市に行こう!
教会の学校でお手伝いをして手に入れたお給料!
遂にお披露目の日が来たー!
何気にお金を使う機会がさっぱり無かったからな。
村では基本的にアンナさんにおんぶに抱っこ状態・・・。
レース編みの小物を行商人に売るが、そのお金は材料を買ったり生活費にしてもらったりと全額アンナさんに渡していたし、何より使う機会が無い!
娯楽、少ないしね!
村の娯楽、デカイ獣の解体ショーとかだしさ!
領主館に来た後も衣食住は賄われていて必要な物は揃っていたし、体力がついたとは言え、緩かな丘の上に建つ領主館から街まで徒歩はムリ!
何より馬車に乗れないから基本的に外に行くことも無い。
・・・普通に引きこもりだな。
良いのか?このままでほんとーに良いのか?!
「良い?人混みでお財布を出しちゃダメよ?領土は、治安は良いとは言え、スリも居るわ。裏道は絶対に入ってはダメよ!それから・・・」
「セレスト、心配し過ぎて過保護になりすぎるのは子供の成長には良くないわよ。」
「いや、アンナさん、私、成人してますってば・・・」
あら、そうだったわ って、カロン女史まで酷いっす・・・
「うーん・・・どうしても時折リーナが成人してること忘れちゃうのよね。」
何でだろうね?って、可愛くこ首をかしげてもアンナさん、教授をしてた才女だよね?忘れないでよ!
とは言え、忠言はありがたく受けとります。なんせ街歩きは初心者だし。
中央に行ったときも、アンナさんと護衛とに囲まれての移動に馴れなくて、余り出歩けなかったしなぁ。
「よし、出来た!!リーナ可愛いわよ!楽しんできてね」
「ありがとうございます!」
街に出てもおかしくないように、カロン女史監修の元に服を選んで貰い、髪も結って貰ってから、待ち合わせのロビーに向かった。
領主様は既に準備が出来ていたようで既にロビーの長椅子で待っていてくれた。
・・・が、これは。
「・・・目立ちませんか?」
濃紺のジャケットには、銀糸の刺繍が裾から見事に施されているし。袖から覗く、白いシャツのレースが華やかだ。
黒い外套には青灰がかった毛皮の襟が…うん。派手だ。
「似合わないか?」
いや逆!似合っているよ?
もう、領主様の美貌に負けず劣らずお誂え向きです!!
これじゃ、どこぞの王様、領主様である。
あ、領主様なのは当たっているから良いのか。
が、これは目立つ。
間違っても隣には立てない。立ちたくはない。
「・・・何だかこれじゃ、リーナと一緒に歩いていても、権力にものを言わせて幼気な女の子をムリヤリ侍らせているようだわ。」
「・・そうね。何故かしらね。間違ってもデートとは思わないわね。」
あ、領主様泣きそう。
「夜会に行くならまだしも、これは無いわ。あ、スヴァリア!良いところに参りました。」
「どうしました?・・・これは・・酷いですね。」
うわ、スヴァリアさん率直過ぎます!あ、領主様膝から崩れた。
とりあえず領主様、カジュアルダウンしてくれ!!
そうでなきゃ、私は恥ずかしくて隣で歩けない!
絶対言われる。
「何でこんなチンチクリンな女を連れてるのか」って。
ほら、私は普通よ?グローバルスタンダードだよ?!(多分)
そんな凡人が王族の様な領主様と並び歩けるわけがない!
余程自惚れなきゃ、このキラキラ美しい領主様の隣に立つ勇気は無い!そんな勇気ある女性が居たらお会いしたいよ…。
街歩きの娘さんの格好をして、どうやって王子様の隣に立つお姫様になれるよ!ムリだから!!
スヴァリアさん監修の元に服を選び直してくれた領主様。
カジュアルダウンには成功したと思う。
が、依然として貴族然とした優美さを損なわず、隣歩きたくねーって気持ちにさせてくる。
「では行こうか!」
「行ってらっしゃいませ。」
あれ?
「え?!皆は?一緒じゃないの?」
「えっ?!」
「え?!あれ?領主様出るのに、護衛とか…。」
護衛も側付きも居ないよ?本当に二人なのか?
「街は警邏も巡回してます。リーナが突拍子の無いことを起こさなければ、アデルハイド様だけで護衛は事足ります。」
・・・つおいもんねーハハハ。
てか、子どもではない!何度でも言うが、子どもではないぞ!!
「いい?知らない大人に着いてっちゃダメよ?」
おい、聞いてるか!!
***
馬車で丘を降りると広場の脇で下ろして貰い、市を開いている通りまで歩くことになる。
しかし、すごい人だな。
広場にはあちこちで楽隊が居るし、通りで開催されている市場も人で溢れている。
「冬なのに、活気がすごいですね。」
初めの月になると街道が雪で閉ざされてしまうから、その前に冬籠もりに足りない物を買い求めたりする人や、里帰りする人達が土産品を購入していったりするために、市が活気付くらしい。
成る程、年末商戦か。
それがいつしか冬の名物になって、通りと広場には屋台が並び祭りのような今の形になったそうだ。
「まずはお昼を食べよう。もう馬車酔いは平気か?」
「はい!」
広場には屋台が並び、買い物客や商店の人達が賑やかしている。
マスタードの効いたチキンラップやクレープの様な手持ちの軽食を売る店や、ビールを売る店が並び、頬肉を煮込んだスープ等は、風避けのテントの中にストーブを囲んでテーブルが用意されていた。
寒い冬の市場では人気らしく、行列が出来ているが、「市に来たらこれを食べなきゃ始まらない!」と言う領主様お薦めらしく二人並ぶことに。
並んでいる間もおしゃべりに興じて、領土の特長や役割、砦での生活などを話してくれる。
学校の仕事での様子を聞いてくれたり、リシャール様の手伝いをして不明だった点を教えて頂いたり、待ち時間は全く苦になら無い、終始、本当に穏やかな時間となった。
考えてみたら、領主様と二人、こんなに長いこと話したことが無かったな。
漸く席に案内されたが、待ち時間も楽しかった。
そして、出された頬肉の煮込みスープを見て固まった。
「・・・これ、一人前?」
デカイ器に並々と注がれたスープ。肉もデカイのがゴロゴロ入っている。付け合わせにパンとマッシュポテトにピクルスがそれぞれ山盛り…。
「リーズナブルで、量も多い、そして何より旨いぞ!お薦めだ!」
どこのラガーマンの食事だ!!
貴公子の様な出で立ちに忘れてたけど、ああ、そうだ領主様だよ!筋肉バカ領主様だったよね!
うん。領主様、全くブレる事がないな!
初デートでチョイスする店ではないと思うんだ!
大口開けて食べることはしないが、大食間もしないと思うんだ・・・。
「私、こんなに食べきれません。」
私の勿体ない精神を総動員しても無理な量だ。
冷静に回りを見渡せば、屈強な戦士のような大男や、ガタイの良い職人さん等…。
どこにも女性の姿が…あ、居た。砦で見かけた女性騎士様…。同僚らしき人と、休憩中なのか食事していた。
鍛え方が違いすぎますって…。