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胸が熱く、苦しい。宇宙センターに入り込む隙を探すために物陰に隠れてしばらく経つが、船を降りてからすっと走ったせいか、あるいは緊張しているのか、一向に息が整わない。ずっと握りしめている妹の手は冷たく、小刻みに震えていた。
「大丈夫。必ず月へ行こう。結月のことは、俺が守るから」
「……うん」
大丈夫、大丈夫。結月のことは俺が絶対に守る。たとえ俺の命を引き替えにしても、彼女だけは、月へ行かせるんだ。
遠くの方で警報が鳴った。警備員が走り去っていく。どうやら俺達と同じことを考えている人がいるらしい。彼らには悪いが、この機会を逃す手はない。
「結月、行くぞ」
「うん!」
妹の手をしっかりと握り、俺達は再び走り出した。
月へ行くのは容易ではない。船は完全予約制の上、チケット代は片道十万円と、決して安くはない。荒らされた後の家に金目の物などなく、金を稼いでチケットを買うにしても、それまで二人とも無事に生きているとは限らない。そして行き着く先はただ一つ。
密航だ。
種子島宇宙センターは校外学習で何度も訪れたことのある場所だから、宇宙船や施設の造りは知っている。施設の職員に見つかりさえしなければ、密航は可能なはずだ。そう自分に言い聞かせ、ただ目的の場所まで走る。狙うのは宇宙船の貨物室だ。人を乗せる連絡船は、貨物室も空気で満たされているから、そこに潜んで月まで行くのが、俺の考えた作戦だった。
警備員をすり抜けて建物に入ってからは、人とすれ違うことはなかった。連絡船の発射が近いから当然だろう。これ幸いと真っ直ぐに貨物搬入口まで向かう。
ここからが正念場だ。