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踏み出す前に踏み外す

 確かに心地好い距離感だが、アデルハイド様と私が、結婚?考えると頭の中がフワフワして枕に顔を埋めて悶える。




 ―――――うん、全く想像が付かない!!




 なぜだ!?と、考えたとき、甘い雰囲気が全く想像出来ないのだから仕方がない。



 あの綺麗な御尊顔の隣に並ぶのが私とか、全く、まぁ~っったく、想像出来ないのだ!!



 ………二人並んだ姿を想像してみるが、良く見積もっても兄妹だよ。夫婦や恋人には見えない。




 そう、そうだ!だって心地好いなら、アンナさんだってスヴァリアさんだって心地好いじゃん!!




 そう、それから、それから!!25歳で結婚と言うのが、日本にいた頃から想像出来ない。




 色々な言い訳を考え過ぎて、頭がパニックだ。



 それで、出た結論は――――保留!




 そう、保留だ!だって三年目である。依然として教師のお仕事も、簡単な読み書きそろばんヨロシク、小さな子に教える教会のお手伝い程度だし、リシャール様の秘書役だってまだまだである。

 厨房にも、皮剥きなどの簡単な下ごしらえを任されるだけだし、使用人の様に重労働も出来ない。




 何とも中途半端だ………。

 自立って、難しい。いつになれば一人前なんだ?こんな状態で色恋何ぞに現を抜かせない。





 ―――うん。アデルハイド様の事は、保留で!!お友達からって言ったのに先に進めるアデルハイド様も悪い!





 そう結論付けた。





 そう―――結論付けたのに!!





 翌日、朝食後に厨房に顔を出そうと廊下を歩いている時に、「リーナ、馬に乗せてやろう!凍った湖の上を歩くぞ!」




「え!?―――えぇ!?」



 そう言うと返事も待たず、私の手をとり、外套を持ってこさせるとサッサと外に連れ出され、馬に乗り、こちらに手を差し伸ばすアデルハイド様………。




 いや、どーしろと。







「何をしている、ほら!」



 そう言うと、ヒラリと馬から降りてくると、私の腰をつかみヒョイと馬に乗せられた。



 手、早っ!!



 ヒイィィィ!!馬!!



 高い!!



 私が騒ぎだす前にアデルハイド様は後ろに乗り込むと手綱を握り、サッサと馬を走らせてしまう!!


「落とさないから心配要らないよ。」


 朗らかに笑いながら言うが、半ば拉致じゃねぇか!

 悪態をつく間も与えない強引さで馬を駆けさせれば、もう、しがみついているしかない!



 喋ると舌を噛む早さ…とまではいかないが、バイクにも乗ったことがない私に上下に揺られる馬はハードルが高過ぎたようだ。






 ***




「――――その、正直ここまでとは思わなくてだな……すまなかった。」






 湖など見えない、街道の脇でうずくまり。




 絶賛リバース中!(……チーン)




 ………何だこれ。不本意だが私のキャッチコピーになりつつある。




 外套の袖口を汚してしまい、涙目だよ。


 私に食後の三半規管の酷使はダメなんだってば!


 ああ、美味しかったのになぁ…マトンの香草焼き。

 薄っすらと積もった雪をかけて土に還してあげる作業が切ないぜ!!




「まだまだ遠いですか?――少し歩きましょう。」




「大丈夫か?」



 スヴァリアさんと違い、オロオロするばかりのアデルハイド様に少々腹もたつが仕方がない。悪気が無いのは知っているし、言ったところで起きた結果は覆らない。




「………次は、事前に連絡下さい。急な申し出は困ります。分かりました?」



「……………はい。」






 うん。反省はしてくれてるだろう。項垂れて着いてくるアデルハイド様。次はないから!!





「で、後どのくらいなのですか?冬は日暮れが早いのですから急がなきゃ。馬でしか行けないようなら、また時間を改めましょう。」




「あ、いや大丈夫だ。この街道を馬で後、半時程進めば着く。」



「馬で半時?!」


 そんなに歩けるかな…。




 逞しいお御足ではあるが、馬で半時もかかる行程を歩き続ける自信はないぞ!



「――――やっぱり日を改めて後日にしませ…」


 と伺いをたてようと隣を振り仰いで見やれば、今にも泣き崩れそうなアデルハイド様。



 そ、そんなに凍った湖に行きたいのか!?寒いだけじゃん!?




「リーナに、この地を色々と見せてやりたい。ここで生きるために働くのも分かるが、この地を好きにもなって欲しい。………リーナはいつも、自ら館を出ないからな。」





  そう言われてしまうと、心当たりが有りすぎて何とも言えない。お互い、少し伏し目がちに視線を反らし、無言で並んで突っ立ってしまう。




 そうだね。住めば都と言うが、好きになる努力はしなきゃ。私は基本、アンナさんの家に居たときは家の周りのみだし、麓の村までも、アンナさんが連れ出さなければ向かうことも無かった。



 領主館でも、馬車は苦手、を免罪符に、用もなく出かけることもしない。


 中央でも、観光をねだる訳でもなく、アンナさんに付き従っていただけ。


 そうだね。ずっとこの地で生きるなら、尚更。このままではダメだ。この世界を知っていき、好きでいた方が良い。





「途中、落ち着くまで歩いて、それからまた馬に乗ろう。少しだけ我慢してくれ。」




 私は好きになる努力………してないのかもな。




 どこかでまだ、日本に帰りたくて、この世界に馴染むことを拒否してるのかな。



 アデルハイド様は、私に好きになって欲しいんだろうな。自身も、自身が守ると決めたこの地を。




「――――じゃあ少し急がなきゃね。」




 そう返して、一歩を歩き出せば、薄っすらと雪が残るぬかるみに足を取られる。


「…………」


 そんなビミョーな一歩を踏み出している私の後ろを、嬉しそうに馬を引き着いてくるアデルハイド様。



 もう、何かシッポ見えそうだよ!!









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