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「……月へ向かう道すがら、儂はずっと泣き続けた。必ず守ると心に誓ったはずなのに、逆に結月に守られ、儂一人だけが月に来てしまったから。守り切れなかった悔しさしか、あのときの儂にはなかった……」
「……おじいちゃん、泣いてるの?」
孫に言われて、彼は初めて自分が涙を流していることに気がついた。幼い手から渡されたハンカチで雫を拭う。
「年を取ると、涙もろくていかんなぁ。坊、ハンカチをありがとうよ。もう大丈夫だ」
「そう? ……ねぇ、おじいちゃんの妹も、おじいちゃんと同じだったって、どういうこと?」
「結月、儂の妹も、儂と同じことを考えていたってことさ。儂があの子一人だけでも月へ行かせたかったのと同じように、あの子も、自分を犠牲にしてでも、儂を生かしたかったんだよ。儂も結月も、心のどこかでは分かっていた。どちらかが囮にならないと、船には乗り込めないって。でも、儂はそんなのは信じたくなかった。上手くやれば、二人一緒に月へ行けると、無理矢理に思っていた。……結局、その甘い考えと、それが叶いそうになったときの気の緩みが、結月と別れる原因になってしまったが。
でもせめて、最後に見るあの子の顔は、笑顔であってほしかった……」
カメラのファイルに入った結月の花笑みを孫と二人で見ながら、七十年前のあの日を思い出す。
「もし、結月さんを失くすと分かった後で、地球にいたときに戻れたら、おじいちゃんはずっと地球にいた?」
「……いや、月に来ようとしただろうな。今度こそ結月を月へ来させるために。今度は儂が犠牲になるつもりで、な」
「そっかぁ……。そしたら、僕はいなかったかもしれないんだね」
どきり、と老いた心臓が脈打つのが聞こえ、孫の顔を見た。その顔はあくまで純粋であった。
「そう考えると、坊は結月がくれた贈り物のようなものかもしれんな。坊だけじゃなく、儂の家族みんな。あの子には感謝してもしきれん。あの子の言った通り、儂は家族と幸せになれたんだからなぁ」
「うん! ねぇ、月に来てからはどうなったの?最初は独りぼっちだったんでしょ?」
「そうだよ。月に来てからは、いつもあかりさんに助けられた――」