Ⅱ 決勝戦-1-
【接続が完了しました。ようこそパンドラの箱-オンライン-へ!】
暗かった画面が一気に明るくなると、現実ではないのに視力がすり減るような感覚に陥る。
まったく、ここだけはどうにかならないものか。
さて、私のチームは日本代表、もとい決勝プレイヤーだ。
これからどこの国か分からない人間と宝探しをして遊ぶ。
世界大会は今回で3回目のようだが、私のチームの平均年齢は過去最年少らしい。
暇を持て余した高校生が集まっただけだというのに。
『おいシュウ、遅いぞ!もう30分もしたら試合が始まっちまうってのに。』
『そうだよ、シュウくん。100万ドルは待ってくれないんだから!』
ゲーム内世界の広場、所謂ホーム画面というのだろうか。
そこにはチームメイトの二人が立っていて文句を投げかけてきた。
声を発するといっても現実世界の抜け殻が実際に喋るわけではなく、VR世界だけで完結する行動だ。
「すまんすまん、リアルで用事が立て込んでた。もう準備はバッチリか?」
『お前を除いて、な。少し練習部屋で慣らしてきたらどうだ?』
『エントリーもバッチリ、あとは時間まで待機するだけでーす!』
二人の言葉に甘え、ちょっとだけウォーミングアップをしてこようか。
軽くうなずいて練習用のルームへと足を運ぶ。
ここらでチームメイトを含め、自己紹介のようなものをしよう。
私の名前は、高校二年生だということしか紹介の仕様がないほど特徴が無い人間だ。
ハンドルネームは“シュウ”だ。
なんの捻りも出来ない詰まらない人間だということは一目瞭然だ。
最初に声を掛けてきた男は前川淳、同じクラスの所謂友達というやつだ。
ハンドルネームは“ハヤブサ”。
そしてもう一人のチームメイトは葵というハンドルネームの女子だ。
たまたま意気投合して組んだだけなので、それ以外は何も分からない。
今から半年くらい前、このゲームのオフイベントに淳と参加した際、この葵という女に出会った。
学校の制服で参加するという奇行をした私たちに、年が近そうという理由で声を掛けてきたらしい。
「こんにちは、葵って名前で遊んでます!キミたちは…?」
こんな元気な娘が、よくもまぁ陰気オタクの集会に参加したなぁと思いつつハンドルネームを明かす。
そこから意気投合し、チームを組み…今や100万ドルの目の前に至った訳だ。
【間もなく決勝戦が始まります。該当プレイヤーはロビーにお集まりください。】
少しばかし体を動かしたところで、目の前に警告文が浮かび上がる。
間もなく本番だということを考えると少しだけ緊張を覚える。
だがそんな悠長なことを言っていてはヘマをして敗北しかねない。
なに、私のチームは世界最強に違いないのだから、とっとと敵を潰して賞金にありつこうではないか。
宝探しの様子は全世界に中継されるが、勝利の為なら見栄えはよろしくないが敵を全員ぶっ倒してでも勝利にありついてやるさ。
不敵な笑みを浮かべつつ、練習部屋を後にした。