ドレスは脱がす為にある
盛大な腹の虫に配慮して頂き、軽食を取りながら私物・・・の説明が始まった。
けどなぁ・・・うまく説明できる気がしない。
一生懸命言葉を覚えたとは言え、私の語彙は少ない。
専門用語なんて訳せない。
・・・何より
「この技術はどうした?これほど色々な色彩を施した上質な紙を、何故平民が持てる?」
えーっと・・・パルプは木から採れるのは知っているけど・・・
薄い紙の加工方法?着色方法?そんな知識なんて皆無の一般人にどう説明しろと・・・?
小学校の自然学習で体験した和紙作りではこんな紙は作れるわけじゃないし。
「これは革か?どの様ななめし技術を用いているのだ?」
はっはっは!残念だったな!それは人工皮革だ!!!
人工皮革を説明しようにも何だかうまく伝わらない。
どう見ても量産品の鞄に「手作りの一点物という事か?」と訳の判らない返答がくる。
・・あぁ、人の手で加工した皮っていう風にしか通じてる気がしない・・・。
飲み会の席で無くさないようにお財布にしまっていたピアスなんて
学生の頃小遣いで買った安物だと言えば疑われる始末。
対アレルギー仕様でチタン合金の安物なんだが・・・
チタンって何?
・・・レアメタルの一種です。
レアメタルって?
ggrks!って言う訳にも行かない。
「領主様・・・」
「何だ?」
壁に飾られた絵画の一つを指して問う
「このドレスは、どこの特産の生地で、織り方の技術名は何と言いますか?
どの時代の流行で、デザイン名はありますか?またどなたの考えた意匠でしょう?」
「あぁ、確か南のリージュ地域で採れる植物から織られた糸を使用しているはずだ。曾祖母の若い頃だから、レーネ女王時代だな。
この時代は寒かったそうだからサンジェント加工で厚い布地が開発されて、やぼったいからと、曾祖母が刺繍を施して華やかさをもたせたと言っていたな。」
「何で説明出来るんだ?!そこは『そんなの知らなくても脱がせば一緒』じゃあ無いのか!!」
何故これほどまでに詳しいんだ!
「これ程の説明が出来るのは領主様だけです。リーナの言いたい事は判った・・・。」
ありがとうお母さん!
そうだよね?脱がせば一緒だよね?
私の言った事を良く理解してくれるのはお母さんだけだわぁあぁああぁ~~痛い痛い!アイアンクロー止めて!
お母さんって言わないから止めて!!
「ドレスを見ても、『どうやって脱がせるか』って知識はあっても、普通どこの産地の布を使っているかなんて知らないよね~?」
「・・・何だか語弊が有る様だが『ドレスは脱がす物』と言う以外の知識もある」
あ、『ドレスは脱がす為にある』って認識もあるって部分・・否定しないんだね。
万国共通の殿方の夢だと死んだお爺ちゃんが言ってたもんな。
「・・・つまり、リーナは材料等は知っていても、加工の仕方などの詳しい製法を知っている訳では無く、また貴国では普通に日常に溢れた物資でありふれた品しか持っていない認識なのだな?」
そうだね。ナイフが金属を加工して作っているのは知っているけど、加工技術なんて鍛冶職人じゃないもの。知らない。
道具の使い方は説明できても、動作方法は説明出来ない。
この世界の平民の基準と、私の居た世界の平民の基準の水準の乖離なんて尚の事説明出来ない。
「これは?」
「あ、自動車免許証・・・んーっと、身分証明書代わり?のカードです」
自動車なんて単語は無いし
習った時には馬車と教わってる。
・・・馬車の運転許可証って・・・御者の証明書っておかしいだろ・・・。
「どうやってこの小さい物へこれほど精巧な物が描けるのだ?あぁ、聞いても分からないか」
ええ・・・フィルム時代がその昔あって、光の加減で写るとは知っているが
カラー写真の加工技術なんぞ知りません。
「この女性は貴国の姫か?」
領主様が食い入る様に私の免許証を見ている。
「・・・は?」
他人の写真を使った身分証明書とか意味が分からない。
「この姫君の証明書では無いのか?」
「・・・は?」
写真マジックすげー
姫君だって!姫君!!!
私の免許証見て姫君だって!
「・・・目の前に居るのに信じられない」
自分の事を言われているはずなのに何だか居た堪れない。
だましている訳じゃあない・・・はず。
化粧って、ほら・・・化けるって言うし。
ちくしょー泣くぞ?泣くぞ?
「絵師の腕が良いのか悪いのか・・・」
更新まで使う免許証だぞ?しっかりきっちりばっちりメイクで世の女性達は臨むんだぞ!
臨んだ結果が姫君になるんだ悪いか!
「ふむ・・この絵姿の人物なら成人していると言われても判らなくも無い。
・・・まぁ、これがリーナの証明書か甚だ疑問だがな。」
「お主、成人しているのか?!」
スヴァリアさんの言葉に、目の前で固まってしまった領主様
テメェもか!
テメェも疑うか!
くそぅ!胸か?胸なのか??
サイズは無いが形は良いはずだ!
見せないけどな!
「・・・胸は意外とあった。言動のせいだろう」
隣から聞こえたスヴァリアさんの呟きに蹴りを入れたら
私の足の方が痛かった。
・・・鍛え方が違うのね。