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試合が大きく動く時、その中心にいる奴を人はエースと呼ぶ

 残すは4クオーターだけなんだけど、はっきり言ってこのゲーム展開で25点差をひっくり返すのは不可能に近い。ハイペースなゲーム展開であれば絶対にないとは言い切れないけど、スローテンポでロースコアなこのゲームで25点差という数字は見た目以上に重い。


 それでも相手チームは自分達のスタイルを変えない。今までこの戦い方で勝ち上がってきたんだ、どんなに苦しい展開でも自分達のバスケを貫き通すんだ、という強い意志を感じる。


 三年生最後の大会だからこそ、これまで自分達が積み重ねてきたものの全てをコートに置いてくる。そんな姿を見ていると薄っすらと自分の目に涙が浮かんでいる事に気付いた。


 そして4クオーターが始まった時、ある異変に気付いた。スターティングメンバーとほとんど変わらないメンバーが試合に出ていたんだけど、高橋さんが引っ込んで、あの18番の子が試合に出ていた。



「弓月、確かあの子って……」



「うん。一年生だよ。私たちとの試合にも出てたけど、あの後ちょっと調べたんだ」



「弓月……どっかの探偵みたいだね」



「名前は月見里二葉。ポジションはシューティングガードみたい。スピードはかなりのものみたいだけど、中学校時代のデータは全く出てこないんだよねー。もしかして他県から来たとか?」



「データってあんた……まあ、今からその謎の一年生のプレーが生で見れるんだからいいじゃない」



「そうだね。それにしてもテスト的なんだろうけど、一年生をスタートメンバーに混ぜるとは……今後使っていく気満々だね、あの監督」



 最後のクオーターが始まって、月見里さんがボールを持った瞬間コートの空気が変わる。ボールを受け取って一歩目。すでにトップスピードかと思わせるような鋭いドライブ。



「っっ! はっや……」



 ディフェンスは全くついていけない。ハーフコートに入った段階でカバーにきた1人も抜き去り、そのままゴールへとつっこんでいく。


 ブロックにきた最後の1人のディフェンスをかわすようにふわっとループの高いシュートを放ち、ボールがリングを通過する前に月見里さんはくるっと踵を返し、自分のマークマンの元へと歩を進める。直後、パスンッと静かにシュートが入る。



「スクープショット……」



「今シュート入るかどうか確認しなかったよね。大した自身……」



 ま、まあ、この一本は不意打ちみたいなもの……かな? 次のオフェンスではっきり……



「えっ?!」



「うわっ、オールコートディフェンス?!」



 相手チームがエンドラインからボールを出した瞬間、月見里さんがボールマンに凄まじいプレッシャーをかける。慌ててパスコースを探す相手のガード。


 しかし見事なまでに連携されたディフェンスでパスできる相手が見つからない。ボールをフロントコートに運ぶどころか、ジリジリと後ろへ後ろへと追いやられてしまう。



 ピーッ!!



「8秒ヴァイオレーション」



「やば……あんなディフェンスされたらボール運べないよ普通……」



 自分達のボールになり、月見里さんにボールが渡るとまた凄いスピードでドリブルを突きながら相手ディフェンスを切り裂く。


 更にそこから外へと簡単にパスを出し0度から富田さんがスリーポイントを決める。


 そこからは相手チームにとっては悲惨なものだった。今までのスローペースとはうって変わってのハイペースな試合展開。


 とにかくボールが運べない。月見里さんのディフェンスは眼を見張るものがあった。


 天性の勘だけではない。どれだけ走りこめば、あんな風に自由自在にコートを動き回れるんだ、と考えると背筋が凍る。


 辛うじてボールをフロントコートに運べても3クオーターまでとは違い、相手のガードがボールをキープできない。プレッシャーに負けてパスを出しそこから[攻めさせられる]展開が続く。


 今度は相手チームがいつも通りのプレーを出来ず、今まで開いた点差が更に大きく開いていった。


 45-20で始まった第4クオーターが終わった時の点差は、78対24点。終わってみれば大差がついていた。



「同じチームとは思えない……。ガードでチームが変わるとはよく言ったものだけど、こんなことって……」



 試合が終わった後も会場の騒めきはしばらく止むことはなかった。突如現れたNo.18を背負った小さな少女。たった一人で、コートに立つ残り9人、全ての動きを変えてしまうほどの影響力。



「あ、あれで一年生? 信じらんないんだけど……」



「う、うん……」



 単純に凄い、の一言では終わらせることができない。何か得体の知れない恐怖が纏わりつく。


 相手チームの心が折れていた、体力が底をついていた、最初から走る展開にしていればこれだけ点差をつけれる実力差があった。言い訳を並べればいくらでもそれらしい事は思い付く。だけど、あくまでも決勝戦まで残ってきた相手。それが何を意味するかはバスケを、いや、スポーツをやっている人ならなんとなく分かるだろう。


 相手もまた生半可ではないのだ。



「ねえ、弓月。これってさ、高橋さんよりもあの一年生の方が上手いって事になるの?」



「そんなことない!! 高橋さんの方が上手いに決まってるじゃん!!」



「うわっ。びっくりした。急に怒鳴んないでよ」



「あ……ご、ごめん! 試合見てたらちょっと熱くなっちゃった! ははは……」



「まあ、ガードってどっちが上手いとかって、なかなか判断つかないよね。プレイスタイルが違ったらよく分かんないしー」



「う、うん。そうだね。さっきの試合なんかだと高橋さんはわざとディレイオフェンスに付き合ってた感じだったし、最終的には逆転不可能な点差まできっちり持っていった訳だしね」



 実際こういう極端な例を除いてもガードの良し悪しは素人目では判断がつきにくい。


 シュートがよく入る、リバウンドが強いなど数字では計れない部分が多い。良いガードと呼ばれる人たちは一体何に長けているのだろうか。



「私にはよく分かんないや……」


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