第46話 凛の過去。
今回はしゃべり少なめです。
これは、あたしの昔のお話。
パパとママは基本的に、その当時としては夫婦的に逆だったと今は思う。
ママがお仕事に行って、パパが家事してるっていうのは、あたしの子供の頃はかなり少数派だったと思う。
あたしはパパも好きだったし、ママも好きだった。
でも、ママよりもパパが好きだった。
あたしのそばにいてくれるのは、いつもパパだったし。
ママはお仕事だったけど、遊んでくれるから。
「パパ〜!!」
「ん、何、凛??」
「絵本読んで??」
「分かった。ちよっと待っててね!!」
あたしがお願いすると、パパは笑ってOKしてくれた。
ママが忙しかったから、その分、パパに愛情を求めてたのかな?
そのところの気持ちっていうのは、あんまり今だに分からない。
でも、ママよりもパパのほうが好きだった。
そのきもちが多かったの。
それは、きちんと覚えてる。
あたしの5歳の誕生日。
パパがあたしの前から消えちゃった。
ママと一緒に病院に行った時には、もう死んじゃってたの。
パパはあたしの誕生日のケーキを買いに、雨の日だったんだけど、お買い物に行ったの。
あたしは隣のおばさんのお家に一人じゃ危ないから、っていう理由で、パパと一緒に行かなかったの。
それで遊んでたら、ママがすごい顔で来て。
「凛!」って言って、あたしを連れてすぐに病院に行った。
あたしがものすごく覚えてるのは、パパが病院の部屋で眠ってたこと。
ママが、すごく泣いてたこと。
でも、あたしは死んでるっていう実感がなかったんだと思う。
パパは眠ってるだけで、すぐに目を覚ますんだと思った。
あたしは、「ママ・・・・・パパは眠ってるから・・・そんなに大きな声を出しちゃダメだよ。」って行った。
ママは、「凛・・・・パパはもう目覚めないの。」
「えっ??」
あたしはその時何を言ってるの??って思った。
だって、眠ってるだけだもん。
そうしか、思わなかった。
パパ?
と言って、あたしは揺らす。
でも、パパは目覚めないの。
ママは、「凛・・・・・。」
って言って、あたしを抱きしめてくれてた。
そこで、あたしの記憶は途切れてる。
パパが死んじゃってお葬式とか、そういうのはすごくすごく、いやだったから。
パパが死んじゃった事を認めたくなかった。
あたしはもっと、パパに甘えたかったっていうのもあるんだと思う。
パパにもっと色んな事をしてほしかったし、色んな事をしてあげたかった。
でも、パパはあたしの中で生きてるよね??
そう信じても、いいよね?
神様がそれはダメだって言っても、あたしはそう信じてるよ。
「お嬢様。」
「ん・・・・・・。」
あたしの前に黒夜さんが立ってる。
「今日はお疲れでしたね。」と笑う黒夜さん。
「あたし・・・寝ちゃったの?」
「はい。お疲れでしたようで。」
「ごめんね。変に泣いちゃって・・・・・」
「いえ、私は涙を流せる人が好きですよ。人のために泣ける人が。」
「本当??」
「はい。」
「黒夜さん??」
「はい。」
「あたしの前からいなくならないって、約束できる??」
黒夜さんはしばらく考えて・・・「はい。私、黒夜はいなくなりません。お嬢様をお守りするお仕事がある限り。」
「ありがとう・・。」
「いえ。」
「今日はもう遅いので、お休みになってください。」と黒夜さんがあたしに言う。
「うん・・。」
すると・・・・・黒夜さんがあたしをぎゅって抱きしめた・・・・・。
え?? え!?
「今、私が大切に思うのは、お嬢様だけですよ。」
そういうと、黒夜さんはあたしから離れた。
ドアが閉まる音がした。