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春の歌

お題は「たった一つの深夜」でした。


春の名残が夜空に漂う。


わたしの出番はもうすぐ終わり。あの空の向こうでまたしばらく眠りにつくの。

最後の時、

だからこうしてあたりを見つめている。


生まれたもの。生まれることができなかったもの。

芽吹いたもの。枯れたもの。

日が落ちる途端に冷えるわたしの吐息に、皆は震える。

でも大丈夫。

生命を与えたわたしはもうすぐいなくなるから。遠くに夏の声がきこえるでしょう?


おひさま色の髪が乱れるのも構わず、裸足になって夜の黒に染まった野原を翔ける。

花冷えに縮こまったわたしのこどもたちよ、生れ出づることのできなかった仲間の分もたくましく育ちなさい。

小さなあなたたちがこの星を育てるの。

あなたたちの想いがこの星をかたちづくっているの。

今夜、眠りにつく前に今一度わたしの歌をお聴きなさい。


月の光の粒が音となって降り注ぐ。

この世界がいつまでも輝き続けるように。

また目覚めた時にはあなたに

あなたの子どもたちにきっと会える。

そう信じてる。


何があっても、音よりも小さな存在と化してもあなたたちは生き延びてきた。

それを知っているわ。

だからわたしたちはいまもここにいるの。

入れ替わり立ち代わり、地球に現れているのよ。


姿を変えることはあったけどね。


これから先、永遠に

季節はあなたとともにいる。


どうしようもなく、寂しい夜も

わくわくして眠れない夜も

あなたにとっては大切な、かけがえのないたった一つの夜。

わたしたちはいつだって寄り添っている。わすれないで。



ほら、また風が吹く。

音に満ちる。

たくさんの想いを季節はすべて受け止める。

こわがらないで。

大きく息を吸って。そして前へ。

どんな夜も深い闇も、あなたの思い一つで光輝くから。

そのためにわたしたちはここにいる。


時にはわたしたちをうらむこともあるでしょう。

いいの。いいのよ。

どんな想いも受け止めると言ったでしょう。

叫んで、大きな声で叫んで。喜びも憎しみも。

季節は何もかもを包み込むから。


すべてはこの地球のため。世界が在るため。


さあ、わたしに触れて。


夏がくる前の最後の深夜。


泣かないで、わらって。

花弁をゆらして。



そのあとでいいから約束して。




わたしが眠りにつくまえに




また、お会いしましょう。ね。


「四季」はここまで。次はまた別のお話です。お楽しみに。

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