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2章 劣等感と貴族のプライド


―――あれから家族皆でお祝いした。

三日後にラビィは自分の力で外出できるまでになった。


「じゃあ、また明日ね……」


誕生日パーティのときから、なんだかライミアの元気がない。

わけを聞いても家庭の事情だからと言われた。深く首をつっこむカテゴリじゃない。


「ねえねえMr.メルヒェンの新作読んだ!?」

「まだよ」


Mr.メルヒェンとはここ最近流行している新人作家。私は興味ないから読んだことないが恋愛小説家。

名前からしたらメルヘンチックな童話ジュブナイル、ファンタジーを書いていそうだ。


「あらすじだけでも教えてよ」

「主人公フラーナは従妹と入れ替わり、望まない相手との結婚を両親に告げられる話なの」


―――望まない相手との結婚。それでピンと来てしまった。

もしかしたらライミアは好きでもない相手と結婚させられるのかもしれない。


◆再びの取り引き依頼


―――なにやら美味しそうなポップコーソの匂いがただよっている。

普段なら買い食いしてしまうところだが、友人の心配で打ち消され悶々として歩く。


「久しぶりだねレイン」


いきなり声をかけられ、しかもそれはもう会うこともないと思っていた人物で驚いた。


「ウィルディオ様!?」


私は唖然として口を大きくあけたままだ。

人気のあるところで王子と呼ぶのは憚れる。

私たちは近場のカフェに入った。


「頼む!」


手を合わせ、懇願された。


「私にこだわらなくてもいいのでは?」


まさか本気で私を好きという感じでもない。

なぜなら王子という立場の人間ならやろうと思えば強制的に人を拐える筈だから。

それも中間地点の統治をしている大王国ともなれば、たんなる六つの花弁の一つに過ぎない飾国(しょくこく)の平民を一人や二人なんのそのだろう。


「騎士の女性なら身近な方ですし、偽装婚約でも引き受けてくださるのでは?」

「カエンにドレスは着せられないよ。一応は護衛の騎士なんだし」


ドレスを来たくないからとか理由をつけていたようだが、ガキじゃないんだから甘えんな。とも思うけど多にも事情はあるんだろうと黙っておく。


「ですからドレスを着なくても、というか護衛ならパーティーの同伴とかありますよね?」


あまりにハッキリしないのでついつい裏を探りたくなる。

私の態度が気に入らないなら彼から叱責されるところではあれ、相手が王子とはいえ、いまの私は頼まれる側だ。


「……わかった。正直に話すよ」


表情を先程の軽いものから固く変えるウィルディオに、やはり彼は王族なのだと理解できた。


「カエンは赤髪、君は銀髪だろう?」

「ええ」


まさか髪色で私を選んだわけではない筈。金髪に比べれば多くないだろうが、銀髪の女ならどこにでもいるくらい珍しくない。

比較すればむしろ彼の水色のほうが珍しくうつる筈だ。


「ジュグでは銀髪の女性しか王になれないきまりがあるんだ。そして条件に会う若い未婚女性で親がいて身元がたしかでジュグ以外の国の人で、取り引きしやすい平民で銀髪なのが君だった」


―――随分と厳しい条件だ。


「今は女大王ですが、ウィルディオ様が王位を継ぐのでは?」

「けど兄もいて、俺は銀髪じゃないから継げない」

「王位を継げないなら婚約者を銀髪に絞る必要がないのでは?」


後継者の妻が銀髪である必要があるならば、彼の兄に課せられた話で、後継者でない弟のウィルディオには関係なく見える。


後継者に限定せず王族は特定の髪色で然るべきだとか、そういう意味でもないようだが。


「……母は後継者を女王しか認めないだろうから」


理由はわからないがとにかく簡単に言えば王子の結婚相手が女王になるということなのか。


「まあいきなり話されても混乱するだろうし、後は仮婚約だから知っても無駄な事だから黙っておくね」


「逆に気になるのですが」

「うーん。正確には兄も俺も継げないんだけど、俺か兄のどちらかの子供が銀髪の女児なら次期女王なんだ」


つまり王家は銀髪の妻というより銀髪の女児の後継ぎがほしいというわけか。


「それとカエンに頼めないのは、彼女に婚約者がいるからなんだ」

「そうですか、それならまあ仮なら別に協力してもいいんですが……」


漫画や小説だと仮からマジになるパターンだ。


「なんかベタな物語にありそうな台詞だけど安心して、君に恋はしない。たしかに君はかわいいし美人だが」

「ウィルディオさんは想う女性はいらっしゃらないんですか?」


王子だから間違いなく諦めている感がただよっている。


「俺は全然君はタイプじゃないってわけじゃないけど、ごめん何故かわからないけど遺伝子レベルで拒絶反応がでる」


彼は水魔法、魔力の相性が悪いなら火魔法の筈なんだが。


「ウィルディオ様は水、騎士さんは火ですがそちらは大丈夫なんですか?」

「まあ幼馴染だから魔力の相性はさておき、慣れだね。信頼する騎士だし人間としては悪くない」


王子は笑った。


「それと昔は調和してくれるカエンの弟がいたから魔力の打ち消し役をしてくれてたんだ」


過去系だが、もう必要ないということだろう。



「私明日お見合いするのよ」


とある屋敷の庭で金髪の利発そうな少女が淡々とした口調でいう。


「へぇ……そうなんだ~」


緑髪の穏和そうな青年はプルプル震える手でお茶を飲む。


「アナタとの腐れ縁も終わりよシュマード=バロビニアン!」


少女は青年の名を呼ぶのは最後だろうと思った。


「僕こそもう君に魔法の成績で見下されたりこき使われたりから解放されてせいせいしたよ!!」


青年はカップをソーサーにのせ、庭を去った。



「はあ……」

「どうしたの?」


マルクがこれ見よがしにため息をついているので、私は心配するフリをした。


「明日見合いなんだ」

「……ふーんそうなんだ。いいんじゃない」


自分がOKしたくせになんでそんなにテンション低いの。


「お前将来結婚出来ないぞ」

「兄さんに心配されなくても!!」


お金持ちで有名なハイウィザードの孫で全属性魔法使いの学園でほとんどの女子から人気があるクラスメイトのラウルくん。

彼レベルは取り巻きAとして近づこうにも従姉のアクアルナさんや戦闘一族のお嬢様の鉄壁ガードがあるから無理だ。


だが隣のクラスのビィフロンスやアクアルナの従弟のニルスならギリいけそうな気もする。

だってニルスは没落貴族だし成績も上から四番目。

しかし、クラスの女子がいるので油断はできない。

お金持ちといえばジュエリット国の大公の息子ベルターくんも高嶺の花。


「……でも私庶民なんだよね」


身近に王族や貴族やらゴロゴロいるせいか自分も令嬢気分になっていた。


「なんかずいぶん間があったぞ」

「で、なんで結婚の話受けたの?」


「相手が相手だから拒否権はなさそうってか無いな」

「は?」


「相手は名家の一人娘なんだ。つまり俺お婿さんになります!」

「お嬢様といえば金髪ツンデレツインテールだよね……」


マルクがいなくなると知って頭が真っ白になり、変なことをいってしまった。


◆ダブルブッキング


「はあ……」


茶髪の少女は、告げられた命にため息をついた。


「これ見よがしにため息をついてどうしたんだ」

「カルヴァロス先輩はもし大切な人を殺せと命令されたらどうします?」


少女はナイフを磨きながらたずねた。


「身内は死んでるからな、大切な相手が想像がつかない」

「たとえばどこかのお姫さまとかと貴方が物語みたいに恋仲になり、暗殺対象だったら?」


少女から問われ、男は考えを口にした。


「逃げるかもな」

「物語みたいですね」


「じゃあお前は王子を暗殺するのか?」

「いいえ、ヨウコクの王子暗殺は私の姉がやるみたいですよ」


◆意にそわぬ婚約


マルクがいなくなるかもしれない。でも身近で妻と仲睦まじくされても複雑だからこれでいいのかもしれない。

今日の夕方、マルクは相手方に会うらしいけど――――


「きゃ!」


廊下を歩いていると、私は誰かとぶつかって尻餅をついてしまった。


「あら、ごめんなさい」


金髪の女子生徒が私に手をさしのべた。


「……すみませんでした」


相手は貴族のお嬢様だと言われずとも判断がついた。


「その銀髪、貴女はもしかして学園を首席合格したレインさん?」


銀髪の生徒なら私の他にもジュグの公爵令嬢ゼレスティーナとかがいるし、そう珍しくはないと思うのだが――――


「そうですけど……」


一応ペーパーテストは満点で魔力計測、面接などすべて既定を満たした。


「魔力が高いと聞いたけど、見たところ制御装置の類いは見られないわね」

「……ラウル先輩とか全属性使いで魔力が最強だそうですけど制御装置はしてないらしいですし」


魔力が暴走するのはそうとうキレた時じゃないだろうか。

そういうと女生徒は何が気に触ったのか頬を膨らませる。


「どうかしました?」

「なんでもないわ!」


右耳についた黄色のイヤリングをシャラリと鳴らして去った。


「ちょっとよろしいかしら」


程なくして、授業を終えた私は帰ろうとしているとあのときの金髪のお嬢様に呼び止められる。


「貴女、私と勝負なさい!!」


彼女は私を指を差す。


「ええ!?」


突然勝負をしろといわれ私は耳を疑った。


「お嬢様、本日は……」


侍女と思われる聡明そうなプラチナブロンドの女性が口を挟む。


「……その話は中止、明日にして!!」

「かしこまりました」


女性は無理難題と思われる急な予定変更に、反論することなく冷静に返答する。


「あの、まってください。私が貴女と勝負する意味や理由、利益がありません……!」

「貴女は調べによれば平民、なのに強い魔力を持って、他の追随を許さぬほど成績優秀らしいわね」


魔力が高いのは数値的にそうだけど、優秀というのは買い被りすぎだと思う。


「そもそも貴女の事を何も知りませんし」

「私はサンデラ。ヴォルディオン家の次期当主よ」


――――それは五大魔導一族のひとつだ。


「とにかく爵位を剥奪されたヘミン家ならともかく名もない平民の娘に、負けるわけにはいかないの」



魔導貴族の令嬢サンデラと私が戦うわけにはいかない。


「私が負けたらなにかペナルティはあるんですか?」


学園内で競う際に身分が関係なくても外に出たら報復が怖い。


「私はべつに貴女をいじめたいわけではないわ」


それは勝者の余裕からくるものではないだろうか。


「もしまぐれで勝ったら?」


この手のタイプはきっと劣化のごとく怒ると相場が決まっている。


「まぐれならともかく9割り方でこちらの勝ちで決まりよ」


サンデラは返事をする前に呪文を唱えた。魔法がこちらにくるギリギリまで待つ。

私は呪文を唱えなくても魔法が使えるからそのハンデだ。

むしろ魔導書の文字が読めないし、尊敬するラウル先輩がこの無詠唱タイプらしく私は密かに嬉しいのだ。


雷は一本の矢となり眼前に迫る。それをゴム製シールドで防ぐ。

――私は防いだところで隙ができていた。


「首席だけあってなかなかやるわね。不足はないわ!」


雷を無数に作ることもしないあたり小手調べというやつなのだろう。

―――この戦いに勝つわけにはいかない。

怪我をしないように自然に負けよう。



サンデラは貴族様だから怒らせないように自然に負けたい。


――まるでスッピンメイクみたいな矛盾ね。


「手を抜いたりしたら許さないわ」


手加減は侮辱ととられるし、まあもし勝っても、まぐれとか卑怯な手を使ったとか言われるくらいならまだマシだろう。


「貴女相手に手加減なんて無理です」


神星王を守る魔導貴族の次代の当主ともなれば、実力のない者は許されないだろう。

というか私なんで戦ってるんだろう。はやく帰りたいんだけどなあ。


「戦闘中に考え事?」

「いや、えっと……強い魔力にあてられて放心したんですよ」


あー面倒くさい人だなあ。せめて相手がただの悪党ならば容赦なく攻撃できるのに!


なんだか風を切る音がする。



「きゃあああ!!」


どこからかナイフが私へ向かって飛んできた。

魔法はできても物理に対する対処が出来ない。

というかナイフが上から降ってくるのは、身体を鍛えるとかそういう時限じゃないだろう!


「え?」


あたふたしているとすさまじいスピードで茶色のなにかが現れる。

鉄製のそれは弾かれ、そのまま地に突き刺さる。

茶色のなにかは、壁に刺さっていてナイフである事が理解できた。


「まさか噂の暗殺者?」

「だれなの私の命を狙い神聖な決闘を妨害する不届きものは!!」


――誰かの邪魔で戦いは一時休戦、皮肉にも助け船となった。



「サンデラお嬢様が体調を崩されまして、会食のお話はまた日を改めて頂きたい」


――使用人頭は電話をいれる。


「はいはいわかりましたよっと」


青年は眼前で争う二人の少女を見物し、鉄製のナイフを投げた。


するとそれは銀髪の少女めがけて飛んでいく。


「あ、ていうか殺すのどっちだっけ?」


身分の高い女を殺せと言われたのだと青年はぶつぶつ語る。


「まあいいか、失敗してもチャンスはあるわけだしな」


青年が見物を続けようと観察すると、どちらかの少女を刺し貫いているはずのナイフがなにごともなく地に刺さっている事に気がついた。

電話をしている間に避けられたと考えたが、あの様子はどうも違う。


証拠品となるナイフはどこにでもある素材で作られている。

素手で触れてはいないので放置しても問題はなく、むしろ回収したら犯人だと宣言するようなものだ。


相手は魔法を使えても物理には対応できない。

どうせすぐに殺せる相手なのである。

邪魔なのが火の魔法を除き物理の騎士共だ。



「そういえば姉上、サンデラが婚約をすっぽかしてレイン=ノンに決闘を申し込んだらしいです」


緑髪の青年はタブレッティオをいじり、監視中の部下からの報告を確認する。


「そう……私の獲物に手を出すなんて、オイタのすぎる小娘には仕置きが必要かしらねぇ……」


緑髪の女はカップへビンごと砂糖を流し、優雅に紅茶を啜った。



夕食の時間になり家族がそろう。

私はパンに辛子パウダーをふりかけてスープに浸す。


「お見合いどうだった?」


母がマルクに聞く。それが気になってしかたなかった。

マルクが結婚する相手はお金持ちという事しかわかっていないからだ。


「え?」

「どうだったの、別にどうでもいいんだけどね」


辛子パウダーをかけながら興味ない感じを装う。


「ああ、それがさあ……取り合えずは魔導家の貴族ということ意外は秘密にしてくれって言われた」

「まあ貴族様が平民に本気で婿にこいなんてないよね。たんなる気まぐれかもだし」


万が一お嬢様の気に召さずに婚約を破棄された場合はともかく逆は我々平民へ醜聞がふりかかるどころか死ぬ。

随分とおやさしい配慮を考えてくださったものだ。


「てかお前、唐辛子食いすぎじゃないか?」

「これくらい普通でしょ?」


苛立ちから、ついつい声が上擦る。



なんとなく気まずくなり、朝は早めに出掛けた。

――今日はライミアが学校を休んだみたいだ。


「……そういえば」


ライミアは何かに悩んでいた筈だ。

きっとその件で学校を休んでいるのではないだろうか?


彼女は学園に通う為、転送装置があるのにわざわざアラビンからやってきた。

アラビンやチャイカ、ワコクなど三つのエリアではあまり魔法を使う者がいない。

それは星自体が持つ魔力を与える重力・磁場のようなものが弱いからだ。

ジュグには最大、そしてヨウコク、トロカピアン、インダの順番に影響が強いとされている。


その代わりに日用品の開発、農工などが優れている。

少子高齢化でワーカーホリックのワコクが開発した人工母胎機で人間を作るのは許されているが、魔法で人の生死を操作することはやってはいけないのだ。

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