年末年始はケーキじゃ無くてどんこ希望!
ネシック領は、鉱物の加工技術が優れているらしく、工房も多い。
「・・・綺麗」
綺麗な金細工に、アンバーが埋め込まれたクラスプや、ネックレス。
うん。綺麗だ。
露天に並んだアクセサリーとは大違いだな!
なかなかの眼福だ!
ただ悲しいことに、私のお給料では、とてもじゃないが手が出ない。
領主様の格好を見て、あれこれ奥から宝飾品を出してくるのだが、買うのは私である。これじゃ、職人さんには只の冷やかしにしかならないや。
「私でも用意できるお土産屋を紹介してくれ!」
「いや、気にするな。私が出そう。」
いやいやいや、何を言ってる!気にするに決まっておろう!
私が日頃の感謝を込めて贈りたいのだ!
これは詰まるところ、御歳暮なのだ。・・・クリスマスプレゼントではない!
クリスマスは神様の聖誕祭だし、この世界、女神様いらっしゃるから。もちろん聖誕祭も別の日にある。
何より、この季節柄、日本人としては御歳暮を贈りたい!
が、御歳暮の王道とも言うべき乾物が無い!いや、あるが、干し肉とかちょっとイメージと違いすぎる。
乾物と言って出てきたのが干し肉やドライフルーツだった。
う~ん。何か違う。コレジャナイ感!
結局、領主様に皆の好みを聞きながら、スヴァリアさんへはお酒を。
お酒の飲めないリシャール様にはお茶を選んだ。
男の人に贈り物とか、爺ちゃん位しか無いので分からない。無難に消え物が一番だ。ほら、御歳暮だし。
そしてアンナさんへは、可愛らしい装丁が施された日記帳を、カロン夫妻へはお揃いの膝掛けを用意した。
あ、領主様にはどうしよう?
「リーナ」
「はい」
「その、なぜ私は、名前で呼んでくれないのだ?」
唐突に問われて押し黙る。
何故って、言われても…。
何でだ?
「う~ん…領主様は領主様です。」
「・・・スヴァリアが領主になっていたら、スヴァリアに領主様と呼ぶのか?」
まぁ、そうだろうね。
「領主は、役職名だ。・・・その、出来れば名を呼んでほしい。」
「・・・はい。」
私の返答に良い笑顔が返ってきて、通りのあちこちから黄色い声が聞こえる。
そろそろ、面割れしてきたかな。
ブレーメンの音楽隊よろしく、後ろからゾロゾロ着いてくる人が出てきた。
「そろそろ戻ろうか。また一緒に出掛けよう。今度は雪が溶けたら、金鉱に連れてってやろう!」
いや…金鉱ですか…。
産まれてこの方25年、初めて金鉱に誘う人を見たよ!
確かに女性は光り物好きだけど、好きだけどさ!多分、金鉱には興味は薄いかと…。
「あぁ、それと、これを」
そう言って取り出したのは、薄紅のリボンが掛かった包みを渡された。
これは?
「リーナの持ち物をヒントに作らせた。まだ改良中ではあるが、軽いだろう?」
「・・・生地?」
分厚い、こちらの地域独特の硬い生地ではなく、確かに柔らかい。そして、柄がある。
ハンカチをモチーフにしたのか?
今まで、無地に刺繍で柄をえがいていたので、それがないので、軽い。
「本当は、服を仕立ててやりたいのだが、まだ量が、作れていなくてな。リーナは作るのが好きであろう?」
「嬉しいです!ありがとうございます!領主様!!」
この世界、布は高級品だ。年に数回新しい服を仕立てて買えるのは裕福な家だけなのは知っている。
館で働く人々には年に二回、新しいお仕着せを作って貰えるが、それとは別に服が必要なら自分で作らなければ無い。
庶民には歓喜な贈り物だ!ありがとう!領主様!!
「いや、だから!アデルと、名をだな・・・」
「あ、はい!すみません。ありがとうございますアデルハイド様!」
もう、嬉しすぎで顔がにやけてしまうよ!
「!!!――いや、喜んでくれて、嬉しい。」
領主様が口許を覆ってそう言うと、そっぽを向いてしまった。うん、が、耳が赤いのが分かる。何だかこっちまで照れてしまう。
良い大人の癖に、お互い照れながら帰路につくための馬車に乗り込んだ。
行きは気にならなかったのに、帰りの馬車の中で二人きりなのを意識してしまってる自分が妙に気恥ずかしくて、御歳暮の文化や、クリスマスのリア充への抵抗話を意味もなく喋り続けていた。
そのお陰なのか、帰りは馬車酔いに気付く前に館に到着。そうだね。普段そんなに喋り倒さないもの。
「楽しかったです!アデル様!」
うん。楽しかった!
お互いのペースが合うと言うか、心地が良かった。
「ああ、私もだ。」
こちらにニッコリ微笑み、エスコートするために手を差し出してくる。綺麗な微笑みを目の当たりにしてしまい、顔に熱が集まるのが分かるが、それでも自然とその手を取ることが出来た。
「お帰りなさいませ、坊っちゃん。」
「ぐふっ!!」
あ、ゴメン。吹いた。
いつもなら批難の視線を浴びるのだが、リシャール様は難しい顔のまま。
どうしたんだろう?
「・・・申し訳ございません。ハリスご夫妻がお見えです。」
「・・・何故通した」
さっき迄の和やかな雰囲気が一変して、アデル様から一段と冷ややかな声で珍しくリシャール様を責める。
「申し訳ございません。明け待ちの菓子を受けとる領民に紛れて館内に入ったようです。」
外套を脱ぎ、急ぎ足でロビーを抜けながら指示を出すアデル様。
「他の連中から遠ざけておけ。何を吹聴するか分からんからな。」
「仰せのままに。客間に隔離して、今はスヴァリアが対応しております。」
何だか良からぬ雰囲気に圧倒されていると、廊下の向こうから焦るスヴァリアさんの声が。
「アデル!」
「お待ちください!ハリス殿!勝手に出歩かれては困ります!」
「アデル、アデル!会いたかったぞ!さぁ、パパとママに顔をよく見せておくれ!」
と、見知らぬ男女が大きな声を出してこちらへ向かってきた。
この招かれざる客人であろう、ハリス夫妻は、どうやらアデル様のご両親の様だ。
けど、何だかおかしい。隣のアデル様が身を固くしたのは一瞬。その後には張り付けたように微笑み、ハリス夫妻へと対峙した。
「ご無沙汰しております。ハリス殿。帰宅したばかりですので用意をして参ります。客間にてお待ちください。」
「良い良い!ホールでアデルの話を聞こうと思ってな」
「客人を客間にお連れしろ。」
後ろに控える騎士に命じて、再度客間に押し込められるハリス夫妻。
「・・・すまない。リーナ。」
振り向き、一言述べて踵を反して行くアデル様の背中に
「いえ・・・大丈夫。」
そう、言うしかなかったが、聞こえただろうか。