼女のパンツを見るために、あえて遠回りをしている。

 世界一の大秘宝が中に入っている宝箱を、無数に掛けられた鍵をぶん殴ってこじ開けるんじゃなくて、1つ1つの鍵穴を念入りに調べ、着実に1歩ずつ解いていくように、少しずつ彼女の心を理解し、紐解いてから彼女に懇願したいと思っている。現に俺は彼女に大して、焦りを感じていない。

 人生で最も興味を持ちながら、最も遠い、近いはずなのに届かない。全く、我ながらものすごい情熱だ。


 きっと彼女の、赤の他人が深入りしない方が良いような所に入らなければ、彼女のパンツと相まみえる事は無いだろう。ゲームのように選択肢があって、それに対してプログラム通りに事が進む訳じゃない…無数の選択肢を、間違えながらも進んで行くしか無いんだ…。

 今回の件で、一気に彼女の心根に少しでも干渉出来たなら、それが理想的だ。


 〝もしかして、予定があるのかな?〟


 あ、返信するの忘れてた。予定などあるはずが無い、RPGゲームみたいに、宿題を計画的にやるしか予定と呼べる予定はなかった。


 〝ごめんなさい、少しボーッとしてて…予定はありません〟


 〝よかった、じゃあ明日からよろしく〟


 〝はい、おやすみなさい〟


 〝おやすみなさい〟


 「…おやすみなさい」


 さてと…夏休みの宿題、出来るだけやっておこう。いつ帰れるか分からないし、とりあえず数学からやるか…。








 「おはよう」


 「お、おはよう…」


 朝10時ちょうど、ロータリーのアスファルトから陽炎が立ち、上からも下からも蒸し暑さに挟まれた夏休み初日、既に汗が止まらない。予報だと、今日の最高気温は34度らしい。

 俺は駅前に歩いてやってきた。制服で。彼女も制服だった。


 「な、何で制服…なんですか?」


 「そっちこそ、暑くない?」


 「いや、俺は…パジャマ以外はこれしか持って無くて…」


 「ホントに?」


 「まあ…節約のために…」


 朝早くに目覚めてしまい、ああ5時か、と思ってすぐに宿題に取りかかり、1時間程経って、用を足すために立ち上がり、ふと壁掛けの針時計を見ると、何故か5時だった。壊れてる訳じゃない…つまり、寝ぼけた俺が4時を5時だと認識してしまっていた訳だ。

 その後朝特有の働きまくる頭を駆使し、幾つかの宿題を終わらせる事が出来た。その後シャワーを浴び、部屋を隅々まで掃除し、朝食を食べ、いつも使う緑色のリュックサックではなく、父が高校入学祝いに「持っていけ」と一言添えてもらった黒い大きなリュックサックに荷物を入れて部屋を出た。


 「あ…あなたは…どうして制服?」


 「これ以上涼しい服が無いから」


 「あ…そうなんですか…」


 そんなことより気になるのが、彼女の後ろにある赤いスクーターだ…大きさからして125ccだろうか…彼女のものなのか?


 「そ、その…」


 「あのさ、昨日のコメでも思ったけど、そんなかしこまらなくていいよ?」


 「え?」


 「友達だから」


 「…友…達…」


 別に友達でも、敬語とかかしこまった話し方をしてもいいと思うが…どうやら彼女の友達の定義には不必要なものだそうだ…というか、俺が緊張しまくってて、それが彼女にも伝わってしまっているのだろうか…もう少し砕けた話し方で、肩の力を抜くように努力しよう。


 「とりあえずコンビニ寄ろ?今朝何も食べてなくて…」


 「う、うん…」


 そして彼女はスクーターを引いて駐車場に止めた。やはり彼女のだったのか…。

 俺と彼女は駅前のコンビニに入り、彼女は塩むすび1つと、夏限定増量中の600mlの水を買い、イートインで向かい合って座った。


 「まずは呼び方からかな、宮代琉希君だから~、琉希君」


 「え…あ…じゃあ…雪乃ちゃ…さん」


 雪乃ちゃんはマズいだろ…名前呼びはセクハラ行為に当たるとバラエティ番組でやっていた気がする…。


 「雪乃ちゃんでいいよ?」


 「…いいんですか?」


 「ていうかそうして?私からお願いします」


 「…じゃあ…雪乃ちゃん…」


 「ありがとう」


 どうしよう…目のやり場に困る…目線を合わせるとなんか恥ずかしいし、下に逸らすと胸を見てるだけの変態だし、後ろの壁や、俺の右横の外が見える壁の、外側に貼ってあり反転文字になって見えるミュージシャンのライブのポスターを見てるとあからさまに目をそらして彼女…改め雪乃ちゃんに嫌な思いをさせるかもしれない…顔も見れないようじゃ、パンツなんて夢のまた夢だ…。


 「…あ…あのさ…」


 「ん?」


 雪乃ちゃんは塩むすびを食べていたが、わざわざ俺と会話するために水を飲み、口の中のものを飲み込んで俺の目を見た。


 「…電車は…乗らないの?」


 「うん、あのバイク乗る」


 ガンガンに冷房が効くこのコンビニで、汗をかいたまま拭かなかったせいで肌寒くなってきた。ていうかどうしよう…雪乃ちゃんの胸元からなんかピンク色の何かが透けてきた。これ見たらダメなやつだ…。


 「俺と2人で?」


 「そう、ちゃんとヘルメット持ってきたよ」


 「そ、そう…」


 確かにあれもパンツと同じく、下着ではある…がしかし、俺は直感的にパンツを見たいと思った。ラッキースケベではなく、気が済むまで存分に楽しむという意味だ…だがどうしよう、目を合わせて会話することもままならないのに…心臓に何本毛を生やせば平常心でいられるんだ?


 「め、免許…持ってたんだ…」


 雪乃ちゃんは塩むすびを食べきり、もう一度水を飲んで口の中のものを流し込み、パッケージを袋に入れ、袋を空気を抜きながら結んだ。


 「去年取って、おばあちゃんにもらったの、今まで生まれてから誕生日を祝えなかったからって…送られてきた、中古だけどね」


 「そ…そうなんだ…優しいおばあちゃんだね…うん…」


 もう俺は両手をずっと握り締め、手汗がすごい、太ももに置いた両拳を見るために下を向かないと、舌を噛み切って貧血を起こしそうだ…。


 「今からそのおばあちゃんの家に行く」


 「…どれくらいかかる?」


 「休憩ありだと…日が暮れる前には着きそうかな、ごちそうさま、そろそろ行こっか」


 「う、うん…分かった」


 彼女は店内のゴミ箱に袋を捨て、一緒に店を出た。中と外の温度差に吃驚し、体中に一気に熱気が襲ってきたようにも感じた。

 やはり今日もセミがうるさい、コンビニでの冷えた体はどんどん熱くなり、すぐに汗もかきだした。

 俺は雪乃ちゃんの後ろを歩いている、透けて見えてしまっているブラを、ダメだと分かっていてもどうしてもちらっと、またちらっと見てしまい、徐々に罪悪感が減っていってる自分がおかしいと思うと、何とか正気に戻れた。


 雪乃ちゃんはスカートの右側のポケットからキーを取り出し、キーをオンにし、左手でブレーキを握り、スイッチを長押しして赤いスクーターのエンジンをかけた。


 「後ろ乗って」


 「…いいの?…法律的に」


 「いいから早く」


 「わ、分かった…」


 俺はヘルメットを渡され、俺と雪乃ちゃんはヘルメットを被り、「失礼します」と一言言って、雪乃ちゃんの後ろの席に跨がった。


 「掴まっててよ」


 「…こう?」


 俺は雪乃ちゃんの制服の襟を、申し訳なさそうに右手の親指と人差し指でつまんだ。


 「いやいやこうだって」


 そう言うと、雪乃ちゃんは俺の右手首を右手で掴み、自身の腹部に俺の右手を回した。


 「へっ!?…え…あ…」


 「両方回して、落ちるから」


 「は、はい!!」


 俺は恥ずかしさを押し込め、勇気を振り絞り、両腕で雪乃ちゃんに抱きついた。ここまで女子に密着したのが初めてなので、心臓が爆発寸前みたいにバクバクと脈打っている…心なしか、雪乃ちゃんの心臓もバクバクと脈打っているようにも感じた。100%気のせいだ。

 雪乃ちゃんはバイクを走らせ、アスファルトの上を駆け抜けていった。どこに行くのか聞かされて無いので、この先は未知の領域だ。





 ───どうしよう…私…男子に抱きつかれて…緊張する…。

 …事故らないようにしないと…うん…平常心、平常心…。

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