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88 号泣

このたび、書籍化するにあたりタイトルが変更になりました。

書籍化情報についてはもう少ししたらいろいろご報告できると思いますのでこれからもよろしくお願いします。



 あの後拠点の周囲五メートルほどの範囲内にあった木を全て伐採したので、急ごしらえで作った柵の周辺から木がなくなった。これでモンスターが押し寄せても木を使って柵を越えられるようなことはないし、伐採した木を使えばさらに拠点の施設を充実させることもできる。



「おぅ、今帰ったぜぇ! っていうか、半日で随分変わったな」


 助けた村人を連れてアルがシロと一緒に拠点へ戻ってきたのは、そんなタイミングだった。ただ、予想通りに帰って来たミラとアカに比べてアルの到着時間は想定していた時間よりかなり遅れている。


「思っていたより遅かったですね、なにかありましたか」

「いや、特になにかあった訳じゃないんだが、助けた相手の調子があまり良くなかったらしくてペースを上げられなかったんだ」

「え、ちょっと、大丈夫なんですか!」

「ん? あぁ、大丈夫だと思うぜ。ちゃんとポーションも使ったし、食事もできていたからな。多分、心身ともに疲労が溜まっているせいだと思うから、ちゃんとした寝床で休ませてやれば落ち着くんじゃねぇか、なぁそうだろ?」


 頭をぼりぼりと掻きながらアルが横にずれて振り返ると、後ろから青白い顔をした妙齢の女性が出てきて頭を下げる。


「ご心配をおかけしてすみません。助けて頂いてありがとうございました」


 素朴な感じのワンピースのような貫頭衣は過酷な逃亡のせいか大分くたびれているが、仕立てはとてもよさそうで、胸元に光る緑石のブローチもよく似合っている。だけど一番気になるのは女性の頭にどこかで見たような三角耳が……


「いえ、ご無事でよかったです。ひとまずこの拠点はある程度安全だと思いますので、まずはゆっくりと体を休めてください」

「……はい、ありがとうございます。ですが、私はすぐ森に行かなくてはならないので」


 女性は強い意思を込めた目をして、再び森へと向かおうとする。


「ちょっと待てって、その体じゃ無理だろうが。せっかく助けたのに死なれちゃ困るんだよ」


 アルが慌てて女性の手を握って引き留めるのを見て、得心がいく。

 おそらくアルの到着が遅れたのは女性の調子が悪かっただけではない。この女性は何かを捜しながらここへと向かっていたから速度が上がらなかった。そして、その何かは自分の体を無視できるほどに大切なもの……まあ、あの耳を見れば考えるまでもないか。


「か、母ちゃん! 母ちゃんだ!」

「お、おかあさん……」


 私の後ろからかけられる声。やっぱりそうか。


「ラ……ライ、ライル! ルイも! あぁ! 無事で良かった!」

「母ちゃん!」

「ママ……おかあさぁぁん!」


 三人は凄い勢いで駆け寄るとしっかりと抱き合う。まるで互いの体温で無事を確かめ合っているかのようだ。


「母ちゃん! ばか母ちゃん! 俺たちを助けるためだからって今度こんなことしたら絶対許さないんだからな!」

「うん、うん! ごめんねライル、お母さんもうこんなことしないから。ふたりと離れたりしないからね」

「うあああん、おがぁさぁん!」


 今まで気丈なまでに涙を見せていなかったライとルイが号泣している。強がって明るく見せていてもまだふたりは子供だったんだ。

 本当にお母さんを助けられてよかった。こうなると、なんとかお父さんも助けてあげたい……アルとミラにはさらに探索に気合をいれてもらおう。


「や、やだ……ちょっと、もう、やめてよ。こんなの見たら私まで泣いちゃうじゃない」

「ひひ、チヅルちゃんは涙もろいからね」

「ふふ、そういうミルキーも目元が潤んでいるぞ」

「うそ! ロロロ、本当に?」

「(こくこく)」

「ミスティックギアのセンサーは高性能です。あなたのように感度を高く設定しているといつもなら誤魔化せることも誤魔化せなくなります」

「そんなことどうでもいいわ。私たちは何にもしてないけど、こんなシーンが見られるならここに残って良かった。エレーナもそう思ってくれるの、ありがとう」


 再会のシーンを離れた位置で見守っていた六花のメンバーも感動している。ここに残ったことを後悔しないでくれるみたいでよかった。




 その後、極度の疲労と無事に子供達と会えた安堵からかライとルイのお母さんであるマチさんは、まるで気を失うかのように眠りに落ちた。そんなマチさんをカラムさんの家へ寝かせ私たちは広場で現状を確認する。


「あたしが連れてきたトルソのおっちゃんは料理人で、アルレイドが連れてきたライのママさんは裁縫が得意らしいね」

「なるほど……となると、調合はレシピと作成方法さえわかれば後は感覚と経験ですから、親方とファムリナさんが残ってくれれば六花の皆さんの指導はなんとかなりそうですね」

「この後の村人の探索はどうすんだ?」

「……今日はここまでにしましょう。モックさんから聞いたポイントは今からだと少し遠くなりますから」


 アルの問いかけに、少し考えてから探索の中止を伝える。いくらアルやミラたちが強いと言っても夜の森は危険だ。夢幻人なら死んでも復活できるが大地人はそうはいかない。同じ理由で仮に村人を見つけても今日中に連れ帰るのは難しいだろう。


「今日のところは約束通りお酒も出しますし、しっかりと休んで明日またよろしくお願いします」

「にゃ! やたっ!」

「うひょ! 話が分かるな、コチ!」


 それなら今日は軽く酒でも飲ませて英気を養ってもらって明日頑張ってもらったほうが二人ともよく働いてくれるはずだ。


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お読みいただき有難うございます
気に入ってくれた方はブックマーク評価感想をいただけると嬉しいです

書籍第1巻も2020年2月10日に発売ですので、是非書店でご確認頂けたら幸いです。下のタイトルから紹介ページにとべると思います
i435300/
勇者?賢者? いえ、はじまりの街の《見習い》です~なぜか仲間はチート級~
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