プロローグ(1)
西暦2156年。
世界は破滅の一途を辿っていた。
止まらない環境破壊により空は光化学スモッグに覆われ、気温上昇による干ばつで食料問題となっていた。
資源の奪い合いによる、小規模な紛争が発生し、警察は愚か、国家でさえも手に負えない状況となっていた。
世界ーーいや、地球は既に終わりの一歩手前まで進んでしまったのだった。
――東京郊外。
辺りが砂漠と化した場所で1台の防護車が駆動音を響かせながら走行していた。
乗車しているのは防護服に身を包んだ男が2人。1人は運転席で周囲を警戒しているがもう1人についてはシートを下げた状態で助手席のダッシュボードに足を乗せて寛いでいた。
「ねぇ、魎ちゃん」
「なんだ」
運転している男、榊原渉は隣にいる男、櫻木魎に声をかけた。
しかし、渉は彼の警戒心の無さに軽く溜息をつき、再び運転に集中し始めた。
そんな彼の様子を魎は一瞥すると徐に口を開いた。
「危険地帯なら流石に警戒はするが、ここは東京郊外の安全地帯だ。特に警戒する必要はないだろう」
「確かにそうなんだけど……無いとは限らないでしょ?」
「……」
渉の正論に魎はぐうの音もでないようだった。
魎は観念したかのようにシートを元に戻し座り直した。
「最近、バケモノの数が増えていると組織で噂になってたからな、警戒するに越したことはない」
取り繕うように話し始めた魎に対して渉は鼻で笑うと少しだけ踏んでいたペダルを強く踏み速度を上げた。
「隕石の落下地点まであとどれくらいだ?」
「あと5分、かな。準備よろしく」
「了解」
魎は側に立て掛けてあるアサルトライフルM4を取り出し、弾を込め始めた。
2人が向かっている場所は数日前に東京郊外に落ちた隕石の落下地点だった。
とある組織に所属する特殊部隊員である2人は組織からの依頼で調査の命令を下されていた。
「隕石からはメッセージのような電波が飛んでいるっていうのが資料に書いてあったから、もしかすると……」
「何かしらの生物が存在する可能性がある、ということだな」
「うん。慎重にいこう」
「あぁ」
そうこうしている内に防護車は隕石の落下地点手前まで進んでいた。
隕石を中心として大きな窪みが出来ており、ここから先は車両で進むことは困難だった。
「行こうか」
渉の声を合図に魎は車から降りて中心部へ向け進んでいく。その後方から機材を肩に掛けた渉が続いていき、2人は中心部へと辿り着いた。
2人が辿り着いた先にあったのは、木製の古ぼけた扉だった。
「扉、だと?」
ありえない物体を前に固まる2人だが、固まっている訳にもいかないので、渉は扉の調査を。魎は周囲の警戒を始めた。
「見たところ普通の扉だね。しかもかなり古いよこれは…アンティーク物だよ」
「持って帰って家の扉と交換するか」
「だめだよ!?研究室で調べるんだから」
渉は持ってきた機材を取り出し調査を進めるがこれと言って変わった事は無く、そこにあるのは普通の扉だった。
「資料にあった電波を検索してみたけど、反応がないし、車に積んで再調査するよ」
「分かった」
そう言って魎は渉にM4を渡し、扉を持ち上げようとしたのだが、固定されているのかビクともしなかった。
「駄目だな。理屈は分からないが、全くもって動かないぞ」
「固定されている……?そんな形跡なんてどこにも」
刹那、扉が大きく開かれ、二人は後方に退いた。
開いた先は灰色の靄に覆われていた。
「警戒を怠らないで、この扉……凄く怪しい」
「言われなくても」
魎はM4の安全装置を解除した。
渉が携帯している機材は反応を示している。何やら電波を受信しているようだ。
「この反応、資料にあった電波と同じだよ。……扉の奥からだね」
「行くぞ」
そして、2人は歩き出す。
この先に待ち受けるものが人生を左右するものとは知らずに。