10日目 色々な種族
昨日の疲れもあり、お昼頃まで寝てしまった。茶の間に行くと弟は、近所にいた友達と狩に行ったみたいだった。
「母さんおはよう早いね」
「おそよう」
茶の間にいた母が遅いぞとおはようを合わせた言葉をいいながら櫛で俺の頭をとかしてくれる。
「女の子も欲しかったから、ユキが女の子なってくれたのは本当は嬉しかったんだ」
「いやーでも不便だけどね」
母は、嬉しそうに話しながら俺の頭をいじる、父はそういえばどうしたんだろう?熱中症でまだ寝込んでいるのだろうか、
「そういや、父さんはどうしたの?」
「まだ熱中症で寝込んでいるけど殆ど完治してるから、明日には動けるようになると思う」
「そっか母さんはこれからの予定は?」
「アランくんとタンクの練習行って来るの」
アランと約束があるのか、俺の髪をとかし終えると急いで自分も準備をしていた。もう完全に仲良しになってしまっていた。俺は今日はどうしようと考える、嫌いな父と二人きりで家にいるのは辛いので、始まりの町に買い物にいくついでに装備を見る事にした。一人で行くのは気まずいので、ダークにも連絡を取ってみる事にした。
母は自分の髪をとかし終えると鎧を着て待ち合わせの場所にワープをしてしまった。ダークに連絡をしてみると丁度暇だったらしく、すぐに返信がきた。
「ええよ、何かいいアイテム出てるかもしれんしな」
「ありがとうございます、じゃあ入口前で」
連絡を切ると寝巻きから装備に着替える、寝ている父にみんな出掛けるから鍵閉めといてと頼み、ワープ画面から始まりの町をクリックすると入口前に到着する。
「ゆっきー来るの早いな、そういや二人だけで何かするのは久しぶりやな」
「そうですね、色々ありましたもんね」
「そういや食料とか、どうしてるん?」
「家族で交互に取ってきているので、そこは一安心ですね。飲み水は女神の水石あるのでなんとかなりますしね」
二人は話をしながら町の中を進んだ。ダークは昨日の疲れを感じさせないように興奮していたのかピョンピョン飛びながら走っている。本当に元気だなあ前見ないと危ないですよと、注意をしようとした瞬間、ダークが二人の女の人にぶつかるも背が小さい小学生の方が吹き飛ばされる。
「ウォー、大丈夫かい?」
青髪の犬耳美女がぶつかってきた子を心配する、吹き飛ばされたダークは仰向けに倒れていた。黒髪の同じ犬耳の美少女が左手でおにぎりを持ちながら、右手で俺を指差してくる。
「あー、ユキさんだ」
「あ、サモンくんとシエルさんだお久しぶりです」
仰向けになっていたダークを青髪の美女が起こす、
「ゆっきーの知り合いなんか?」
「前、まったり友達との紹介で仲良しになったんですよ紹介しますね」
「青髪の美女が【トリプルドッグ】マスター、シエル・ゴーストさんで、おにぎり持っている子が副マス、サモン・ルラくんです」
青髪の美女と黒髪の美少女は頭をぺこりとして挨拶をしてくる。つられてダークも同じように華麗に挨拶をするが見た目は完全に小学生である。
「おー、犬繋がりなんか俺は幸運の犬マスター、ダーク・メテオといいます仲良くしたってな」
「よろしくお願いします」
「よろしくです」
「お二人もお買い物ですか?」
二人は礼儀正しく挨拶をすると、俺は何をしていたのか尋ねてみた。
「僕の、おにぎりの中身探しにシエルちゃんと探しに来たんだけど中々見つからなくて……」
「お二人とも鮭とか市場で見ませんでしたか?」
「鮭おにぎりが好きなんか、俺達もまだ来たばっかでなあ」
サモンは涙目になりながらも尋ねてきた、どうやらおにぎりの中身はかなり重要らしい。
「せっかくなので、よかったらですが一緒に周りませんか?人が多いですし人数いたほうが見つかるかもしれないですし」
「ユキさん達がいいなら僕はいいけど、シエルちゃんはどうかな?」
「サモンくんがいいなら何処へでも着いていきますぞ」
「じゃあ決まりですね、まず何処から見ましょう?」
「そやな魚だとすると始まりの町から東側かな」
俺のお誘いに快くOKをしてくれる二人を見ながら赤髪の小学生は考えながら提案をしてくる。
「ダークさん何で東側なんですか?」
疑問に青髪の美女は聞いてくる、東門から先に行くと港街があるので魚の種類が豊富な事をダークが伝えるように説明をする、
「いやあっち側に港街あるし来るとしたら、そっちかなと思ってな」
「そうですね、もし魚が売ってるとしたら、その方向から見たほうがいいかもしれません。シエルさんサモンくんどうかな?」
俺は確認をするように尋ねて見ると少し二人は考え込むとすぐに承諾をしてくれた。
「僕、行ってみたい」
「行ってみましょう」
東門へと4人で移動を始めると、綺麗な風景ではなくなり少し不気味な空になってくる。
「そういや東側って【魔法人形族】の町だっけか」
「たしかそうですね、何かディズニーランドのホラーハウスみたいな雰囲気ですよね」
綺麗な空だったのに紫色の薄暗い空になっており、建物はお化けが出てきそうな家が何個も繋がっていた。薄暗かったが、町の住人だろうか人形同士が喋っているところを目撃すると、何か不気味に思えてくる。
東側の門のあたりに着いた頃には空はいつも通りに戻って人も普通にいた、やはり中央広場よりは魚の種類が多かった。
「うわー、いっぱいあるね僕の大好きな鮭あるかな」
「探してみよか」
サモンが感嘆の声を出していると、ダークさんが違う場所に行き覗き込むように探していた。
「鮭ないなあ」
「ないですね」
「そういや3人は紹介されて友達になったって言ったやん、どんな出会い方だったの?」
「結構前の話なんですが俺、着ぐるみを装備しながらそこらへん散歩する時ありますよね」
俺は思い出すように話し出す、あれは暇で町で彷徨ってた時で、たしかその時はダーク・ティファ・アランが高難易度レイドを攻略している時に俺はお留守番だった。俺が町をお散歩をしている時に大きな熊の気ぐるみの大男に話しかけられた、大男はきぐるみが入りきれないのか腕の部分が破けて黒い肌が見えていた。
「かわゆいですなあ」
「始めましてそちらも可愛いですね」
奇妙な出会いだった事を覚えている、そうあのハラコと出会ったような感覚だ。黒い肌の大男も彼女さんが買い物に行ってるせいか暇を持て余している感じだった、待っている間、二人は鬼ごっこをしたりかくれんぼをしたりゲームの中なのだがそんな簡単な遊びでもその頃は面白かった事を覚えている。
その人は商人の才能があったのか、すごいお金持ちで俺も何個かいい装備を貰った事を覚えている。ゲームで初めての結婚式に呼ばれたのもたしかこの時だったと思う。
奥さんは綺麗な人で金髪のキツネ耳の美女だった、その時に出会ったのがサモンくん達なのである。それを聞きダークは思い出したように喋る、
「そんな事あったんか、そういやよくお散歩して変な人紹介してたの多かったな」
「いや変な人では、なかったと思いますよ」
「僕一生懸命探したんだけどない、みんな僕のためにごめんね、もう帰ろうか」
サモンが諦めようとした瞬間、薄い紫髪の少女が大きい鮭を背負って引きずりながら町に入ってきた。サモンは鮭を見ると目を豹変させながらその子に向かって走っていき交渉を始めた。見た事のある顔に気づいたダークが話しかける、
「あれ、お前トラやんか」
「師匠さすがです。そんな大物釣ったんですか?」
トラコはサモンの交渉に困っていたのか、すぐにダークの後ろに隠れてこくり頷く。
「え?二人のお知り合い?」
「うむ、俺の妹分のトラコや」
「……よろしく」
サモンは驚いたように聞くが、やはりあまり喋るのが苦手なのかトラコは一言だけ言葉を発する。 でもなぜアイテムを出しっぱなしにしているんだろう、鞄に入れれば小さくなるのに、
「トラそれ俺達に譲ってくれへんか?」
「……いいよ」
すぐに鮭をダークに手渡しをすると、手を振って帰ろうとする。
「ちょっと待ってください」
サモンはトラコを引き止めて、床に手をつきお願いする。
「僕のお得意様になって下さい」
トラコは恥ずかしいのか、ダークの後ろに隠れるとそっと耳打ちをする。
「いいみたいやで、値段は1匹250ギルで請け負うってさ」
「いやったー、これで僕の食料は安定する」
サモンは嬉しいのか尻尾を上下に動いている、トラコは頷くとまた手を振り何処かへ消えていく。
「もう18時ですねおやつの時間だ」
サモンはそういうと中身のない、おにぎりをみんなに手渡してくる。
「くれんのか、ありがとう」
「サモンくんおにぎり本当に好きですね」
「うん僕、3食全部おにぎりでもいい感じかな」
「サモンくんはおにぎり食べている姿が可愛いからね」
おにぎりは絶妙な塩加減と美味しい海苔がマッチして、ものすごく美味しかった。青髪の美女が褒めているとサモンは照れていた。おやつのおにぎりを食べて4人は中央広場に戻る、あまり見ない動物が町を歩っていた。
「あれアリクイよな?何で町中歩いているんやろ」
「たしかあれは【お手紙システム】ですね」
見慣れない動物にダークが驚く、俺は知っていたのでその事を説明する。
お手紙システムとはフレンド同士の人だったら誰でも、どんな遠い場所でも届けてくれるシステムの事である。
「街中にあるポストにどんなお手紙でもいいんで【生命の実】と一緒に出すと【ムーマー族】が届けてくれるみたいです」
「生命の実ってなんや?」
「僕も聞いた話なんだけど、モンスターを狩っているとたまに出るらしいよ」
初めて聞く名前にダークは驚いているみたいだった。まあ基本お手紙送る事はあまりないので使われないシステムだったのだが、こんな事があり情報交換するのには重宝するシステムだ。
「ムーマー族ってあんな動物ばっかなの?」
「ううん綺麗な女の子やかっこいい男の子もいるみたい」
「姿形で言うと現実世界の本の中に出てくる、サキュバスみたいに角と羽根は生えていますね」
「でもああいう系統ってたしか、人間の生気を吸ったりする敵の部類だよね?」
ダークの問いにサモン・シエルは交互に説明をする。納得出来ないのか赤髪の小学生が恐る恐る聞くと、青髪の美女は首を振り答える。
「いえ、この世界のムーマー族は人とはかなり仲のいい種族ですね。人間のように洋服も郵便局員の様な服着てますしね」
「この世界で生気を吸う悪魔だと【エンフォルン族】ですかね?」
青髪の美女シエルが続け様に呟く、その種族は俺も始めて聞く種族だった名前にしてもどんな種族が全然わからない。
「エンフォルン族?初めて聞く名前ですね」
「町の酒場で聞いた話なんですが、新たな種族らしいです。生息地はドクロプレイヤーの町にいる事を確認したらしいです」
シエルは暗い顔をしながらドクロプレイヤーの話をする。
「たしか街の名前は【死と夕暮れの街デスイヴニング】よな?」
町の略称は犯罪街である、一回でもドクロマークが着くとワープ画面に表示されるようになるらしい、話によると町の回りは大きな壁に覆われており空は夕暮れ~夜にしか変わらない昔の吉原や夢の都ラスベガスみたいな街と言われ、唯一PK禁止エリアではないので危険エリアの一つとされる場所だ。
ダークが思い出した様に街の名前を呟くと、俺は頷いた様に喋りだす、
「そうですねあまり行きたくない場所ですよね、噂に寄ると始まりの町の地下にその町があるとかないとか言われていますね」
「そこにエンフォルン族がおるんか」
「ユキさんの話でも出ましたが近いせいか、始まりの町でも出没する事があるみたいです。まあ狙われる人と言えば性欲が強い人らしいですが」
「やっぱり美人が多いんかな」
ダークは楽しみだなーとニヤニヤし始める。
「これもまだ未確認情報なんですがエンフォルン族の殆どは人間だったらしく、オカマやオナベの成れの果てがエンフォルン族らしいです」
「ががーん、俺吐きそう」
「でもそれで餌食になる人とか実際いるもんなんですか?」
俺は不思議そうに尋ねると青髪の美女は頷く、
「幻術を使ってその人の理想な姿になりながら、生命力を根こそぎ吸ってしまうらしいです」
「怖えなあ」
ダークは本当に怖いのか体を抑えながらブルブルしている。当初の目標通り武器屋や防具屋を、覗くのだがあまりいい装備がない。
「いい装備売ってないもんやな、まあまだあまりお金ないから買えないけどな」
「ユキさんダークさん僕たちそろそろ帰ります、また遊んでくださいね」
「おうまたな」
二人は俺達に挨拶をすると大きく手を振って帰って行った。
「そろそろお開きにします?」
「そやな、だいたい見たしな、お風呂いって今日は帰ろうっか」
銭湯に行くと人が多かったが入る事が出来た。ダークと入りながら色々な話をして帰る事にした。
物陰に怪しい二人組がいる事も知らずに、
「あらあの赤髪の子、私好みだわぁ」
「でも右の女が邪魔よね、いなくなったら拉致る?」
不穏な話声も聞こえずに二人は手を振りながら別れる、俺は家に到着すると晩御飯を食べてその日を終えた。