平穏
「知ってるか。収容所がさ」
「ああ、跡形もなくなっていたって話だろ?」
街の兵士は世間話をする。西にあるこの首都は、まだ戦禍とは無縁だった。
「怖いな」
「こういう時、門番でよかったと思うぜ」
「こら。前線で戦う兵に失礼だろう」
城門を尋ねる人はいなかった。兵士は暇そうにあくびをする。
「でもさ、敵をほぼ壊滅できたってさ」
「勝利は目前ってことか」
「そうだな」
兵士は空を仰ぎ見る。
「平和だな」
「ここはな」
その時遠くに人の影が見えた。
「おや、人だ」
「商人たちか?」
「いや、一人だ。旅人かもしれんな」
「俺も旅をしたいもんだよ」
髪の短い女が城門へ到着した。
「どちらから?」
「東の方からです」
「大変だったでしょう」
「まさか、戦争になっているなんて知らなくて」
門番の兵士と女はしばらく世間話をした。その間にもう一人の兵士が女の手荷物を検査していた。
「ん? これは?」
兵士は女の手荷物から拳銃を取り出した。
「それは自衛の為です」
「弾が入ってますね」
兵士は女を訝しげに見た。
「あら? 問題でしたか?」
「ええ、弾は抜いてください。やりましょうか」
「いいえ、私がやります」
女は兵士から拳銃を受け取った。女はそれを自らのこめかみに当てた。
「何を――?」
「天啓は我らを導く。貴様らに平穏はない」
女は空を見上げた。
「神の御加護があらんことを」
更なる戦争の引き金は引かれた。
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