表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/14

7

 真っ先に目に飛び込んできたのは、砂塵の舞う発着場。その奥に、都市のようなものが見える。そして、頭上を仰ぐと、透明なドームの向こうに、青い地球があった。


「……本当に、地球を出たんだ」


 初めて地球を見たとたん、急に実感が湧いてきて、俺は軽く身震いした。この世界に生きる者は、自分一人だという気がした。

 これではいけない、と考えを払うように頭を振って後ろを向くと、すぐそこに空港の建物内に入る扉があった。隣の大きなシャッターや位置から察するに、貨物搬入の作業員用の出入口なのだろう。ノブを回してみるが、鍵がかかっているようで、開いてはくれない。仕方なく、俺は建物沿いに歩いて空港から出る方法を探した。時折後ろを振り返りながら、壁に手をついて進むと、正面玄関が見えてきた。フェンスがあるが、登れない高さじゃない。「よしっ」と意気込んでフェンスに手をかけた。


「おい、そこで何をしている!」


 その声が聞こえたのは、フェンスを八割程登ったところだった。紺色のつなぎを着た男が俺に気づき、走り寄ってきてしまったのだ。


「くっそ……」


 捕まるわけにはいかない。俺はガシャガシャと音を立てて残りを登り、向こう側へ飛び移って走り出そうとした。着地を無理矢理したせいで足に衝撃が走ったが、そんなことに構ってはいられない。地面に手をついて立ち上がったが、走り去るよりも男が俺の服の裾を掴む方が早かった。


「どこから入り込んだ!? 保護者は……」


「見つけた!」


 よく通る女性の声だった。驚いて声がした正面玄関の方を見ると、二十代くらいの女性が息を弾ませている。黒く長い髪を赤いバレッタでまとめたパンツスーツ姿の快活そうなその人は、小走りでこちらに来た。


「まったく目を離した隙にどっかに行っちゃって……。甥がどうもご迷惑をおかけしました。……ほら、あんたも謝って!」


 何が何だか分からなくて、俺は初対面の女性の顔を見た。彼女は「ほら、早く!」と口で急かすが、その瞳は強く輝くようだった。


「ご、ごめんなさい……」


「まったく、ちゃんと見ててくださいよ! 発着場は立ち入り禁止なんですから!」


「はい。本当にすみません。では、私達はこれで……行くよ」


 有無を言わさずに女性は俺の手を引き、大股でずんずんと歩いていく。


「あ、あの」


「いいから早く」


 俺のほうを見ずに、彼女はただ歩みを進める。強く握られた手の感触が、否が応でも結月の冷たく震えた手を思い出させた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ