第14話 執事、誘拐犯を撃退。
吉崎先生の放った矢は、黒夜さんの右胸に突き刺さった。
「間違いなく・・・心臓に突き刺さりました・・・黒夜さんは死んじゃいましたよ!!!!! ッハハハハハハハハハハハ!!!!!!!」
「黒夜さん!!! 黒夜さん!!!!」
あたしは呼びかけるけど、黒夜さんの体からは血が止まらない。
黒夜さんはピクリともしない。
「この人殺し!!!!」
「そうですよ・・・だからどうします! あなたが私を殺しますか!?」
「あんたなんか! あんたなんか・・・・・!!!!」
「どうすることもできない無力さに悲しむがいいです!!! アハハハハ!!!!!」
あたしは、悲しくて、悔しくて、泣いた・・。
どうすることもできないで・・・このまま悲しみの中死ぬの??
そんなのやだよ・・・。
そんなのやだ・・・・。
ピクッ。
ん・・・・気のせい・??
心臓を射抜かれたはずの・・・黒夜さんが動いた気が・・・。
「ん・・・・・・痛いですね・・・まったく・・・」
そう言って、何事もなかったように立ち上がる黒夜さん。
そして、胸に刺さっている矢を抜く。
え??? え?????
「な・・・何故だ!! 私は完璧に心臓を射抜いたはずなのに!?」
「カンタンな話ですよ・・・。」
「ち・・・・近寄るな!!!!」
「あなたが私を怒らせたんですよ。堕天使。吸血鬼相手に喧嘩を売ると、命をなくすということを教えてあげますよ」
吸血鬼・・・・??
え・・・・どういうこと・・・・。
あたしは夢を見てるのかな・・・。
信じられないようなことが立て続けに起きてる。
これは夢なの、それとも現実なの??
しっかりとしたことがよくわからなくなってきちゃった・・・。
黒夜さんはそういうと笑う。
ひんやりとした冷笑。
まるで、氷みたいに。
バシュバシュ!!
っと矢が連射される。
しかし・・・黒夜さんはその矢を・・・素手でつかんで止めてしまった。
「な・・・・何!?」
「堕天使。
あなたは旧約聖書では、天使の身でありながら神様に背いて、地獄に突き落とされましたよね。そんな裏切り者の矢など・・・私には子供につつかれたようなものです。」
黒夜さんの眼が怖くなる・・・。吉崎先生を見つめる眼はまるで・・・蛇がかえるを睨むよう。
獲物を絶対的な力で搾取するときの動物の目みたいだった。
「いい事を教えてあげますよ・・・堕天使。私は、正確に言えば吸血鬼と人間の混血児。
そして、神よりあなたの様に能力を悪に使う者を・・裁く権利を持つ者。
それが今の私、黒夜 一夜の仕事です。」
「き・・・・吸血鬼・・・・??」
吉崎先生は、その場にしゃがみこんだ。
黒夜さんは吉崎先生の首を締め上げ、持ち上げる。
そして、黒夜さんは吉崎先生の首に噛み付いた。
「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
「吸血鬼は血を吸うと思い、人間が勝手に名づけた名前。本当の私達は・・・・生物の悪意を吸い取るのです。そして・・・・・」
「そ・・・・そして、なんだ!?」
黒夜さんは・・・吉崎先生の頭を鷲づかみにして、耳元で言う。
「神の元へと送ります。普段は地獄に送るのですが・・・あなたの場合は特別に地獄へ送り返すのではありません。天国の神の元で罪を悔い改めなさい!」
「どうやって・・・送るんだ! 神の元へ送るなど・・・」
「不可能ですかね。お祈りでは・・・。」
吉崎先生の顔がひきつる。
「な・・な・・・やめろぉ!!!!」
黒夜さんは吉崎先生の前で手でロザリオを切る。
「私は吸血鬼ですが・・・混血のため十字架を切っても大丈夫なのです。
では!
聖なるかな、聖なるかな、聖なるかな、万軍の神なる主!
この神に背きし堕天使を神の名において、断罪せよ!!」
そういうと、吉崎先生が「あ・・・・あぁぁぁぁぁぁ!!!!」とうめき声をあげて、光ともに、消えちゃった・・・。
黒夜さんが、ネクタイを調えて「ふぅ・・・・あ、お嬢様!!!!」
そう言って、縛られているあたしのロープをはずす黒夜さん。
「吉崎先生、どうなったの??」
「大丈夫です。神様のところへと送っただけですから。」
「血を吸ったの??」
「ええ・・・ほんの少しですが・・・」
「あたしの血は吸うの??」
すると、黒夜さんは少しにこりとする。
そして、あたしの顎に手を少し触れて、「私はどんなことがあってもいい人の血は吸いません。誰彼かまわず血を吸うのは私の美学に反するからです。ですから、お嬢様は安心してください。」
でも・・・・・「黒夜さん、あなたは本当に吸血鬼なの??」とあたしは聞いた。
だって、突然のことだし、吸血鬼なんていうのはテレビや映画の世界で人間が作り出した、恐怖の産物だとあたしは思ったから。
黒夜さんは、「はい。」と少し笑う。
「証拠は??」
「証拠といわれましても・・・・・そうですねぇ・・・・・あの人の矢を喰らっても私が生きていることでしょうか。」
あたしは・・・信じられなくて・・・でも助かって嬉しくて・・・黒夜さんに抱きついた。
「お嬢様??」
「怖かった・・・怖かったよぉ・・・・・。」
あたしは、泣き出しちゃう。
すごい怖かったよ。
黒夜さんが死んじゃったと思ったとき。すごく怖かったんだよ?
でも、あなたが生きててくれて嬉しかったの。
それは本当だよ。
「お嬢様、お疲れでしょう。よいしょ。」
そういうと、黒夜さんはあたしをお姫様だっこする。
「黒夜さん!!」
ん・・・??と黒夜さんは不思議そうな顔をしてみている。
「何ですか??」
「恥ずかしい。」
「じゃあ、放しましょうか???」
いじわるそうな笑顔でそういう黒夜さん。
「ん〜・・・放してっていったら、黒夜さんは放すの??」
「では、放しません。」
そう言って、黒夜さんはお姫様抱っこしてあたしを連れて行く。
「く、黒夜さん!! ここ屋上!!」
「大丈夫です。」
すると、黒夜さんにお姫様抱っこされる、そして、あたしは黒夜さんといっしょに空をとんでるのが分かった!!
黒夜さんは自分の翼で空を飛んでいた。
真っ黒な翼で。いや・・・翼というか・・・こうもりの羽のようなもので。
「黒夜さん、本当に吸血鬼なんだね。」
「はい。」
「でも、あなたは堕天使とは違うんでしょ??」
黒夜さんはそういうと、笑う。
そして、静かにこう答えた。
「ええ。」
黒い夜空にお姫様抱っこされて空を見たあたし。
その夜空は今までに見たことがないくらい綺麗で、不思議な空だった。