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蛇に睨まれたカエル

 私はバスケが好きだ。


 あ、その前に自己紹介だった。

私の名前は星宮ほしみや 弓月ゆづき


 高校三年生で女子バスケ部に所属している。バスケットを始めたのは小学三年生の時。ポジションはシューティングガード。


 そして、明日から三年生最後の大会が始まろうとしている。


 三年生最後。


 私たちの高校の女子バスケ部は、はっきり言って強くない。ごめん。強くない、という言い方は少し見栄を張ってしまった。実のところ強くないどころか弱小校に分類される。


 県大会に進むためにはその前の地区大会を勝ち抜かなければいけないんだけど、今までの戦績で言えば二回戦まで勝てれば上出来なレベルだ。


 しかも、よりにも寄って今回の地区大会の二回戦の相手が県大会ベスト4常連のシード校。そのチームはスター選手が揃っている。


 三年の夕凪さんは県内でもかなり有名なスコアラーだし、キャプテンの皇さんもむちゃくちゃ上手い。あとは、同じポジションの高橋 桜さん。あの巧みなドリブルでの突破力とフリーの味方への鋭いパス。それにあのクールな感じ……密かに憧れているのはみんなには内緒だ。


 国体クラスの選手がゴロゴロいる高校に私たちが勝つ可能性は万に一つもない。


※国体選手=その県の全高校の中から選抜された、県の代表選手。


 私たちの部活のピリオドはすでに打たれているのだ。そのピリオドに向かって、自らの意思とは反して、じわじわと進んでいるだけ。


 バスケットボールは他のスポーツと比べると、番狂わせが起こりにくいスポーツと言われている。余程実力が拮抗していない限り、前評判の通りのゲーム結果になる事がほとんどだ。


 どのスポーツでもそうなのだろうけど、マグレで勝てるほどバスケは甘くない。漫画や映画のような大逆転ストーリーは現実世界では起こらない。積み重ねた分だけ高い所へ行ける。それが単純だが真であり、唯一の正解。


 いや、単純だからこそ、真理なのか。世の中の出来事の大半を、複雑にしているのはたぶん、人間だけだなんだろうな。


「はあ。ついてないなあ」


 ため息と愚痴を同時に吐いても気分はちっともスッキリなんかしない。それに先のことを考えるより、まずは一回戦を勝たないと。


 弱小校とは言ったが、決して真剣にバスケに取り組んでいないと言うことではない。練習だって毎日やるし、自主トレだってやっている。私だって頑張っているのだ。そう、頑張っている。


「考えすぎてもしょうがないし、もう寝よう」


 明日は朝も早い。せめて後悔だけはしないように、万全の状態で試合に臨もう。そんな事を考えながら、目を瞑り、自分が眠りに落ちるのを待ったのだった。



 そして試合当日。私たちは本日の日程の中で、一試合目に試合が組まれていた。もしかしたら、これが最後の試合になるかも知れない……そう思うと、いつも以上に緊張してしまう。


 一回戦の相手は私たちが言うのもあれなんだけど、ぶっちゃけ強いチームではなく、順当に勝ち進んだ。と言うことは、次はあの強豪校と対戦だ。


「よしっ! やるぞ!」


 そう言って気合を入れ直したところで試合前のウォーミングアップ時間の終わりを告げる笛が鳴った。ベンチに一旦集まり、円陣を組む。


「みんな、昨日部室で話をしたよね。私、みんなとバスケをするのが本当に楽しかった。もっとみんなでバスケをしたい」


 そう話すキャプテンの肩は少し震えているように見えた。私だってみんなのことが大好きだ。ここで終わってたまるかという気持ちがふつふつと胸の奥から湧いてくるのを感じた。


「みんな、この試合、負けたと決まっているわけじゃない。勝とう。勝って1分でも長くみんなでバスケをしよう」


 おおーー! と、みんなで叫び声を上げ、そのままスターティンメンバーはセンターサークルへ進む。


 ドキドキと胸の鼓動が早くなっているのを感じる。相手はあの強豪校。キャプテンはああ言っていたけれど、とても勝てるとは思えない。


 だけど、それでも……ただで終わるつもりもない。何か一つだけでも爪痕を残してやる! そう意気込んだでいた時、相手チームが大歓声の中、ゆっくりとこちらへ歩いてくる。


 王者の風格、とは正にこう言う事を言うのだろうか。


 雰囲気、オーラ、貫禄、威圧感。


 様々な表現はあるけれど、空気がピリッと締まるような、心臓がキュッと萎縮する様な感覚に耐えきれず、咄嗟に目を逸らす。


 蛇に睨まれたカエル?  全身から変な汗が出てくる。ウォーミングアップの時にかいた汗なのか、それとも新たに出てきたあぶら汗なのか。こ、こんな相手とこれから試合をしなくちゃいけないのか、と思ってしまった瞬間、目の前がぐわんぐわん揺れているのを感じ、足元もふわふわとして自分が立っているのかどうかも分からなくなった。


 あれ? 私、今何してるんだっけ?


「弓月! シャキッとして! 絶対勝つよ!」


 キャプテンの声にハッとする。ああ、そうだ。これから試合だった。落ち着け私。私の武器は分析力と冷静な判断じゃないか。


 シュート力があるわけでもない、スピードがあるわけでもない。長所と呼べるものが特にない私が唯一誇れるのは相手を研究して弱点を突く攻めをできること。試合の組み合わせが決まってから相手チームの試合のビデオを知人から入手して、何度も何度も見返してきた。


 各選手の特徴や癖、プレイスタイルはある程度頭に入っている。こっちだって小学生の頃から毎日毎日バスケをやっているんだ。そう簡単にやられてたまるか!


「うん。ごめん。ちょっと圧倒された。でも、もう大丈夫」


 そう言って私は前を向いた。これから立ち向かう強敵をしっかりと見据えた。


 さあ、試合開始だ。

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