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二、三分程歩いただろうか。空港の駐車場らしきところの奥まで来て、ようやく手を離したかと思うと、女性はくるりと俺の方に向き直った。
「まずは、何も言わずに連れて来てごめんね。別に怪しい者じゃないよ。倉橋あかりといいます。日本町に住んでるの。空港で、君が貨物室から出てくるのが見えて……。
一応聞いておくけど、密航、したの?」
密航。改めて他人の口から言われ、背筋がすっと寒くなった。そうだ、自分は、犯罪者なんだ。
「あぁ、大丈夫。警察に突き出して地球へ強制送還なんてことしないよ。させないしね。私はむしろ、君のような人がいるんじゃないかと思って空港に来ていたの」
だから、ね、と付け加えられ、俺は小さくつぶやく。
「……貨物室に、忍び込んで」
「そう……大変だったわね。名前は? どこに住んでたの?」
俺は自己紹介から事の顛末までをつぶさに語った。生まれ育った町、両親の死、密航の決意、そして、結月との別れ。話し出すと、言葉は止まらなかった。よく知りもしない相手に全てを話せてしまえたのは、彼女がただ静かに俺の話を聞いてくれたのもあるが、それ以上に、誰でも良い、誰かが欲しかった。ただ人が恋しかったのだ。
「そうか……。本当に、大変な思いをしてきたね。行く当てもないようだし、とりあえず私の家においで。大丈夫、悪いようにはしないから」
本当に、ついて行って良いのだろうか。倉橋と名乗った女性は、何のために俺に構うのだろう。
「私の目的は、家に着いてから説明しよう。話を聞くだけでも良いから」
「……はい」
わずかの逡巡の後、俺はうなずいた。