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空の遠くに見えるは青き地球。二度と踏み入ることの叶わぬ美しき惑星。
その惑星に、ヒトという生物は消え失せているだろう。
七十年前、地球上で未知のゾンビウイルスが発見された。それがどこから来て、どのように感染したのか、詳しいことは分からなかった。研究するよりも早くウイルスは広がり、人々は心を持たない動く屍に喰い殺されていったのだ。
そんな中、日本という国は島国という土地柄を生かし、鎖国を始めた。しかし、その先に待っていたのは、食糧難と暴動が多発する未来だった。
暴動の原因の一つに、種子島宇宙センターがある。
当時種子島では、新たに増設された研究施設で人類の移住計画が行われていた。移住先となった月や火星ではそれぞれ研究が進められていたが、火星の研究は、まだ人が住める段階まで到達していなかった。
ゾンビが発生した頃、月では移住試験が終わり、全世界から集められた人間が本格的に月面人として住み始めてから一年程が経っていた。月にはアメリカ市、ヨーロッパ市、アフリカ市、アジア市の四つの市があり、その市の中に、カナダ町、フランス町、南アフリカ町、日本町といった町が設定され、それらは地方自治を担い、月全体が一つの民主主義国家として動いていた。地球と遜色なく機能する月は、地球でゾンビの脅威に怯える人々にとって、まさに理想郷であった。
そしてその月は、あくまで地球の理想郷であり続けた。ゾンビの侵入を恐れた月の人々は、新たな居住希望者の一切を拒否したのだ。地球からは幾度も船が出され、説得が行われたが、月からの返事は変わることなく、暴動による種子島陥落を機に、地球からのコンタクトは完全に途絶えてしまった。
人は、故郷を捨ててしまったのだ。