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新しいものと、古いもの

 弓月と会うのはこれで何回目だろう。初めてあの子と出会ってから、それ程時間が経っているわけではないけど、私の中で弓月の存在はどんどん大きくなっている。悩み事があれば弓月に一番に相談する。他の人とは用事がなければメッセージのやり取りなんかしないのに、弓月とはほぼ毎日だ。それも他愛のない、さもすればどうでも良い内容ばかり。


 人間は変わっていく生き物だ。

それを望もうが、望まなかろうが、いつまでも同じ状態ではいられない。私にとってこの変化が良いものなのか、それとも悪影響なのか……今の時点では分からない。でも、今まで一人で抱え込んでいた物を誰かに見せる事で、気持ちは楽になる。


 だけど、その人が私の苦しみや悩みを代わりに背負ってくれるわけではない。いや、もし仮に苦しみや悲しみを、例えば荷物のように気軽に渡すことが出来る世界だったとしても、それを他の誰かに渡してしまうのは許される事ではないだろう。無責任にも程がある。


 私が誰かに頼ったり、寄りかかったりするのが得意ではないのは、根底にそう言った考えを持っているからだろう。悩み事や心配事を人に話すのは格好悪いとさえ思っていた。悩み事を誰かに解決してもらおうなんて、言語道断。そんな弱い人間に私はなりたくない。そんな風に考えていた。




 全く、何様だって感じだ。そもそも私は全然強い人間では無かったというのに。そんな勘違いと自意識過剰によって自分を余計に追い詰めていた事は言うまでもない。


 それに、そんな態度が周りにどんな影響を及ぼすのか、少し考えれば容易に答えが出るのに。副キャプテンでありながら、そんな簡単な事すら、思考する余裕がなくなっていた。


 とはいえ、誰かに寄りかかることが本当に良いことなのか、というと、これはこれで議論の余地がある。人間というのは生きているだけで業を背負って行くものなのだろうか。なんて、少し大袈裟に考えすぎるのも、私の悪い癖だ。


「流石に弓月でもまだ来ていないみたいですね」


 集合場所のカフェに入店し、深い赤色の、お洒落なソファーに腰を掛ける。店内は照明を抑えた、落ち着いた雰囲気を演出している。


 この店は以前、弓月に教えてもらって来店し、今ではすっかりお気に入りだ。弓月に誘われなければ、カフェなんて敷居が高くて一生利用しなかったかもしれない。一度入ってみれば、なんてことはな

いんだけど、なんとなく入りづらい……と、思ってたのは私だけなのかな?


 待ち合わせ時間より、かなり早めに家を出る癖も相変わらず治っていない。誰に迷惑をかけるわけでもないので、治す必要もないのだけど、下手をすれば相手に気を遣わせてしまう可能性があるので、注意が必要だ。特に相手も早めに集合場所に来るタイプの場合。時間の何十分も前から揃っちゃって、変な空気になる事がある。


 だけど弓月と会う時はあまり気にする必要がない。なぜなら……



「あっ! 桜ちゃんやっぱりもう来てるー 。今日こそは私が勝てると思ったのにー!」



「弓月、別に私に合わせてあなたまで早目に集合場所に来なくてもいいんですよ?」



「いやいや! 私がいつか桜ちゃんを倒すから! それに……」



「倒すって……それに?」



「早く来ればその分、桜ちゃんといっぱい一緒にいれるしっ!」



「ま、またそんな恥ずかしい事を平然と……」



「えへへー」



 弓月とだったら変な空気にならない。いや、ある意味、変な空気ではあるんだけど。



「それにしても桜ちゃんってなんでそんなに早く来るの? いつもそうなのー?」



「何故でしょう。昔からなのであまり意識した事は無いのですが、両親から人を待たせてはいけない、待たせるくらないなら自分が待て。と小さい頃から教えられていたからでしょうか」



「ご両親素晴らしい……って、それにしても早すぎでしょー!」



 呆れたような顔で微笑みかけてくる。



「まあ、それはいいじゃないですか。それより、弓月は何を頼みますか?」



 そう言ってメニューを差し出す。



「うーん、どうしよう。これも前から飲んでみたかったし……こっちの新商品も気になるしなー! うー、悩むー」



 弓月はメニューを決めるのにいつも時間がかかる。だけど、楽しそうにメニューとにらめっこをする弓月を見るのは好きなので全く苦にならない。



「桜ちゃんはどれにするの?」



「私はこれにしようと思ってますよ」



「桜ちゃんいつもこれ系だねー! 好きなんだねー!」



 私は気に入った食べ物や飲み物が出来たらそればかり頼んでしまう。もしかしたら、私が毎回頼む物よりも美味しい物があるかもしれない。


 ただ、ちょっと冒険して違うものを頼んだ時に、口に合わずに後悔するのが嫌なのだ。保守的、とは少し違うのかもしれないけど、自分の知っているもの、理解しているもの以外に足を踏み込むのが得意ではないのかもしれない。


 その点、弓月は私と正反対と言っていい。どの店でも、毎回違う物を注文するし、特に新商品には目がない。新しい物好きなのか、古い物には拘らないのか。はたまた、ただの物好きか。


 メニュー選びで言えば、大した話でも無いけれど、人間関係だとどうだろう? 私は食べ物や飲み物と同じで、新しく友達を作るのはたぶん苦手だ。昔からの友達がいれば、それでいいと考えてしまう。


 では弓月は……どうだろう。実際、今回私達が仲良くなれたのは弓月から声をかけてくれたからだ。そうでなければ、私達はこうしてテーブルを共にする事は一生無かっただろう。じゃあ、もし弓月が私以外の誰かに興味を持ち始めたら、どうなるんだろう?


 どうなるんだろう、と言ったものの、会う回数が減り、連絡する頻度が減り、疎遠になってそれで終わり。別に珍しいことでは無い。いや、違うな。そうなった時に[私はどうなってしまうんだろう]が本音だ。


 そんな事を考えていると、私はやはり、人に寄りかかるのが得意では無いと再認識させられる。人を信頼し、心を預けた時、その支えが無くなったら、派手に転んで大怪我する。それが嫌なんだ。私は人を信用出来ない最低な人間なのかも知れない。


 なんて、また悪い癖が出ている。

たかがカフェのメニュー選びで私は一体何を考えているんだろう。話が飛躍しすぎだ。えっと、なんだっけ? 弓月が、いつもそれだね! って言ってたんだっけ……



「確かにそうですね。それじゃあ……たまには違うものを頼んでみます」

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