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第十三話 曖昧な心を溶かして

 「雨だ~…」


 「ホントだ…花火、大丈夫かな…」


 高校に入ってから、お母さんと一緒にこの村を離れ、知らない町に2人で暮らし、転校した。


 近くでバイトとかもしながら、普通に暮らしていたが、クラスでは空気、授業は速いし馴染めない。1ヶ月くらい高校にいかなくなり、お母さんの助言もあり、近くの別の高校にまた転校し、琉希君と出会った。


 しかしまあ猫をかぶっていなかったのに、それっぽい返事で鍵の落とし物のお礼をしたのは単純に私が人との対話に慣れていないからだ。


 他の人達とは違う、独特で、常に私の意識の外側から覗かれている感覚だったが、ゲームでのお気に入りのモンスターをかわいがるくらい、大事に大事に育ててきた友達としての絆だったが、大事にし過ぎてほぼ挨拶しか出来なかった。


 昨日はあらゆる感情は優しさの派生だと言っていたが、優しさは本能ではない、生きていく上で、学ぶのが必然に近い、理性の原点だろうか?…うーん、考えれば考える程分からない…。


 つまり、全てが優しさではないと私は思っている。けどそれでいい…全部同じより、少し違う方が、劣等感は感じないし。


 日曜日の朝にテレビでやってる少女が変身するアニメのキャラのお面を凛ちゃんに買っていた時に、ポツン、ポツンと水の粒が落ちてきて、急いで折りたたみの傘を差した。


 琉希君と将人とはぐれてるし、まあどうせ将人はどこかで燃え尽きてるんだろうけど…一緒なら今から捜…。


 「疲れた~」


 「…そうだね、座ろっか」


 凛ちゃんは私の浴衣の袖を引っ張りそう訴えた。無理に動かなくていい…花火を見る場所は、決まっているのだから。




 「あ、場所は決まってるんだ」


 「おう、あのマンションの屋上だ」


 この辺はおばあちゃん宅よりは街として建物が多くある。将人が指差したのは、将人の真後ろにある、5、6階建てくらいのマンションだ。前に遮るものはなく、花火はすごく見やすいと思う。


 「入れるの?」


 「毎年花火大会ん時だけは管理人のじーさんに許可もらってる…だが、お前と凛は来るなよ」


 「…分かってる…まあ雨って言ってもパラパラッとだから、すぐ止むかもしれないし…なんか食べ物買ってくるね」


 「おう」




 雲行きは怪しいが、花火の中止というアナウンスは無い、橋の上や河川敷は人がごった返していて、買った焼きそばを落とさず歩くことに注意を向けなければならなかった。


 一応辺りを見回して捜してみたが、雪乃ちゃんと凛ちゃんの姿はなかった…もう屋上に向かったのだろうか…。


 15分かかってようやく将人の元に戻ると、将人の前には3人の同年代の男達が立っていた。


 「おい北條、お前何してんの?」


 「いや…」


 「幸野がいねぇと寂しいか?俺たちと回ろうぜ~?」


 「…」


 つるまれてるのか?…なんか言われて、肩組まれてるけど…何も言い返せて無いのか?…ホントは関わりたくないけど、将人は放っておけないし…。


 「あの、すいません」


 「…誰?」


 「彼の友達ですけど、同じですか?」


 「そうそう、だから今から一緒に花火でも見ようかと思ってさ~?」


 「あいにくですが、彼はこれから大事な用があるので、遠慮してもらえませんか?」


 「は?俺たちとつるむより大事な用とかねぇだろ?なあ北條?」


 「…それは…」


 「優先順位の優劣は彼自身が決めるので、そんな脅迫紛いな聞き方で」


 「ああ!!?うぜぇんだよ!!!」


 ダメだこりゃ…力技でどうにかしようとしてるバカか…話しても無駄か…あの手しかない…不甲斐ないな、騙さないと撃退出来ないなんて。


 「…よく見たらあなたたち…いい体格してますね、何部ですか?」


 「は?おい触んなよ!」


 「あ、良い筋肉…ははは…ちょっと興奮してきた…」


 「やめろっつってんだろ気持ち悪ぃな!!!」


 「ということは…こっちも大きいのかな?」


 「気持ち悪ぃ…ホモかよ…」


 「おい行こうぜ!」


 真ん中の男の腕や腹を舐めるように触れ、とりあえず適当に息を荒げ、股間を触って撃退に成功した。悪い奴を懲らしめたい訳じゃなく、ただただどこかに行ってほしかったのでこの手に出た。


 案の定こいつらは立ち去り、俺と将人をゴミを見るような目で去って行った。将人が巻き込まれたらまずかっただろうか…。


 「ゲイは気持ち悪くないだろ、むしろマジョリティよりも心が強くて、リスペクトすべきだろ」


 「…わ、悪ぃな琉希…」


 「勘違いしないでよ」


 「してねぇよ…」


 結構雨で濡れてしまった…焼きそばの被害も0じゃないし、早く食べよう…それより今、ものすごくリスペクトに欠けた行為をしてしまったな…撃退のためとはいえ、反省しなくては…。


 「…見ての通りなんだけどさ…俺…小学生の時からいじめられてさ…」


 見ての通りと言われても…俺のイメージからかけ離れてる姿で驚いてるので精一杯なのに、ちょっと理解が追い着かない…。


 「キャラ作ってんじゃなくて…雪乃の前だといつも明るくなれて、その流れでお前の前でもああいう感じでさ…空気なんだよ、俺」


 「…そうなんだ…」


 「がっかりしたか?」


 「別に…イメージとは違って驚いたけど、そこに何かを求めてなかったし、特にがっかりは…」


 「あ、そう…まあ、依存って感じなんだけど…俺には雪乃が必要なんだよ…誰のものにもしたくない…好きな女の子と一緒にいたいってのは…間違ってないよな?」


 「…うん、間違ってない…不安なの?」


 「当たり前だろ、何回フラれてると思ってんだよ…自分に縛りも科してる、ずっと本気だったが、今回は集大成だ…武者震いだってするだろ?」


 「…だね」




 ドラマチックな展開を求めるなら、もう少し強く、雨天中止になるくらい雨が降った方がよかったかもしれない。中途半端に降って、中途半端に濡れて、何だかイマイチな気持ちとなってしまった。


 俺たちがマンションに着いた頃には、雨が止みそうなくらい弱くなり、すごい深呼吸をして、胸を何度も叩き、顔も何度も叩き、花火が上がる10分前に、エレベーターに乗って屋上に上がっていった。


 「よかった、先着いてたんだ」


 「うん」


 その5分後に雪乃ちゃんと凛ちゃんが手を繋いでやって来た。雪乃ちゃんの浴衣が透けて…目のやりどころに困る…思わず顔を背けてしまったが、気付かれて無いかな…。


 「将人は?」


 よかった…初手で話題にならなければ何とかなる…。


 「先に屋上行ってる、俺ちょっと凛ちゃんに用があって…先に行ってて」


 「…分かった」


 さすがに察されたかな…雪乃ちゃんは少し間を取ってから屋上に、エレベーターで向かっていった。

 濡れた髪と綺麗な肌のうなじに、初々しくも色気を感じ、少し感情が高ぶってしまった。


 「用って何ー?」


 「…凛ちゃんと一緒に花火が見たくて、いいかな?」


 「…凛が好きなの?ロリコンさんなの?」


 どこでそんな言葉覚えたんだよ…幼子の不意打ち知識はホントに心臓に悪い…。


 「う~んどうかな~…」


 「じゃあ凛が嫌い?」


 「嫌いじゃないよ!好きだよ?」


 「…お兄ちゃんが、ロリコンは変態だって言ってたよ?」


 「えっと~…ラブじゃなくて、ライクベリーマッチだよ?」


 「ライクベリー?」


 「凛ちゃんはお兄ちゃん好き?」


 「うん!好き!」


 「そういうことだよ」


 「…は!お兄ちゃんもロリコンさんなの?…」


 そういうことじゃないから!子供に説明するのすごいムズいな…まあこの際いいか、将人ロリコンさんでも…。


 「…焼きそば、一緒に食べる?」


 「食べるー!」


 端から見たら誘拐だ、食べ物で釣って2人でどこかに行くなんて…なんて事を考えはしなかった…いつもはしていたのに、今は雪乃ちゃんと将人の事が気になって仕方が無い。


 俺は凛ちゃんと一緒に、花火が見える休憩出来そうな場所を求めて、再び河川敷の方に歩き始めた。そういえば北條夫妻見てないな…屋台でもやってるのかな…見かけて無いけど…来てないのか?


 ───自分のお人好しさに、こんなに呆れたのは初めてだ…成功、しなければいいのに…。






 「よ、よう…雪乃…」


 暗くて遠目からはよく見えないが、声で将人だと理解した。そういえば琉希君さっき、私を見た時、目、逸らしてたけど…ああ、透けてるのか…古いからな…恥ずかしい…盗撮とかされてなけりゃいいんだけど…。


 琉希君が凛ちゃんに用があるとは思えない。将人は声が震えてたから、かなり緊張気味…そしてシチュエーション…察しはついた…あの誕生日のサプライズだから、凝ったりオリジナリティー溢れる演出は出来ないだろう。


 時期は毎年違ってた、花火大会は…意外と初めてか、6月はホントに多かったな~、ジューンブライドを履き違えてて、笑えた。


 屋上の、花火から一番近い、最上階から階段を上って扉を開いた目の前の手すりに、一歩一歩踏み出し、将人の右隣に立った。目が慣れてきたから表情も読み取れる…目が泳いでる。


 「手ぶらって事は、今年も収穫ゼロって事?」


 「い、いや!射的は当てたぞ!…この、超炎竜サンシャインドラゴン、ってモンスターのカードが!」


 「何のカードゲームのやつ?」


 「し、知らねぇ…けど、3年ぶりの景品だから取っとく」


 「あっそ」


 今は、私の気持ちもよく分かっていない…こんな状態での返事は失礼だ…今までも、本気だって分かってたけど、将人との関係性が、もし別れたら崩れるなら…友達同士の方が私は良いと思って、やんわり断ってきた。


 「花火、もうすぐだね」


 「あ、ああ…うん…」


 今みたいな、SNSの誹謗中傷みたいなのじゃなくて、普通に暴力と悪口、パシりとか遊び道具にされてる的ないじめを受けてて、味方は、私が知る次第じゃ、私しかいなかった。


 「なんか今年のたこ焼き、タコ無し多かったらしいよ」


 「へ、へぇ…俺だけかと思ってた…」


 味方っていうよりは、心のよりどころ。元々人との会話が苦手で、友達とかも少なくて、だから私にはすごいよく話してた。私の前で明るいならそれでいいと思ってた、辛い顔見たりは苦手だし。


 「それ売ったら、どれくらいするかな」


 「さあ、超レアらしいから…って売らねぇって…」


 どっちも所詮は自己満足。けど、足りないところを補えるって意味なら、それはいい関係性だと思ってる。必ずしもカップルでなくてはいけない訳じゃないし、私もライクの方で将人は好きだ。


 「…俺ホントに祭りに弱いな…」


 「そうだね…」


 「…高校も、勉強もクラスづきあいも、ダメダメだ…」


 「そっか…」


 「…雪乃がどんだけ大事な存在なのか…いなくなってようやく気付いた…」


 「…まだ将人には、私がいないとダメなのかな?」


 「っ…」


 「まあ、高校だし環境も変わったから、これから少しずつ変え───」




 ドン!!!!




 一発目の花火の音が、夜空に光り輝いてから少し遅れて轟いた。

 それとほぼ同時に、いつの間にか私は、将人とキスをしていた。


 後から聞いた話だけど、私がさっき言った、私がいないとダメ、って所で将人は、私と同時に、小学校の時に同じような事を言った時の私とが、重なって見えたそうだ。


 「っ…ちょっ…と…」


 突然過ぎて動揺し、私は将人を突き放した。だけど将人は、さっきまでの緊張した様子がなくなり、私をそっと抱きしめた。だけど心臓はバクバクなってる…腹をくくったってやつなのかな…全然花火見せてくれない…。


 「俺は…雪乃が好きだ」


 「…将人…」


 「あの日からずっと、雪乃の事が大好きで、好きで好きでたまらなくて…何回も何回も告白した、フラれる度にショック受けて、けどどうせフラれるなんて思った事はなくて、上手く行く、上手く行くとしか思ってこなかった」


 「…」


 「…俺と…付き合ってください…願わくば…ずっと一緒に、いてください」




 花火の音が、霞むくらい聞こえなかった。将人の、話す度に大きくなる心臓の鼓動、超真剣な告白、何より真新しいキスの感覚、頭が真っ白だ…。


 告白って…こんなにもされて嬉しいものなんだ…知らなかった。


 「返事は、いつでもいい…今は、ばーさんとかおばさんの事で大変だと思うから…俺は、ずっと待ってる」


 …ヤバい、あの将人なのに…抱きしめられて、すごいドキドキしてる…これは…どういう感情なんだろう…。


 「…ほ…」


 「ほ?」


 「…保留…で…お願い…絶対返事はするから…」


 「分かった」


 ようやく放してくれた。将人はかなーり深い深呼吸をしている…私は唇に右手の人差し指を当てて、あの瞬間をフラッシュバックさせていた…。


 私のファーストキスは…夏色の轟音と共に、一瞬で、けれど時が止まったみたく、私の心に、深く深く残った。



 ───初めて、将人を…1人の男の子として見た…見てしまった。

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