家族問題に口出しできる猛者はあまり居ない
晩餐の席には、アンナさんとカロン女史だけで、他は揃わなかった。
折角のお土産、皆でワイワイ開けたかったが仕方がない。
二人とも喜んでくれてたが、やはりアデル様とハリス夫妻が気になるのだろう。どこか不安気だ。
その雰囲気に、ただの親子関係じゃないのは分かる。
食後のお茶を頂いていると、リシャール様が軽食を取りに食堂に来た。
「ハリス夫妻は?」
「今、スヴァリアが酔い潰して寝かしつけてますよ。」
おいおい…。
物騒な寝かしつけだな。
「館に泊めるおつもりですの!」
「追い出そうにも、どうやら領都に宿を取るつもりらしくてな。野放しには出来んから今夜は領主館に泊めることにした。」
「ふん!どうせ最初から泊まるつもりでしょう、忌々しい。
――寝てる間に荷馬車に詰め込んで追い出せないかしら…」
不機嫌を隠そうともせず、すっかりブラックカロン女史が出来上がってる。美女に罵られて喜ぶのは一部の属性持ちだけで、私にはそんな属性は無いので普通に恐い!!
何でこんなに嫌われてるのか謎だが・・・。
「アデル様のご両親って事は、前領主様なのですか?」
「はん!まさか!!あんなのが領主など、数刻も保たずに引きずり下ろしてるわ!」
これは…相当に嫌われているようだ。
「ハリス夫妻は、アデルの産みの親なのよ。8つでローラン家に養子に出ているから、戸籍の上では他人なのですが。」
「領主になった途端、折に触れて庇護を求めに来るのですよ。坊ちゃまはお人が宜しすぎます。」
「周りに色々吹き込んで、足を引っ張る事しか出来ないくせに、何が親ですか!」
カ、カロン女史、落ち着いて!
・・・なるほど、領主ともあろうお人が、産みの親を蔑ろになどしては評判に障るか。
***
「やっと解放された。すまないが、アデルハイド様の夜食を頼む。」
若干の疲れを滲ませてスヴァリアさんも食堂に来たが、どうやら客人は寝かし付けられたらしい。
「これで明日の昼過ぎまで静かだな。」
どれだけ飲ませたんだろう…。
「夕食、食べなかったのですか?」
「彼奴等と食事するくらいなら、毎日干し肉だと言われた方が我慢できる。」
「同感だ。疲れた。」
珍しくリシャール様とスヴァリアさんが軽口を叩きあうが、疲労感が酷い。
会議のジーンズに、三日三晩続いた宴会の時より酷い。
「―――あ~、リーナ」
ん?
「すまないが、アデルハイド様に夜食を届けてくれ。」
普段なら、夜に館内を彷徨くのを咎めるのに、妙な提案をされた。
「それは良い!頼んだぞ。」
「そうね。リーナ、頼みましたよ。」
届けるだけなら私でも出来るから別に構わないが…。
「リーナは肉付きが多少増えても変わらないもの。勿体無い精神とやらで、一緒に食べてらっしゃいな。」
アンナさん、夜の 暴飲暴食は薦めないで。自慢じゃないが、私は食べ物の誘惑に勝利を納めたことが無い!
つうか、部屋に二人は不味いと、いつも真っ先に怒るのに。
とは言え、私も心配だった。事情は分からないが、様子が気になって仕方がない。スヴァリアさんの提案に乗っかり、軽食とお酒の乗ったワゴンを押して、部屋に行く事に了承した。
「失礼します。」
夜も遅いので控え目にノックをして声をかける。
グゥワッシャン!!
何かが倒れる物音が、アデル様の代わりに返答した。
うん・・・デジャ・ブだ・・・深夜じゃなくて良かった。近所迷惑だろ!って言うほどの大きな物音。ま、ご近所さん、数キロ先ですが。
「スヴァリアはどうした。」
ドアを開けると水差しを片付けているアデル様。
倒したのは水差しか。
「食堂で食べてますよ?どうぞ、アデル様の分をお持ちしましたから。」
脇をすり抜け、テーブルに勝手に配膳していく。
「座ってください。これ、今日街で買ったレバーペーストです。美味しかったですよ!」
他にもレンズ豆のスープに、豚バラに根セロリと人参の煮込み。付け合わせのピクルスとハムとチーズ。葉野菜のソースが掛かったジャガイモのお団子。
ナッツとドライフルーツがフンダンに使われたクラムケーキとタルト。
うん。胃にきそうだが、美味しかったんだよなぁ。
そして、ご丁寧にも食べて!と言わんばかりに二人前用意されてるし。
「これ、お勧めですよ!美味しかったです。」
コンソメで伸ばした葉野菜のペーストが、団子によく絡んでモチモチで美味しかった。
「いただきます!ほら、アデル様も冷めないうちに食べて!」
有無を言わさずぐぐいっと器を押し付けてやる。
「ああ。ありがとうリーナ。」
僅かに口の端を上げて笑うアデル様。
「今日は、折角の楽しい時間を、悪かったな。」
「今日は後一時間はありますから。終わり良ければ全て良し!です。こんなに美味しいお料理を食べて終わるんですから、今日は一日良い日です!」
詭弁かもしれないが、良い言葉だな。終わり良ければ全て良し!
「・・・そうだな。一日の終わりが、リーナとの時間なのは悪くない。」
はいはい、本当にこの人は…サラッとトンでもな発言をしてくれる。
「けど、そうだな。もっと楽しい夕餉に出来たはずなのに、気を使わせて悪かった。」
「・・・いえ。」
元気になって欲しいが、私には何と言ってやれるか分からない。
普段、お世話になっているのだから、何とかしてあげたい。
けど、私が来る前からの確執だろうから、下手なことは言えない。悩んでも仕方がない。と言い聞かせて、食器を片付けて部屋に戻ったら、外出した疲れから直ぐに眠りに落ちてしまった。




