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距離の詰め方測り方

 人生の大半をアスファルトしか歩いたことの無い私にはハードルが高過ぎたらしい。




 所々凍った道は歩きづらく、この調子では日が暮れても着かないかもしれないと、早々にぬかるみを歩き続ける事を断念し、胃のリセットは完了しているので大規模噴水に陥ることは無いだろうと判断して、もう一度馬に乗ることを提案する。





 ギブアップ宣言は早い方が賢明だと判断したが正解だった様だ。



 胃からの大規模噴水も無く、たったったと小気味良く進む馬に揺られ、半時もかからずつけたのでほっとする。



 やっぱり食後は不味いがそれ以外なら何とかなるもんだ。



 馬車と違い景色も良いから、慣れてこれば馬車より酔わないかもしれない。ちょっと乗馬の練習してみようかな……。





 到着した湖には、お昼を済ませた家族連れや恋人同士だろうか、色々な年代がスケートやソリ遊びに興じている。



 この世界にもスケートって有るんだ…。



 少し遅くなったが、昼食の準備をするらしい。

 アデルハイド様が見知らぬ少年に馬を預けると、数名の使用人らしき人達がワラワラと出てきたかと思うと、椅子とテーブルを並べ昼食が並べられていく………。



 どこに居たんだ?



 湖の脇で火をおこして温め直したスープと、肉を丸パンに挟み食して終わると、早速、イスにスキー板が取り付けられた様な形をしたソリに座らせてもらう。




「結構速いぞ!嬢ちゃんを落とすなよアデル!」


「あぁ、大丈夫だ。さぁ行こうかリーナ、つかまって。」


「え?!ちょっ、まっ、ア、ア、アデ、アデルハイド様が押すの?!」



 湖の管理人らしき人から借りたソリに乗ると、後ろからアデルハイド様がソリを押す。



 ヒイィィィ!!!



 速い!速いから!

 そしてまさか領主様にソリを押させるとか、畏れおののくわ!



「怖がりだなぁリーナは!」



「不敬でまだ死にたくない!!」



「ハハハ!リーナ、周りを見てごらん、キレイだろう?」



 うん。キレイだ。


 空が広い。


 遠くに見える白い山脈とのコントラスト、陽の光に反射して湖の氷がキラキラと輝き、あちらこちらで灯された篝火が寒い冬の景色を暖かく囲んでいる。

 皆、笑顔で楽しんでいる。

 小さな子どももスイスイと脇を滑り抜けていく。面白がって煽ってくる子ども達に張り合って滑りだすアデルハイド様に、思わず本気で怒ったり!



「楽しいか?ここは、家に閉じこもりがちな冬の寂しい気分を晴らしに領民が集まる。夏は皆、涼を求めて集うし、年中領民が集う、領民の遊び場だ。」



 ふと周りを見ると、人が減り始めている。


 そうか、帰りを考えるともうそんな時間なのか。


「そろそろ帰り支度をしなきゃ、日が暮れる迄に館に戻れなくなるね。アデルハイド様、今日は、連れてきてくれてありがとうございます。夏にもまた来たいですね!」



 後ろからソリを押してくれていたアデルハイド様が、私の頭を撫でる。


「ああ、春も、秋も…いつでも連れてきてやる。他にもたくさんの見せたい世界がある。」


 何だかくすぐったくて、恥ずかしくて、顔が上げられない。

 ちゃんと目を見てお礼を言うことも出来ない。



 ソリを片付けると、湖の管理人らしきおっちゃんの後ろを歩き一つの館に通される。


「食事は湯浴みの後で行う。食事は食堂で一緒にとるのでそこに運んでくれ。」



「え?!」



「畏まりました。」



 ちょぉ~~~っと待てぇい!!!何で管理人さんの家で風呂に食事まで厄介になるのさ!!!




「あぁ、ここはローラン家の別荘だよ。遠慮は要らない。あ、そう言えばまだ紹介してなかったな。彼はサリィだ。夫婦でこの屋敷の管理を任せている。」



「よろしく、お嬢ちゃん!」




 え?!湖の管理人じゃないの?!

 あ、いや、管理人だけど!!!!





「…………いつ、館に戻るのですか?」






「………………。」





 スィー…………っと、視線を反らすアデルハイド様。




 馬も駆れない、道も分からない私は、結果、戻れない!

 珍しく強引に連れ出したと思ったら、外泊の既成事実でも作るつもりなのか?!



「その、遅くなったし馬では……」


「ローラン家の別荘なら、馬車をお借りできるのでは?」





 多少、声音が不機嫌にもなる。



「その、夕食の手配も既に出したし、今日はこちらに……」


「つまり、最初から遅くなる心積もりで居たと―――今日は、戻れないじゃなく、最初から戻らないつもりでしたか。」


「……………。」



 へ~…ホ~……フーン………

 確信犯だよね?帰す気、最初から無かった?半ば、拉致同然だったが、これ、拉致だよね?





「―――サリィ様、私、アナンリーナ・ルグ・リーディングと申します。お世話になります。」




「……リーナ、その、多少、強引だったのは認めるが、泊まりと言うと行かないと言い出すと思って、その……」




「そうですね。知ってたら遠慮しましたね。サリィ様、部屋へ案内をお願いします。あ、後、食事ですが部屋にお願いします。」





「リーナ!!」




 知るか!サリィとやら、さっさと案内しろ!オロオロしてるが文句ならその脳筋領主に言え!




 誕生日サプライズにフレンチを予約した彼氏を怒っていた同僚の気持ちがちょっと分かった気がする。



『ジーンズのままフレンチレストランとか、無いわー。マジないわー。私に恥をかかせたかったのかって疑ったもの。』




 うん。あの時は何て贅沢な!爆発しやがれモテ女め!!とか思ったけど、ゴメンよモテ女!!





 女の子は色々準備が必要なんだよ!

 手ぶらで外泊…しかも領主様の別荘にお世話になるとかも無いわ。


 普段、お世話になってるんだから、黙って聞かなきゃダメってこと!?





「申し訳ございません。()()()。疲れたのでお部屋に下がって宜しいでしょうか?」




 カロン女史監修の淑女の礼をとり慇懃無礼にお伺いをたてる。



「――――良い。サリィ、案内を頼む。」



 甘い雰囲気など最初から無かったが、何も険悪な雰囲気を作りたい訳でもない。


 それでも何だかこの強引な距離感に腹が立って仕方がなかった。




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