第70話 決着
二人のバトルがはじまった。
ましてや、兄弟喧嘩なのに、とんでもなく力がある。
お互いに、お互いを掴んだまま殴りあう。
「ぐ・・・」
「まだまだだよ、兄さん。」
「黒夜さん・・・。」
あたしは黒夜さんを見つめることしかできなかった。
目をそらしたい現実が、目の前に起こってもその事から逃げたくはなかった。
「あ・・・花音・・・を助けなきゃ…。」
あたしは急いで花音のもとへと向かう。
「はぁ・・・はぁ・・・」
「やるじゃん・・・。」
二人は息を荒げながら相手を見つめる。
少しでも目をそらすと相手に食われてしまいそうだ。
人間の喧嘩ではない。
もはや、殺戮だ。
「人間と吸血鬼のハーフが純血な僕に勝てるわけがない!」
そう言うと聖夜はすさまじい速さで黒夜に近付いた。
黒夜は必死に反応するが、聖夜の拳はそれを上回った。
聖夜の拳は黒夜の腹部を的確に捉えた。
「ぐ・・・。」
うずくまって倒れる黒夜。
笑って、それを見ながら殴り続ける聖夜。
正常から逸脱する戦闘。
異常性を持つものが勝ちに近くなる。
馬乗りになった聖夜は黒夜を殴る。
「これで終わりだ。」
そう言って、拳を振るおうとしたその時。
「何が終わりだ??? 聖夜。」
黒夜は聖夜の肩に足をかけポジションを変える。
簡単に言うと、地についていた黒夜が聖夜を逆に地に着かせ、
馬乗りの体制になった。
形勢逆転。
「聖夜、お前は許さない!」
そう言って、黒夜の拳は聖夜を殴り続ける。
1発。
2発。
3発。
4発。
5発。
6発。
7発。
8発。
9発。
10発。
誰かが止めるわけでもない。
スポーツでもない。
勝負が決まっていても、黒夜は殴り続ける。
11発。
12発。
13発。
14発。
15発。
16発。
17発。
「止めて!!」
と凛の叫ぶ声がした。
誰だ俺の手を掴むのは。
邪魔をするな。
嫌いな奴を殴って何がいけない。
俺の・・・大切な人を傷つけるなら。
「黒夜さん、お願いだからもう止めて!」
凛がひときわ大きな声で叫んだ。
黒夜は我に返る。
自分の手が血にで赤黒く染まっていた。
黒夜の血か聖夜の血かは分からない。
だが、黒夜の前には今、凛がいる。
「黒夜さん、もう止めて・・。花音も狼も私ももう大丈夫だから。
聖夜さんも大丈夫だから。
だから、止めて。」
そう言うと、凛は黒夜に抱きついた。
黒夜は
「はい。」
と静かに言った。
その眼にはなぜか涙が出ていた。