(色々)気付くの遅っ!
ここで初めて、ここがどこ?の疑問に、今は何時代?の疑問が加わった。
もっと早く気づくべきだろう私!
ライフラインの整わない村にあろう事か剣だ!
剣が出てきたんだぞ?
焦る私の思考が追いつく訳も無く
しどろもどろで対応していたら
『記憶喪失になったやんごとなき異国の少年』という事になった。
「ちょっと待て!誰が少年だ!!!」
言い方は違えど、暦は一緒
迷子になってから2年以上経過して、私はこれでももう25歳になっていた。
少年って歳でもないし、そもそも男じゃない!!!
「わりぃ!少年だと思ってそんまま手続きしちまった!!」
ガハハと笑うリカルド。
その態度、悪いと思って無いだろ!
「ごめんねリーナ、春の月に女の子と判って訂正するように頼んでいたのに、リカルドに手続きの結果を聞いておけば良かったわねぇ。」
いや、待って、アンナさん
春の月まで気付かなかったの?
一年近く気付いて貰えていなかった私のアイデンティティー・・・
アンナさん・・・気付くの遅すぎません???
「て、言うかリーナ、歳は誤魔化すな」
「そうよリーナ、早く大人になりたいのは判るけど、歳は誤魔化せないわよ」
アンナさんの憐れみの視線が辛いが
さすがに十五歳は無いと思うんだ。
「誤魔化すにしても、何で二十五歳とか行き遅れ婆ぁの年齢に誤魔化すんだ?おかしな奴だなリーナは」
へー・・ほー・・・ふーん・・・
二十五歳って、行き遅れなのか・・・
百歩譲って、行き遅れと言われるのは文化の違いとやらで何とか呑み込める。
いや、呑み込む!
が、婆ぁ発言は許せん!
「・・・そう、ミラさんは、婆ぁなのね?」
リカルド、テメェ、許スマジ
鉄槌はリカルドの奥様、ミラさんに任せよう。
二年以上経って判ったこと
目を逸らし続けたが、ここは日本ではない。
そして、魔法は確認できないが剣は有る世界。
タイムスリップも疑ったが、そもそも西暦が通じない。
神話等の宗教感も聞いたこともない女神信仰。
「・・・異世界、なのかな。」
色々気付かないふりをして居たが気付いた。
王子様も、魔法使いも保護してくれない
ご都合主義もない現実に打ちのめされても尚、まだ笑って過ごせるのは、良くしてくれるアンナさんや村の人達の優しさがあったから。
けど無情にもこの時に来た領主様の使いの方の
『諜報員と言う可能性もある。嫌疑が晴れるまで身柄を拘束させて頂く』
の一言で、馬車で三日も掛かる領主館まで連行される事になった。
え?今更諜報員疑惑なの?!
盛大に迷子になって、もう二年以上も村でお世話になってるんだよ?
こんなに放置されて今更・・・本物の諜報員なら情報垂れ流し状態だな。
大丈夫かこの国・・・
・・・気付くの遅くない?
結局、皆が領主様の使いを断れる訳も無いと知っているし、困らせたくも無い。
そして、元来、長いモノには巻かれろな日本人。
不安じゃないかと言えば嘘になるが
アンナさんや村長さんの進言で、拘束具を付けられるような連行にはならないらしく、大人しく連行されるとしようじゃないか!
女は度胸だ!・・・あれ愛嬌だっけ?
てかさ、森の中で迷子になって早二年三ヶ月・・・
今更諜報員疑惑とか無いわ・・・。
そして良くしてもらったアンナさん達に見送られて、初めて村の外に出た。
***
「…大丈夫ですか?休ませたいのですが、次の街に日没前に着く為には馬車を止められないのです。頑張って下さい。」
領主様の使い、スヴァリアさんが背中をさする。
うう…馬車辛い。
乗り心地の良いハイブリッド自動車が恋しい。
こんなに馬車の揺れが辛いとは知らなかった。
連行される私を心配している皆を安心させる意味も込めて
「わぁ~素敵な馬車~お姫様になった様だぁ~」等と、はしゃいで見せた数時間前の自分バカだった。
お姫様とは程遠い状態異常が現在進行形で発生中・・・
領主館まで3日もかかると聞かされて、道中悪魔の証明を強要されたらどうしたものかと思ったが杞憂だったようだ。
取り調べもくそも無い状態異常でスヴァリアさんも困惑中
つうか、こんな馬車にもまともに乗ってられない諜報員とか居ねーだろ普通。
更に、初日の夕食時に復活した私が
スヴァリアさんの腰に佩いている剣を
無防備に触ろうとして・・・怒られた。
産まれて初めて剣を突き付けられ
更にその突き付けられた剣を無防備に触って指をぱっくりいった挙句に「本物の剣?!」と叫んで呆れられた。
2日目も馬車に乗って数時間で朝食だったものをリバース。
更にリバースする事2回
分かっていて何で毎食腹いっぱい食べるのかと聞かれて、日本人の「もったいない精神」について説明した辺りで
スヴァリアさんも薄々気付いたっぽい。
「…あぁ、こいつ只のアホの子かも」
聞こえてるから、スヴァリアさん。
珍しい料理とかあったら食べるじゃん?
旅行の楽しみ方と言えば食事じゃん?
「・・・一応、連行中だと理解して下さい」
いや、だから言ったじゃん?
諜報員じゃないって、盛大な迷子になった普通の女だってば・・・。
スヴァリアさん気付くの遅いって・・・。
残念な子を見る目でこっち見んな!