5 夏よ 夏!
お題は「愛、それは祖母」でした。
「あんたの髪って太いんだよ」
そうだよ。太い上に真っ黒だからすごい目立つよ。知ってるよ。
空の青と対比して、まったくもって黒。
空の黒と対比してもやっぱり黒。
それをぜんぶ左側に寄せて、黙々と三つ編みをする。真っ赤なドレスに似合ってるのじゃないかな。
誰もが情熱的になれるよう、これは素晴らしい組み合わせ。
高めのハイヒールは憂鬱を蹴散らすため。
大きな笑い声は涙をふきとばすため。
それは夏の役目。
さあ、全力で走ろう。恋をしよう。
何よりも誰よりも熱く恋をしよう。もっともっと熱く、熱く。
明日へ生命を紡ぐため、夏はあんたたちのエネルギーになってみせよう。
俯いた君に全力パンチだ。
あんたの母さんやおばあちゃんも、多分恋をしてきたんだ。
厳しい時代を乗り越えて。
あんただっていつかおばあちゃんになるんだよ。
そして孫に愛されてしまうがいい。
愛にみたされたあんたを、きっと孫は愛するだろう。
その孫の孫も。
そのためならば、夏はいつだって輝いてみせる。
最強おばあちゃんの愛を伝えてあげよう。
砂浜にゴロゴロ。ドレスが汚れたって気にしない。
赤い蟹が横歩きによぎってく見慣れた風景。
あんたの心に夏をあげよう。
さあ、燃え上がれ! あんたの熱を魅せつけてやれ。
おばあちゃんやそのまたおばあちゃんや、ずっとずっと昔のおばあちゃんがそうだったように。
走れ、若者。
恋をするんだ、君たちは。
夏はいつでも全力疾走。
やがて来る秋にバトンタッチするまでは。
編んだ髪が風に解ける。
夏よ! 夏!
鬱憤など蹴りあげて、あんたたちも走るんだ。
それが若さというものさ。
次のお話は「冬」です。どうぞお楽しみに。