7
真っ先に目に飛び込んできたのは、砂塵の舞う発着場。その奥に、都市のようなものが見える。そして、頭上を仰ぐと、透明なドームの向こうに、青い地球があった。
「……本当に、地球を出たんだ」
初めて地球を見たとたん、急に実感が湧いてきて、俺は軽く身震いした。この世界に生きる者は、自分一人だという気がした。
これではいけない、と考えを払うように頭を振って後ろを向くと、すぐそこに空港の建物内に入る扉があった。隣の大きなシャッターや位置から察するに、貨物搬入の作業員用の出入口なのだろう。ノブを回してみるが、鍵がかかっているようで、開いてはくれない。仕方なく、俺は建物沿いに歩いて空港から出る方法を探した。時折後ろを振り返りながら、壁に手をついて進むと、正面玄関が見えてきた。フェンスがあるが、登れない高さじゃない。「よしっ」と意気込んでフェンスに手をかけた。
「おい、そこで何をしている!」
その声が聞こえたのは、フェンスを八割程登ったところだった。紺色のつなぎを着た男が俺に気づき、走り寄ってきてしまったのだ。
「くっそ……」
捕まるわけにはいかない。俺はガシャガシャと音を立てて残りを登り、向こう側へ飛び移って走り出そうとした。着地を無理矢理したせいで足に衝撃が走ったが、そんなことに構ってはいられない。地面に手をついて立ち上がったが、走り去るよりも男が俺の服の裾を掴む方が早かった。
「どこから入り込んだ!? 保護者は……」
「見つけた!」
よく通る女性の声だった。驚いて声がした正面玄関の方を見ると、二十代くらいの女性が息を弾ませている。黒く長い髪を赤いバレッタでまとめたパンツスーツ姿の快活そうなその人は、小走りでこちらに来た。
「まったく目を離した隙にどっかに行っちゃって……。甥がどうもご迷惑をおかけしました。……ほら、あんたも謝って!」
何が何だか分からなくて、俺は初対面の女性の顔を見た。彼女は「ほら、早く!」と口で急かすが、その瞳は強く輝くようだった。
「ご、ごめんなさい……」
「まったく、ちゃんと見ててくださいよ! 発着場は立ち入り禁止なんですから!」
「はい。本当にすみません。では、私達はこれで……行くよ」
有無を言わさずに女性は俺の手を引き、大股でずんずんと歩いていく。
「あ、あの」
「いいから早く」
俺のほうを見ずに、彼女はただ歩みを進める。強く握られた手の感触が、否が応でも結月の冷たく震えた手を思い出させた。