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入口から見た限り、中で作業している人は四人。機械や荷物に隠れて進めば、きっと行ける。
「行こう」
ここまでとは打って変わって、二人で絶えず作業員の様子を確認しながらゆっくりと進んでいく。じりじりとしか連絡船との距離を詰められないのがもどかしい。しかしそこに、作業員の声が追い打ちをかける。
「おぉい、時間押してるぞ。搬入急げー」
「……まずいな。急ごう」
今回の連絡船を逃せば、次は一週間後。その間に何が起きるのか分からないし、今日のように侵入が上手くいく保証はない。何としても、月へ。
相変わらず冷たい結月の手を引き、船へと近づく。心臓の音が漏れ出てしまいそうな程にバクバクと煩い。
あと少し、あと少しで船に乗り込める。その、気の緩んだ瞬間だった。
結月が急に手を振り払い、俺の背中をドンと突いたのと、作業員が「おい、そこの、」と声をかけるのはほぼ同時。突き飛ばされ入り込んだ物陰で振り返ると、駆け寄ってきた作業員に取り押さえられながらも必死に抵抗する結月の姿があった。
「おいこら、暴れるな! 早く警備員を呼べ!」
オレは先程の一瞬の安堵を恨んだ。ここまで来て、見つかってしまうなんて! 彼女のことは俺が守ると言ったばかりなのに!
結月を守り、この地獄から守るために月へ行こうとしたのに、ここで彼女を失っては意味がない。そう思って、足を踏み出そうとした、そのときだった。
「たった一人でも、地球に全てを置いていくことになっても、月へ行って、生きるの! 生きてさえいれば、きっと、幸せになれるから! だから、お願い……」
その言葉の意味は、聞いてすぐ、はっきりと分かった。結月もまた、俺と同じだったのだ。
「結月っ……」
俺は最後に、彼女の今にも泣きだしそうな顔を目に焼き付け、手薄になった入口から船に乗り込んだ。