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計画通り……②

 食事を終えた僕たちは、駅前のショッピングモールでウインドウショッピングをしながら、だらだらと歩いてる。

 ウインドウショッピングとは名ばかりの、目的地の無いただの散歩と言い換えることもできるけど。


 昔はデートの定番と言っても過言では無かったであろう【買い物】も、今ではただの口実になりつつある気がする。

 現代社会で何か欲しいものが発生した場合、大半の人がまずはパソコンなりスマートフォンで情報を集めるだろう。


 スペックの確認、価格の比較、画像検索からレビュー動画まで。下手をすれば店頭で実際に現物を見るよりもはるかに多くの情報を簡単に、しかも瞬時に探し出すことができる。

 どうしても現物を見てから購入したいという人も、目的のアイテムが自分の住んでいるエリアのどこの店舗へ行けば在庫があるかまで調べる事が可能だ。


 そうなってくると、目的の物を手に入れるための道のりは一本道となり、ブラブラと色々な店を散策しながら買い物をする必要性はほぼ無いに等しい。時間の無駄とすら感じる人もいるだろう。


 だけど、それはそれ、これはこれ。

 実際に、たよりと目的もなく【買い物】をするのはとても楽しかった。女性服のショップに入るのは流石に恥ずかしかったので遠慮させてもらったけど。

 逆に男性服のショップに、たよりが入ることには誰も何の嫌悪感も抱かないのに、男女が逆になるだけで、何故あれ程の気まずさが生じるのだろうか。男女平等社会とは一体……


 別に何かを買うつもりがあった訳ではなかったんだけど、たよりに似合っていると言われた、少し厚手のコートを衝動買いしてしまったのは、無意識のうちに上がってしまったテンションの所為ということにしておこう。


 その後、雑貨屋や本屋にも寄ったが、結局たよりは何も買わなかった。


「なんか悪いな。僕だけ買い物しちゃって」



「別にいいよ。いま私、お財布ピンチだから」



「あぁ……なるほどな。ひょっとして僕だけ楽しんでいて、お前に退屈な思いをさせていたんじゃないかと少し心配になっていたんだよ」



「……文人、私といて楽しいの?」



「え? そりゃ楽しいけど……」



「ふーん」



 たよりはまたそっぽを向いてしまった。まるでバッチを持ってないポケモントレーナーになった気分だ。今日は全然こっちを見てくれない。

 結局たよりが楽しめているのかどうか分からないままだ。



「それより次はあっちに行こう」



「え? まだ歩くのか?」



「うん。せっかくだし色々見よう」



「でもお前、財布ピンチだったら何も買えないんじゃ……」



「大丈夫、行こう」



 珍しく強引なたよりに引っ張られる形で買い物を続ける。

 そして気づけば外は夕日が沈みかけるほど時間が経っていた。

 見慣れた街を、たよりと二人でこれ以上ないくらい探索して、僕の足は棒の様になってしまった。



「歩きすぎて足が痛くなっちゃったよ。少し休憩しようぜ」



「計画通り……」



「ん? 何か言ったか?」



「ううん、何でもない。あそこのベンチに座ろう」



「ベンチか……外は冷えるし、どこか店に入って暖かい飲み物でも飲むか?」



「あそこのベンチに座ろう」



「お、おう」



 どうやらこれも、たよりのプランの一つだったらしい。

 僕を歩き疲れさせて、どこかのベンチに誘い込みたかったのか……

 そんな回りくどいことをしなくてもいいのにと思う反面、そこまでしてくれることに対して感謝の気持ちが湧いてくる。

 ベンチに座った僕は、パンパンに張ったふくらはぎをマッサージしながらふーっと息ついた。



「文人、色々連れまわしてごめんね」



「全然いいよ。いい運動になったしな」



「そかそか」



「「…………」」



「寒いね」



「そうか? たくさん歩いて体が火照っているのか、案外寒くないんだよな」



「え? そうなの……」



「「…………」」



「文人、寒くなった?」



「いや……」



「寒くなったら教えて」



 なんだそりゃ、とツッコミたい気持ちもあるけど、たよりって性格通りで、アドリブがきかないタイプだったんだな、と少し可笑しくなった。

 僕が寒さに震えるのをじっと待っている。何を狙っているのかは知らないけど、ここは、たよりの策略に綺麗にはまるために、本当に寒くなるまで僕も待つことにした。もう秋とは言い難い程の外気温だから、そんなに時間は掛からないのだから。


「たよりは寒くないのか?」



「ちょっとだけ寒い」



「大丈夫か? 県大会の前に風邪なんてひいたら洒落にならないぞ」



「大丈夫」



 こいつの大丈夫は、全然大丈夫じゃないんだよな……

 僕はおもむろに自分の着ていた上着をたよりの肩にかける。



「あっ……」



 突然の僕の行動に驚きすぎて声にならない声を漏らすたより。

 僕としてもこんなイケメン行動をとっている自分に驚いている。漫画やドラマの中の出来事で、自分には一生縁のないシーンだと勝手に思い込んでいた。

 でも、たよりが寒そうにしている姿を見て、それを放っておける程、僕は腐ってはいなかったようだ。



「だめ。文人が風邪ひいちゃうから」



「大丈夫だ。さっき、たよりに選んでもらったコートがある」



 僕は先ほど買ったばかりのコートを袋から取り出す。そしてタグに指を掛けて思いっきり引っ張ってみる。

 ……けど、当然のごとく僕の非力な腕ではタグをちぎり取ることは出来なかった。

 指がちょっと痛くなっただけだった。


 せっかく格好よく上着を貸したのに、これじゃあ逆に格好悪いじゃないか……こんなことなら、すぐに着れる様にお店でタグを切ってもらっておけばよかったと激しく後悔した。



「ちょっと貸して」



 たよりが僕からコートを取り上げ、タグのあたりを口へ運ぶ。

 【カリッ】という聞き心地の良い音を立てながら、八重歯でタグを止めているインシュロックを噛み切った。


「おお。凄いな……てか僕、格好悪すぎだな。ははは……」



「そんな事ない。文人は……かっこ……ごにょごにょ」



「え? 何だって?」


 ……このセリフを口に出来たということは、僕は鈍感ラノベ主人公だと罵られる覚悟を決めれたみたいだ。



「そ、それはいいとして……もうこの流れで渡しちゃお」



「渡す……?」



「はい、これ。かなり早いけど、クリスマスプレゼント」



「え!? ぼ、僕にか?」



「他に誰がいるの」



 ガサガサと音を立てながら、たよりは自分のバックから僕へのプレゼントを取り出す。



「開けちゃうね」



 袋の上部についているリボンを外して中からマフラーを取り出して、コートを着終わった僕の首にくるくると巻き付ける。

 そしてどうでもいいかもだけど、顔が近い……



「な、なんで? 凄く、本当に嬉しいんだけど、どうして僕なんかに」



「べ、別に……えっと、ほら、特訓に付き合ってくれたし……そのお礼も兼ねて」



「それは僕がしたくてしたことだし、お礼をもらう事じゃないって……」



「もー、いいから貰っといてよ」



「……でもなんでこのタイミング? ほんとにクリスマスまでは、まだ結構あるぞ?」



「だって、もうかなり寒くなってきてるし、早く渡したほうが長く使ってもらえるじゃん。それに……クリスマスは……わ、私が忙しいから」



 そう言えば、県大会で勝ち進むことができたら、ウインターカップがちょうどクリスマスから年始にかけてあるんだったな。

 県の代表校としての全国大会。クリスマスだろうがなんだろうが練習が休みになるわけがない。


 と、すっとぼけるのはやめよう。ひょっとして、たよりは僕と二葉の関係に変化があったことに気付いているのかもしれない。確信はないけど。

 それで……遠慮をしているのか?


 僕は本当に最低だな。二葉にも気を使わせ、たよりにまでこんな思いをさせて……


 さすがにこのまま鈍感ラノベ主人公ではいられない。敏感ヘビノベ主人公にもできればなりたくはないけど……


「たより、本当にありがとう。でも……これは受け取れない……」

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