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初めの月

 

 賑やかな宴会が嘘のように、ゆるりと初めの月を迎える。




 ………宴会の片付けを始めなきゃ。



 初日の出など見れない曇天で、石造りの館はヒンヤリとしており、掛布から出るのにやる気を総動員して臨む。


 内履きを履いても、足下からジンジンと、芯まで冷える。


 寒い日は、平安時代の十二単よろしく重ね着しまくると言う、なかなか倦怠感を伴う重量の衣服を身に付けるしかない。

 ……どうにも毛皮が慣れないのだ。




 これは本格的に暖房用品諸々の開発に望もう…。






 新年は五日まで、どこもかしこものんびりお休みモードだが、館の猛者達はあちこちで宴会の片付けを始めていた。



 すげぇな。二日酔いしないのな!

 懇親会の翌日、二日酔いで応接間のソファーで丸一日寝ていた癖に出勤扱いにしたくそ部長とは大違いだ!





 働かざる者、の精神で、何もしないで居るのが落ち着かなくて片付けに参加したのだが、他の人の仕事を奪うのは宜しくないと言われてしまっては本格的に片付けに参加できなかった。



 カロン女史は旦那様と自宅に行き、館には不在だし、リシャール様は荘園を管理しているため既にそちらに行ってしまっている。

 私も五日まで秘書仕事をお休みだ。




 ――よって、暇になってしまう。



 アンナさんと二人、森の小屋で過ごして居たときの様に居間で編み物をしてお喋りしていた。



「昨夜はどうでした?」


「はい。賑やかで楽しかったです!」



 ニコニコ笑みを絶やさない癒し系の可愛らしいお婆ちゃんだが、時折とんでもないことを言う。



「アデルが正式に婚姻の許可を求めて私のところに来たわよ。」




 ガツッ!!!





 昨夜の事を思いだし、恥ずかしさで額をローテーブルに打ち付けた。




 ……今、絶対顔が赤い!……か、顔が上げられない。





「リーナの祖母としては、幸せになって欲しいですからね、リーナの気持ちを尊重するけど……その様子じゃ嫌と言う訳じゃなさそうね。」




「………嫌…では、無いのですが…」




 そう、嫌ではない。

 御貴族様だからと言って、気取らなくても良いし話しやすい。

 働き者で、自分にも厳しく下の人にも尊敬されている。―――若干名、尊敬より畏怖の方が強そうな人も居たが。

 何で私?と思うのだ。

 ロリコンか!?とも疑ったがそう言う訳でも無かったし。


 そう。信じられない。




「………何で私?」



「さぁねぇ。こればっかりは本人が望む事だから、本人に聞いてみなきゃ分からないわ。聞いてみたら?」



 ニコニコ編み物をしながら突き放される。うぅ…私にそんなことを聞き出す度量はございません!



 ―――いや、聞いたな。確かに。うん、聞いたよ!




 ―――結局、聞いたけど信じられなくて応えられないのは、私の問題だ。




「私と居ると、心地が良いからだと仰ってました…。」



「そう。リーナはどう?アデルと居ると息が詰まる?」




 そんな事は……なかったな。

 少々トラウマ発動させて過呼吸になったが、息が詰まる?とは聞いている意味が違う。


 戦闘風景を見せるな!と訴えてからは砦に行くことは無いから、最近はアデルハイド様の微笑みと戦闘シーンを連想して取り乱すことも減った。



「……付き合ってもいないのに結婚するって、何だかおかしいかなって。」




「あら、そうなの?」



「うん。私の国では、二~三年交際してから、それから親に報告して婚約、結婚かな。……中には電撃結婚も居るだろうけど……私の周りには居なかったし。」



 ましてや、でき婚とか、更に想像し辛い。何せ男性とのお付き合いが高校生の時だ。進学で離れ離れになって別れてしまってからは、男女交際とは無縁だったしな…。



「リーナの国と、こちらでは、大分違うようね。そりゃアデルの気持ちに応えるのは戸惑っちゃうわね。」




 そう……ね。交際すっ飛ばしていきなり結婚は―――無いわ!




「アデルに悪気はないのよ?普通だと親が婚約者を探してくるのですが、まぁ、何度も破棄されて…まとまる前にご両親は亡くなられたからねぇ。

 小さな頃から、結婚したらお嫁さんは大切にするように!って育てられたから、大切にしたくて結婚したいのよ。本当に、後先がアベコベね。」



 前領主様の時分から面識があるので、懐かしそうにフフ…っと笑うアンナさん。




「だから一時の気の迷いかもしれません。私にそれほどの魅力がある訳じゃないし…。」




「あら、魅力なんて人それぞれよ。アデルから見たリーナの魅力は分からないけど、リーナは魅力的よ?身内贔屓と言われちゃうから信じて貰えないかもしれないけど。」


 そう言うと真っ直ぐ私を見つめて、私の魅力とやらを幾つか列挙して誉めてくるので、こっちが恥ずかしくなる。





「けど、リーナも良い歳なのでしょう?」



「いや、日本ではまだ!」




 と、叫んだが、アンナさんの困った顔を見て気付く。

 ………この世界では絶賛行き遅れ中でした。はい。




「……私は、必要に迫られて自立をしましたが、それも夫と居るためだったわ。

 リーナも自立を目指しているようだけど、独身を貫いて神殿に入りたい訳じゃないのよね?」



「……出来れば。……スウォン(邪神)の花嫁には、なりとう御座いません。」




「では、自立を妨げない、理解のある殿方を探さなければね。春になったら、お見合いをしましょうか。」





 ファッ!?!?



「え!?何で!?いきなり!?」



 アンナさんの突然の提案に目を白黒させていると、困った顔をしている。



「私も、女神様の血を継いでいるとは言え、いつ死ぬか分からないわ。こちらに来て、春で三年目よ。生活にも言葉にも慣れたでしょうし、リーナの婚約者を探すには頃合いでしょう。リーナの国の結婚感で行くと、こちらでは婚姻は難しいわ。」





 自由恋愛で結ばれるのは無いのか?

 でもでも!夜会ではアプローチ受けたし!

 ―――まぁ、子供からだったが。



「あれは、親が子をけしかけたのが切欠よ。親が許す相手だから、と言うのが大きいわね。この様子を見て、親同士で婚約の話を進めるのよ。政敵の場合など問答無用でまとまることは無いわ。」




 く…アプローチの段階から政略か!



「……平民に嫁ぐとなると、まずリーナの言う自立は難しいでしょうね。」




 私の結婚は、年齢的にも思想的にも困難な様だ。




「自由意思で婚姻となると、もう後継者の決まった方が政治と関係なく娶る場合が殆どだけど……リーナはオッサンは嫌なのでしょう?」


「グフッ!!」



 お上品なアンナさんから『オッサン』と言う単語を聞くとは!



「その点、アデルなら問題は少ないのですがねぇ。ネシック領の後継者は、『ネシックの意思を継ぐ者』だから政略は必要としませんし、まぁ、歳は少々離れすぎてますが、リーナの自立を妨げないと言うのなら、一番の理解者になってくれるでしょうね。」




 そうね………。貴族らしからぬ考えで、私の意見も提案書にまとめて提出すれば、議案に出して反映させてくれたりして、時たま、会議にも参加させてもらってる。



「後は、リーナの国で言う『交際期間』とやらをこなせば完璧ね!」





「そうね。」





 言って、気付く。

 そう、何が問題って、私の常識から外れているからってだけなんだよね。



「………私、『付き合ってください』とは言われてないし。」



 その順番にこだわっていただけだ。



 逆に、その順番に沿っていたら……多分、アデルハイド様のプロポーズを断る理由は……無い。



 だって、彼のとなりは……存外、心地が良い。





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