Ⅰ ダイブ
【パンドラの箱-オンライン-サーバーにアクセスしています…】
VRヘッドギアを装着した私は、目の前に浮かび上がる文字を眺めながら真っ暗な空間に立っていた。
今の私はVR空間―すなわち仮想現実―に居る。
人工的に作られた疑似的な世界で、しかし実世界と同じように歩いたり、走り回ったりと色々出来る。
頭に専用のヘッドギアを装着し、VR空間に“ダイブ”することで、二つの世界を行き来するわけだ。
今から5年前では想像し難しいほどの技術がこうも進展しているとは…
いやはや人類の開発欲の高さには恐れ入る。
して、このVR空間に何の用事があるのかというと、目の前に浮かび上がる文字、すなわち『パンドラの箱-オンライン-』というゲームコンテンツにアクセスしているわけだ。
このゲームのルール自体は非常に分かりやすく簡単である。
3vs3のチームに別れ、ゲーム内に形作られた虚構の秋葉原にて宝探しを行う単純明解な遊びだ。
しかしながら、ただの宝探しならものの数ヵ月程度で廃れるであろう。
実際、飽き性である私自身も一日でさようならしていたであろう。
つまり。少しだけ特別なルールが絡み、かつそれが多くの人々を魅了しこの世界に引き込むのだ。
それは『職業』と呼ばれる役割が与えられるというところだ。
『戦士』『魔術師』『忍者』『狙撃手』『強盗』『テロリスト』『工作員』
この7つの職業のから1つをプレイヤーが自由に選択でき、時には敵を撃破しながら楽しく宝探しをする。
そしてチームが全滅した場合も相手チームの勝利となる。
簡単に各職業の説明をするなら、最初の4つは概ね想像通りだ。
忍者は自分が呼吸を止めている間は姿を隠せる。
狙撃手は移動が出来なくなる代わりに必ず敵の体力を削れる銃弾を放てる。
少し変わっているのは残り3つであろう。
『強盗』は10秒以内に宝物を獲得したプレイヤーと接触すると、勝利を強奪出来る。
『テロリスト』は爆弾を設置したり投げたりして戦い、1vs1に持ち込んだ場合には相手を道連れに出来る。
(単純な話、自爆テロリストだ)
そして『工作員』は虚構秋葉原の至るところに細工を施すことが可能。
ビルを崩して道を塞ぐとか、偽物の宝物を設置するとか、限られた回数で様々ないたずらが出来る。
テロリストなど言語道断と叫ぶ輩も居るだろうが、このゲームは米国でも人気なのだから良いのだろう。
そして今は世界大会が開催されており、これから賞金の100万ドルを賭けた決勝戦が始まろうとしている。