ワードウルフ第二回戦
文人「よし、それじゃあ二回戦を始めようか」
最初の模擬戦とその後の第一回戦でゲームの感覚はかなり掴めた。
更に同率ではあるが、現在一位と好調な滑り出しだな。
でもゲームの感覚を掴んでいるのは僕だけではない筈だから油断は禁物だけど。順調な時こそ慎重に、行き詰まっている時ほど大胆に、だ。
第一回戦と同じ要領で、僕、月見里さん、たより、詩歌の順で[ワード]を確認していく。僕の[ワード]は、[右に座っている人の印象]だった。
僕の右に座っているのは月見里さん(二葉)だ。そして僕の左に座っているのが詩歌、正面にたよりという形だ。図で表すとこんな感じ。
たより
詩歌 二葉
文人
つまり正直に答えるとしたら月見里さん(二葉)の印象という事になる。さて、どうしたもんか。
二葉「皆さん[ワード]の確認が終わりましたね。それでは第二回戦を始めましょう」
まずは自分が[少数派]か[多数派]か見極めたいところだが、出だしが肝心のこのゲーム、焦りは禁物だ。
不用意な一言で一瞬で決着がついてしまうリスクがあるからな。
ここはひとつ様子見のジャブを……。
秋山「このゲームには必勝法がある」
文人「いや、誰だよ! ライ◯ーゲームか! てか月見里さん、年いくつだよ!」
二葉「ぬ。一三先輩、女性に年齢を聞くなんて失礼ですよ」
たより「あはは。文人ツッコミ鋭いねー。てかほんと誰の真似か分かんないんだけど」
二葉「こほん。第一回戦はみなさん警戒しすぎてギクシャクしてましたからね。勝負とはいえゲームなんですから、楽しみましょう」
確かに月見里さんのいう通りだな。ちょっとみんなムキになりすぎてる感はあったからな。ゲームは楽しんでこそゲームだ。
文人「それはそうと月見里さん。必勝法があるって言うのは本当なのか?」
二葉「まさか。そんな方法があるならここまでこのゲームは流行らなかったでしょうね。誰が勝つか分からないから楽しいんですよ、ゲームは」
誰が勝つか分からないから楽しい、か。ゲームの最中に落ち込んでいたたよりの姿をふと思い出す。スポーツの試合や対戦形式の練習の事をゲームという事がある。
僕たちが今、行っている遊戯とは意味合いが違うのかもしれないけど、月見里さんはバスケに関してもそう言う考え方なんだろうか。
スポーツは勝つことだけが全てではない。楽しむことを目的にスポーツをする人だって世の中には幾らでもいる。
でも、たよりや月見里さんはきっとそうでは無いんだろうな。絶対に負けたくない、誰にも負けたくないという強い意志があるからこそ努力するのだろう。僕にはとても真似できないけど。
二葉「ちなみに、一三先輩は今回の[ワード]についてはどうなんです?」
文人「んー、一言で言うと……女の子らしいって感じかな」
二葉「なるほど。姫城先輩はどうですか?」
詩歌「私は……そうだな……かっこいい、とかかな……」
たより「へー……かっこいいねえ。ちなみに私はかわいいなーって感じかな」
二葉「私も姫城先輩と近いですね。かっこいい方だなと思います」
確証は無いけど、恐らく今回のワードは[右に座ってる人の印象]と[左に座っている人の印象]だと推測される。
なので僕は敢えて自分のワードである右(月見里さん)ではなくどちらかというと左(詩歌)の印象と取れる発言をした。
もし自分が[少数派]だったとしても、[多数派]の意見に聞こえるので、他の多数派が[私のワードと同じっぽいな]と感じる筈だ。
逆に自分が[多数派]だったとしても、他の[多数派]の二人は[私のワードと違う]と勘違いするし、[少数派]の一人は[私のワードと同じかも]と勘違いする。
つまり、何れにしても決定打にはなり得ない。因みに余計な情報が入っていない一番最初の発言でのみ効果が大きい作戦だっただけに、月見里さんのパスは有り難かった。
文人「あと付け加えるとするなら顔がタイプだ」
詩歌「え?!」
たより「はあ?!」
二葉「……」
計画通り。僕は心の中で八神ライトばりに叫んだ。新世界の神になる。じゃなくて今のやりとりで分かったことが3つある。
①たよりのワードは[右の人の印象]だ。理由は簡単、僕が発言した瞬間あいつ月見里さん(僕の右にいる)をチラッと見た。
咄嗟に自分のワードと僕のワードが同じものだと考えて見てしまったのだろう。
単純すぎてこのゲームには向いていないかも知れないと敵プレーヤーの僕でさえ心配になってしまう。
まあ、そこがあいつの良いところなんだけどな。
②詩歌は恐らく左[少数派]だ。僕の発言で今も顔が真っ赤になっている。僕に顔がタイプだと言われて嬉しいかどうかは一旦置いといて、自分の事を言われたと思わなければここまで過剰に反応はしないだろう。つまり、僕の左にいる詩歌が引いたワードは[左の人の印象]という事になる。
③僕のワードは右、たよりのワードも右となると僕は[多数派]になる。
このゲームもらったな。[多数派]が二人以上[少数派]を言い当てなければ僕が正解してもポイントが入らないけど、今のやりとりで月見里さんも恐らく気付いた筈だ。あとは当たり障りのない返答でやり過ごせば万事オーケーというわけだ。
たより「ち・な・み・に、文人はその子の顔がどういう風にタイプなのかな???」
……そう、人生は自分の思った通りにならないから楽しいんだ。たよりさん、怒ってらっしゃる。ゲームの事忘れてませんか。
文人「い、いやそれは……ゲームなんだし本当の事を言っているかどうか分からないぞ?!」
詩歌「……えっ。うそ……だったんだ。そっか……」
文人「えぇ?! う、嘘じゃないって詩歌! そんな泣きそうな顔するなよ。なっ?」
たより「えっ? 何で姫城さんがショック受けるの? あれ? 二葉のことじゃ……?」
詩歌「……くすん」
文人「ゲームだから! みんな、これゲームだから!!」
二葉「はあ……これは三分間待つまでありませんね。もう[狼]当てに移りましょうか。」
板挟みにあっている僕に救いの手を差し伸べてくれたのは月見里さんだった。月見里さんの言う通りたよりと詩歌が自分のワードを吐露している様なものだからこれ以上ゲームを続ける意味はない。
よく出来たドラマやアニメなら答え合わせで大どんでん返しが待っているのだろうけど、生憎ここに集まったメンバーは詐欺師でも天才でもない、普通の高校生なのだ。
二葉「はい、じゃあ皆さん少数派[狼]を指名してください。せーの……」
文人「詩歌」
二葉「姫城先輩」
たより「姫城さん」
詩歌「私……」
二葉「そうですね。姫城先輩が『左に座っている人の印象』で、他の方が『右に座ってる人の印象』ですね。ちなみに、ポイントはこの様になります」
そう言いながらメモ用紙にスラスラと状況を書いていく。
一位 文人 2ポイント
二位 詩歌 1ポイント
二位 たより1ポイント
二位 二葉 1ポイント
二葉「トップは一三先輩で、他の方は同率2位ですね。良い感じに均衡してますね」
たより「そうだねー。意外と接戦だね」
文人「たよりが惨敗すると思ってたのにな」
たより「そうそう……えっ?! ちょっとそれどう言う意味……」
二葉「はいはい、夫婦漫才は後でやってくださいね。それでは最終ゲームにいきますよ」
たより「二葉までひどい……」




