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クオリティ

「あぁ……こ、これは。あっ……す、すごい。すごいよぉ」



 久しぶりと言うこともあって詩歌は少し興奮気味なようだ。いつもより少し声が大きい。



「あっ!文人くん……ちょっと、これって……やばい」


「うぅ……もうダメ。我慢できない、我慢するの無理……」


 詩歌の小さい手が自分のスカートの端をギュッと握りしめてプルプルと震えている。



「詩歌……」



「文人くん……いいよね?」



「あぁ。この日のためにずっと我慢してたんだろ?」



「う、うん……じゃぁ」




「お買い上げありがとうございましたー! またお越しくださいませー!」



 そう、ここはアニメイト。詩歌は……オタクだった。



「文人くんっ! やっと手に入れたよぉー。嬉しいな」



「おう、良かったな。前から欲しい言ってたけど、高くて買うかどうか悩んでたやつだよな? それ。」


 そう、詩歌は……他に欲しい物があっても我慢して、こつこつお小遣いを貯めていた。



「うん。ずっと悩んでて、でもやっぱりどうしても欲しくって……クオリティが……やばいの。あと、こう言うお店って一人で入りづらくって。男の人も沢山いるし」



「そうだな。僕も詩歌としか来ないけど、いまだに少し緊張するよ。まあ、慣れてしまえば大したことはないんだろうけど」



「そうだね。付き合ってくれてありがとう……他にこんな事を頼める人いないから」



 そう、わざわざ隣町まで来たのは勿論学校の連中に目撃されないためだ。


 隠れオタクなんて大層なもんでも無いけど、普通の高校生にとって、こういった趣味が周りに露呈することをなんとなく避けたいと思うのは、当然といえば当然だろう。



「文人くんも……SAOの新刊買ったんだね。」



 SAOサオ。今、巷で話題の釣りを題材にしたラノベだ。


「あぁ。丁度発売日が最近だったからな。自分でもここまでハマるとは思ってなかったけど」



「うん、うん。お勧めした方としても嬉しいの。特に……23巻のカジキマグーロと主人公の戦いは凄かったよね」



「あれは、やばかったな。読み終わる頃には全身汗だくだったよ。それにカジキマグーロがラスボスだと思ってたのに、まさか黒幕があいつだったとは……」



「かなり胸熱だったね。今後の展開に期待してる……引き伸ばしでグダらない事だけを切に願う」



 僕は今までアニメやラノベ方面のコンテンツに、実のところあまり興味は無かった。漫画くらいは普通に読んでいたけど。


 あることがきっかけで詩歌と知り合い(まあ、一年の時からクラスが一緒だから始めから知り合いではあるんだけど)、話をするようになってからハマったって感じだ。


「でも最初は驚いたなあ。詩歌の外見からして、オタクって感じしないもんなあ。服とかもお洒落だし」



「そ、そうかな……服は、妹が一緒に選んでくれたりもするから」



 うん、どうやら詩歌は自分がオタクだと言うことを受け入れてる系のオタクのようだ。ちなみに僕は受け入れない系だ。


 まあ、ちょっとラノベをかじったくらいでオタクを名乗るのは、逆に失礼というものだろう。



「あの、文人くんは女の子でオタクって、やっぱり気持ち悪いなって思う……よね?」



 詩歌が不安そうな顔で聞いてくる。



「詩歌。僕はオタクだからって気持ち悪がったりはしないぞ。別にアニメや漫画が好きな事って恥ずかしがることじゃないだろ? 正直言うと、清潔感が無くて、例えば自分の親とアニメイトに買い物に来てる、明らかに社会人くらいの年齢に見えるオタクは結構きついもんがあるけどな。」


 誤解を恐れずに言うと、だ。



「う、うん。それ確かに厳しいね」



「まあ、オタクへの偏見って昔に比べたらだいぶ無くなってきてるらしいぞ。だから、あんまり気にするなよ」


 そうなんだ…と少し安心したような様子を見せる詩歌。人の目を気にするな、とは一体どの口が言ってんだと心の中で自分でも思うけど。


 アニメイトを出て駅まで歩いている道中、詩歌の足が止まった。


「文人くん、今日は付き合ってくれたお礼に何か……そうだ。晩御飯をご馳走するよ」



「え? いやいや、僕も買い物したかったし、そんな気を使わなくていいぞ?」



「ううん。是非お礼をさせてほしいな。お金も全部使ったわけじゃないから」



 ずっと欲しかったグッツを手に入れることが出来て、よっぽど嬉しかったみたいだ。断って詩歌の気持ちに水を差すのも悪い気がする。


 お礼のお返しはまた改めてするとして、ここは詩歌の提案に乗っておいた方が良さそうだ。


「いいのか? じゃあ、お言葉に甘えて。ご両親にはちゃんと連絡しとくんだぞ?」



「うん。わかった。文人くんは何か食べたいもの、あるのかな?」



「そうだな。この辺だと、マクドナルドとかサイゼリアかな?」


 我ながらかなり無難なところだな、と思いながら提案する。



「じゃあ…サイゼリアにしようか。久しぶりにドリア食べたいかも」



「よし、じゃぁ決まりだな。この時間ならまだ混んでもいないだろうし、いってみようぜ」


 注文を終えた僕達はドリンクバーにジュースを取りに行く。詩歌はメロンソーダを選んだようだ。


「詩歌ってメロンソーダ好きだよな」



「うん。美味しいよね、メロンソーダ。あのね、たまに思うんだけど、コンビニやスーパーでメロンソーダってあまり売ってない気がするんだよね……なんでかなぁ」



「うーん、言われてみれば確かにそうかもしれないな。マクドナルドとかケンタッキーとか、ファーストフード店には必ずと言っていいほど置いてあるのに、小売店ではあまり売ってない印象はあるな」



「だよねだよね。なにか……裏で大きな力が働いてるんじゃないかと思うんだよね。いや、そうとしか考えられない」



 いったい何の組織が何の目的でメロンソーダ販売を規制しているのだろうか。


「よく分からないけど、詩歌がメロンソーダを好きだって事は伝わってきたよ。炭酸が好きなのか?」



「炭酸、好きだよ。文人くんは炭酸きらい?」



「炭酸はきらいじゃないぞ。まあ特別好きって訳でもないけど。でも夏とか、喉が乾いた時は炭酸に限るよな」



「うん、うん、流石だね。限界まで我慢した後で、一気に炭酸を流し込んだ時のあの爽快感……尋常じゃないよね。……ジンジャーじゃないね」



「……全く、しょうが(生姜)ない奴だなあ。ジンジャーだけに。なんてな」



「出来る……!」



 詩歌は普段は大人しくてあまり何かを主張するタイプではないんだけど、好きな物や好きな事については結構喋ったりする。


 冗談も通じるタイプだから喋っていて結構楽しかったりする。ふわふわとした印象の見た目と柔らかな雰囲気が相まって、幻想的とまでは言わないが、なんとなく神秘的に感じるのは僕だけだろうか。


 学校でもこのくらい喋れば、結構人気者になったりして……なんて事を考えながら食事を済まし、帰路についた。




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