9 闇の山
お題は「闇の山」でした。
夜中だと、お山は真っ黒に見えるんだ。お天道様が輝いているときはあんなに青々しているのに。本当に真っ黒なんだ。じっちゃんにきいたら、お山が眠っているからだって。お前だって目を閉じれば暗いじゃろう? お山も同じだ。眠るときは真っ暗にするもんだ。そう言ってた。
そういうもんなのかな。
夜のフクロウをみたけど、そういや目が光ってたな。光ってるっていうことが起きてるってことなのかな。おらよくわかんね。
ただお山は随分真っ黒だなあって。そこだけお空に大きな穴があいたみたいに真っ暗だからすごい不思議で、都会へ行った兄ちゃんが言ってた「ぶらっくほーる」っていうのもこんなんかなあ。光がなくって真っ暗に見えるってさ。ふしぎさね。
山の神様も寝てるんかな。寝てるとしたら夜中に山入ってもええんでないか。夜に入ると神様のお怒りで、もう村には帰ってこれねって大人は言うけど、寝てるんだったらわかんないでねかな。
そーっと、そーっと、神様起こさないように入るんだったらかまわんのじゃないかな。
あかんのかな。
あかんかったから、ゆき姉とサトシ兄は帰ってこんかったんか。
真っ黒の山は2人を食べてしもうたんかなあ。
ゆき姉もサトシ兄もすごい優しくておら大好きだったんだ。
いつかこの村を出て、遠い何処かにいくねって言ってた。おらだけに話してくれた。
誰にも話しちゃなんね、とも言われたから、おら、誰にも話さなかった。
村を出るのはとてもむずかしくって、村長さんのお許しがでなきゃなんね。
でも大抵はだめだって。都会の大学へ行った兄ちゃんは特別やったって。
もう死んじまったけど。
兄ちゃんはゆき姉とサトシ兄ともなかよしで、小さい頃からいつもいっしょに遊んでたんだって。
でも兄ちゃんは都会へ行っちゃってさ。
時々は村に帰ってきてたけど、前みたいにおらと遊んでくれんようになってさ。
いつも腕やら足やらに大きなあざを作ってうちに返ってきたんだ。村長さんやおじさんたちに頼まれごとが多くって、お手伝いしてたら、力仕事だからあざができるって言ってた。
ゆき姉も時々あざを作ってたし、サトシ兄もそうだった。
大人の手伝いって大変なんだなあ。
おらも大きくなったらお手伝いせんとあかんのやろな。
できるやろか。
がんばらんとな。
ゆき姉がお山に食べられる前、目の周りにあざができててびっくりしたなあ。
さすがのゆき姉も痛かったのか、夜、みんなが寝静まったあとおらに会いに来て、おらのことぎゅっとしながら泣いてた。ゆき姉が泣いてるのはじめて見たから、よっぽど痛いんだと思って「いたいのいたいのとんでけ」をしたらちょっとだけ笑ってくれた。で、いつか迎えに来るからって言って部屋を出てった。
外には兄ちゃんとサトシ兄がいたのが月明かりでわかった。
朝になって兄ちゃんだけが川っぺりで死んでるのがみつかって、ゆき姉とサトシ兄は村のどこにもいなかったんだ。
大人たちは山の神様のお怒りをかったんだって言ってた。だって兄ちゃんの体は傷だらけだったから。
おまえは山を越えようと思っちゃなんねっても言われた。
昼の山も夜の山も。とにかく山に入っちゃなんねって。
ゆき姉もサトシ兄も食われたんだろうか。
でもゆき姉はいつか迎えに来るって言った。おらはそのことを誰にも言ってねぇ。
ゆき姉はウソ言ったことない。
たとえ山に食われたとしても、絶対おらを迎えに来ると思ってる。
おらはその日を待ってるんだ。
またゆき姉とサトシ兄に会いたいから。
村の誰にも言ってねぇ。
言っちゃいけねと思ったから。
おら、絶対誰にも言わねぇよ。
誰にもな。
次もどうぞ、お楽しみに。