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夕凪花火の決意

 「負けた~。みゆ、入りすぎ~!」


 いきなり3ポイントシュート対決を申し込まれたのはいいんだけど、5本先取で勝ちってルールで、5本連続で成功されたら、勝ち目ないじゃん~。



「今日も超絶好調。神がかってる……私。もはや私が神」

 


「みゆってたまに変なこと言うよね~。じゃあ次は1on1で勝負する?」



「え? やだよ。勝てないもん」



「えー! 勝ち逃げずるい~」



 シュート勝負ならいつでも再戦受け付けるよ、と言いながら、もう自分の世界に戻っていった。

 みゆはシューティングしてる時は、話しかけても返事が大概返ってこない。物凄い集中力だ。しかも一人でなんかぶつぶつ言ってるから、余計に話しかけずらいんだよね~。

 シュートが外れたら瞑想タイムに入るし。いや、迷走タイムかな?

 

 うちもシュートは得意な方だけど、やっぱりみゆには敵わないな~。

 シュートがよく入る人のプレーを見て、ボールが生きているみたいで、ゴールに吸い込まれていくって表現がされる事があるけど、みゆのシュートはそんな感じじゃないんだよね。

 どっちかと言うと、機械の様に正確で、無機質で、入るのが当たり前って感じなんだよな~。


 努力が天才を倒せることを証明する。みゆはそう言った。今となっては、みゆにシュートの才能があったのか、それとも努力で実力を身に着けたのか見極めることはできない。

 普通に考えれば、このレベルでシュートが入る人の事を、誰も才能が無いとは言わないでしょ。逆に、天才だと称賛されるレベル。


 じゃあ、レベルの高いとろこでプレーしている人はみんな天才なのかな? 上手くなれた人はみんな天才なのかな? だってさ、どこからが努力で、どこからが才能かなんて、誰にもはかることが出来ないんだもん。

 少なくとも今日、初めてみゆのシュートを見た人は、彼女のことを天才だと思うだろう。でも、幼少期からみゆをずっと見てきた人なら、みゆがどれだけ努力してきたか知っているから、同じ評価はしない。


 つまり、【天才】とは、ひどく不確定で、定義の曖昧な存在であり、ある人から見れば【そう】、またある人からみれば【そうじゃない】なんだろう。


 それなのに、みゆの事を何も知らない人が、彼女のことを天才だの、シュートセンスがあるだの、知った風な口をきくのは耐えられない。

 それはみゆだけでなく、もっちや、真琴っちゃんや、より……他のみんなについても同じだ。みんな、超がんばって、それぞれ自分にしかないスキルを身に着けている。うちを除いて……だけど。



 うちは、自分の才能に自覚がある。それは、ことバスケに限らず、全般にいたる。

 こんな事を言うと、ひどく意地悪で、性格の悪いやつに聞こえるんだろうけど、でも……出来てしまうものはしょうがない。


 小さい頃からそうだった。別に頑張らなくても、大概の事は出来てしまう。人並み以上に。少し頑張ってしまうと、人の足並みを乱す。


 何をやってもクラスで一番、学校で一番。それが当たり前。小さい頃は、それでもよかった。みんなが凄いねと言ってくれて、もちろん悪い気はしないし。


 けど、そんな日々は長くは続かない。

 頑張らなくても結果が出せる。それは普通の人からしたら、酷く妬ましいことらしい。そりゃそうだよね。自分がいくら頑張っても出来ない事を、隣で簡単にやられっちゃったら、腹が立つよね。


 幸いにも、嫌がらせとかいじめに発展する事はなかったけど、周りのみんなと心から打ち解けることは出来なかった。

 なんとなくどころか、明確な壁を感じる。分厚い壁を。まあ、それはそれで、別にいいやって感じで、そこまで気にしてはなかったんだけどね。


 バスケを続けたのも、ただなんとなく。他にやる事もなかったし。サッカーとか野球は、女の子だけのチームが無かったから、男子に混じってやって、男子に勝っちゃうのが申し訳ないってのも大きかった。


 うちの通ってた中学のバスケ部は、そこまで強くなかったし、楽しくやれればそれでいいと思って、とにかく手を抜いた。目立たない様に、無難に、適当に。

 よりと一緒にバスケするのは楽しかったし、どんどん上手くなるあの子を見ているのが好きだった。今になって思うと、うちがバスケを辞めなかったのって、よりがいたからなのかもしれない。


 後は、監督と美鈴ちゃんに出会った事も大きかった。初めて会った時は、びっくりしたなあ。

 無名校の無名選手に、なんで声かけるんですか? って聞いたら、監督が「お前、本気でバスケ、やってみないか?」って……


 意味が分からないですって答えたら、「うちの高校に来い。お前程度じゃ、歯が立たない選手ばかりだぞ」とか、いきなり煽られて。

 周りの人からしたら、全然会話が噛み合ってない風に聞こえただろうけど、監督と美鈴ちゃんには、全てお見通しだったんだろうね。煽り耐性の低い、うちの性格まで読んでた。


 高校に入ってからは、凄く新鮮だった。先輩たちもめっちゃ上手だったし、同級生たちも皆ひかる物をもっていた。一応うちがエースとして扱ってもらっているけど、それぞれ持っている【個性】には、敵わない。


みゆのスリーポイントシュート然り、真琴っちゃんのリーダーシップ然り。

 もっちのパスも、愛情あふれてるし~♪ 奏っちの力強さにも憧れる!


 頑張ってもいいんだって、必死にやってもいいんだって頭が理解した時、身体と……心が震えた。これが武者震いか~って思ったのを覚えている。

 

 美鈴ちゃんもうちを甘やかすことなく、他の選手と同じように怒ってくれた。分け隔てなく。凄く……本当に嬉しかったなあ。


 なんて、まだ引退するわけでもないのに、なんでこんな感傷に浸っているんだろ。らしくない。

 流石のうちでも、高校最後の大会前という、一生に一回しかない特殊な状態に、緊張しているのかな? 普段はそういうのとは無縁なんだけどなあ。


 こんなうちを受け入れてくれたチームに、恩返しをしたい。神様が与えてくれたこの才能を使って、チームを絶対に勝利に導く。

 いままで、疎ましくさえ思っていたうちの【才能】。本気で使う時がきたみたいだ。



「美鈴ちゃーん」



「おい、何度言ったら分かるんだ。コーチと呼べコーチと」



「美鈴ちゃん、一つ質問!」



「っとにお前は人の話を聞かないな……なんだ?」



「うちってさあ、天才だと思う?」



「何言ってんだお前。大丈夫か……?」



「…………」



「ふっ……ふふ。そうか……。夕凪、自惚れるなよ。お前より上手いやつは、世の中にごろごろいる。上には上がいるんだよ」



「そっか。うん……うん! うち、頑張るね!!」

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