D&A
「もう会えないって…、どういうことですの?」
「父が病気で…、治療費を稼ぐために、出稼ぎに行かないといけないんです。」
「まあ …。」
ディートは、ロレッタをじっと見つめて言った。「こんなことをお願いするのは、気が引けるのですが。少しお金を貸していただけないでしょうか?」
「あら!もちろんいいですわ!」
彼女は、おもむろに小切手を切ると、ディートの手に押し付けた。
「これで、足りるかしら?」
ディートは、感激のあまり言葉が出ない様子を見せた。
「…ロレッタ!いけませんよ、こんな大金。」
「いいんです。かわりに、もっと私に会いに来ると、約束してくださいね。」
「毎日でも来ると約束しますよ。」
ディートが熱っぽく言った。
ふと時計に目をやり、ディートが言った。
「失礼。もう、時間だ。」
慌てて席を立つと、「またお会いしましょう、ロレッタ!」と言ってバタバタとカフェから出ていってしまった。
しばらくいくとディートは、タクシーに乗り、静かで
上品な街を抜け、治安の悪い地区でタクシーを降りた。
そしてディートは、高級なマンションに入っていった。
一室の前で止まり、ベルを鳴らす。
若い女の子が出て来た。ぱっちりした瞳で、恨みがましく
ディートを見る。黒いくるくるの髪と、赤いミニ丈のドレスが
すごく合っている。ギャングのボスの一人娘、マリア。
「機嫌悪いの?」笑ってディートが言う。
「べつに。」
彼女が中に引っ込むのについて、ディートも部屋に入った。
「これ上げるよ。」ディートが小切手をマリアに手渡した。
「いいの?あんたはお金足りてるの。」
「十分あるよ。ほら、この間言ってた計画に使おうよ。
これだけあれば十分だろ。」
「いいわね、それ!」
急に、はしゃいだ笑顔になって、マリアが言った。
ディートは、真剣な顔で言い出した。
「…マリア、この間の返事は、まだなのか?」
「パパに聞いたけど、返事がまだなのよ。パパが許さないって言うなら、結婚は無理ね。」
「マリアは…、イエスってこと?」
「言わなくっても、わかるでしょ。」
夕方近くなって、マリアが言った。
「そろそろ、食事に行きましょ。イタリアンがいいわ。」
「おれはメキシコ料理がいいな。」
「嫌よ。」心底嫌そうに、マリアが言った。
「はいはい。」
二人は、そろって部屋を出た。外は、ほの暗く、ふたりは寄り添って歩いていった。前から来た、ギャングらしき男たちが、マリアにいきなり詰め寄ってきた。「ねぇちゃん、この間はよくもこけにしてくれたな。今日は逃がしゃしねーぞ!」
ディートは真っ青になった。マリアが何かして、怒らせたんだ。
ギャングの1人が、ディートに言った。「にいちゃん、この女を置いていくなら、見逃してやるよ。」
ディートは、どんな目に遭わされるだろうかと思った。きっと痛めつけられるんだ。でも…、マリアを見捨てるなんて。
「嫌だ。」ディートは、震えながら言った。
男の1人が、ディートを殴り倒した。
続いて、数人の男たちがボカボカ足蹴にしだす。
マリアがびっくりして叫んだ。
「ちょっと、パパ!やりすぎでしょ!」
「おい、やめろ、お前たち」
後ろから出て来た、ギャングのボスの声で、蹴りが止まった。
その間、ディートは地面に倒れたまま、ぽかんとしていた。
「よかったわね、ディート。わたしを置いて逃げなくて。逃げてたら、パパに殺されてたわよ。」マリアが笑顔で、朗らかに言った。
「やられちまってるが、まあ結婚は許してやるよ。
幸せにしてやってくれ。」
ギャングのボスが、ディートを見下ろして言った。
そして、ふたりは結婚して、数々の悪事を働きながら
幸せに暮らしましたとさ。