今日みた 夢の話
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夢の中の私は、小さな[僕]だった。
目が醒めた時
私は両手を胸にあてていて
なんだか死人みたいだな、なんて思った。
起きがけの虚ろな思考ながら
先程までの出来事が全て夢であることを理解した私は、
溢れて止まない涙を拭った。
神様は粋なことをするなぁ
誕生日に こんな素敵なプレゼント…………
心の隅で影を落としていた部分が
明るく照らされたのがわかった。
視界の端で点滅するスマホには
沢山のお祝いメッセージが入っていて
それがまた 涙を溢れさせてくるのだった
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澄んだ空気が涙腺を刺激する、寒い冬の日
僕は誕生日で、見たことのない店内にいた
ケーキ屋さんと本屋さんが一緒のお店。
その[見たことのない店内のお店]を、
僕はとてもよく知っていた
毎週土曜日、劇団へ行った後、
私が家族とよく行った本屋があった。
そこなのだ。
店内は私の知ってるものとは異なるけど、
ここでは 僕 が全てのルール。
その証拠に、あの店はとっくの昔に
潰れてしまっているのだった。
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その店の中。
ケーキを選ぶ母の横で
僕は幸せそうに笑っていた。
[あなた今日 誕生日でしょ]
母が僕の誕生日を覚えていてくれたこと、
自分の為にケーキを選んでくれることが
堪らなく嬉しかったのだ。
母の姿も声も実物そのものなのに、
性格は少々ツレない設定らしい
そんな所が[夢は深層心理を映し出す鏡]なんて俗説ぽくて
皮肉じみていると私は勘繰ってしまう。
母はレジ前で悩み、
後ろには男性が1人並んだ
あぁ、待たせてしまう、
僕は酷く焦った
小さい頃から そう だった。
人の目を惹く容姿のお陰で 周囲に怯え
気難しい兄にいいつけられた通り、周りの邪魔にならないよう、
内心常にびくつきながら生きていた 小さな私__
男性に心の中で必死に謝っている内に
母はケーキを決めたらしい
会計をする際、
母から 僕が誕生日だ、と知らされた店員が 此方を向いた
「おめでとう、何歳になったの?」
18です。
完璧な笑顔での、完璧な対応だった
店員の、[しっかりした子だなぁ]という心の声が 聞こえた。
事実、私はもうすぐで18になる訳だが、
僕の目線は低く、見た目は小さい子供のそれだった。
それ故に益々 良くできた子、という周囲の評価が
皮肉のように思えてしまうが__考えすぎだろうか。
その後 母は一冊の本を 僕にむけて選んでくれた
表紙に馴染みのあるやつだ
本が好きで 出会うとわくわくすることや
好きな作家さんの 集めているシリーズものだということ、
そして何より僕の心を占めていたのは
母がえらんでくれたという幸福感_。
僕はその本を大事に抱き締めた
まるで それが世界で一番の宝物であるかのように_
まぁ実際、世界一の宝物だろう、
僕にとって、 愛 というのは。
愛というものに人一倍の執着を持つものの
その受け取り方を知らず、
せっかく注がれても 直ぐに瓶を空にしてしまう僕だった
そんな僕が物を貰うというのは、
凄いことなのだ。
それはいわば可視化された愛で、
僕の心を満たすには もってこいの手段だった
幸せそうな僕を見て 店員が
「お勧めの本があるんだ」と僕を再び本屋のエリアへ連れ出した
……この間、母はどこへ行っていたんだろうか?
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出された本は上下巻、
何かの賞をとった有名なものだった
中を捲ると どうやら中古らしい
所々にマーカーがひいてあって、
何度も読み返されたことがわかる
ぼうっと その本を捲っていると
店員は心配そうに 此方をみつめていた
[つい自分の好きなものを勧めちゃったけど
気に入らなかったかな…]
聞こえる心の声に
慌てて僕は いい子 に戻る
これください
店員は僕の笑顔をみてわかりやすくほっとした後
レジに戻り本を包みにいった
僕はその様子を視界の端に入れながら 考えていた
小説で、心理描写に手の込んだものだったから
純粋に興味もあったものの、
他人の思考の跡が残された中古の本なんて
普段なら辟易するところなのだ
なのに 僕はなぜ これほどまでに欲しいと願ったのだろう
店員が選んでくれたものを無下にもできず いい子でいようとしたから?
或いは 単にプレゼントに満たされた?
それとも…他の…………?
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店員お勧めの本を購入し
僕は母の元へ戻る
その手には先程のケーキがあった
僕が本を見ている間に受け取っていたのだろう
そして二人で店を出て、歩きだした。
電話した母の言葉から察するに
父は車で近くまできているらしく、僕らはそこへ向かった
澄んだ空気が肌に冷たい
これといった会話もなく母の横を歩く僕
ハードカバー3冊がやけに重く感ぜられた。
身体が小さいだけのせいでは ないようだった。
大事に 本を抱えた。
幸せが心からこぼれ落ちることのないように、
必死に胸に抱き留めていた。
そこで僕の記憶は 途切れた___。
▼人物紹介▼
弥生(私)
17歳 女子高校生。
幼少から劇団で子役をしており
他人の感情を読むのが得意。
自己肯定感が低い為に、
いい子を演じることで取り繕ってきた。
愛情を受けとる器に欠陥を持ち 愛に飢えていたが、
高校で出会った友人達の影響で
素の自分を好きになりはじめる。
僕
中身は現在の弥生、見た目は8歳程度の少年。
周囲の環境が弥生の子供時代と酷似している。




