表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/43

山を無理矢理乗りこえさせたがるのってSだよね

 夜の月に入り、雪がちらつく季節になってきた。

 本格的な冬籠もりの準備が粛々と進んでいく。



 領主様は、この冬は砦で越すそうだ。

 初の月、一緒に迎えないのかな。


 館の事は、領地と商会の管理で補佐官を任されているリシャール様が取り仕切っているが、私が追い出される事は無さそうだ。



 スヴァリアさんは、砦と館を往復し、領主様への書簡のやり取りや、リシャール様への仕事の伝令を伝えたり、結果の報告等をして二人の補佐を勤めあげている。





「スヴァリアさん、これ、持っていって下さい。

 焼き菓子です。砦の皆様でどうぞ。」




「ありがとうございます。一緒に行きますか?」



 今は、前のように砦に差し入れを持っていくことも無くなった。




「・・・腹に大量の焼き菓子が詰まっておりますので遠慮します。」







「そうですか。残念です。」





「いってらっしゃいませ。」





 私と領主様が避けあっているのには気付いているはずなのに何も言わない。


 ・・・砦には、まだ行けそうに無いよ。






 ***




 食堂で食事をしていると、スヴァリアさんが入ってきた。


 今夜は館に泊まるらしい。




 普段、この時間は、いつも私だけで食事をしている。


 アンナさんは割りと早い時間に済ませてしまうし、カロン女史は旦那様と頂くので遅い。




「今日は館に?」


「ええ。荘園の柵の修正が終わったそうなので、その結果を視察に行くのでこちらから。」







 ふと、二人だけしか居ないことと、ナイフを握る手の大きさを意識してしまって呼吸がうまく出来ず、『ヤバい!』と思った時には体が震えて止まらなくなる。


 カチャカチャと、ナイフと食器が不快な音を出し耳をなじる。


 異変に気付いたスヴァリアさんが、私を立たせようとしたのだろう、腕を取られた




 その瞬間、喉の奥で悲鳴をあげて―――






 頭突きを喰らわしてしまった。





 顎にクリーンヒット…。





 悶えて踞るスヴァリアさん。






 ・・・(急所)、だもんね。






「ご、ごめんなさい。」



 それでも、駆け寄って怪我の具合も見ることも出来ずに一歩下がった場所で動けない。




「・・いえ、大丈夫です。不用意に近付いた、私が悪い。」





 面目無い…。

 あんなに良くしてくれるスヴァリアさんが、怖いわけ無いと理解しているはずなのに。


 これでは、スヴァリアさんもあんな残念王子の様な事を仕出かす輩だと言っているようだ。






 減ったとはいえ、冬になってもこの調子で、時たま発作的に恐怖して固まる。





「・・・リーナは、私がお嫌いですか?」



「そんな事無いです!」



 むしろ、大好きです!尊敬してます!

 気配りの塊、品行方正で公明正大、憧れであります!!





「随分と高評価を頂いているのですね。ありがとうございます。」




 それでも、体が勝手に竦み上がるのだ。




「では、・・・アデルハイド様はどうですか?お嫌いですか?」


「いいえ。」



 あのプロポーズの件があるので、迂闊な事は言えないが・・・

 嫌い、ではない。むしろ好きだ。


 ただ、スヴァリアさん同様、男女の好きでは無い。

 と、思う。


 そりゃ、手を握られたりしてドキドキはしたが、それはあれだ、イケメン効果だ!



「・・・顎、大丈夫ですか?」



 脳震盪起こすんだよね。顎って。



「リーナが普通にしていたので、勝手にもう大丈夫だと思って、私が不用意に腕を掴んでしまったからです。

 リーナは気に病む必要性はありません。」



 私も、普通になったと、思っていたのに。

 なんだか悔しくて、唇を噛む。




「・・・ただ、このままではいけないですね。」




 そう言うと、立ち上がり、ゆっくり、私の横まで来たかと思うと




 ――――抱きしめた。




 そう、抱きしめたのである!




「ヒイィィィ!!」


 小さく悲鳴を上げて、腰が抜けた。

 足元から這い上がる不快な感覚に、呼吸が乱れる。



 けど、スヴァリアさんは意に介さず、シレッと言う。



「私は、何もしていません。取り押さえているだけです。」



 いや、取り押さえているじゃん!



「呼吸を意識して、ゆっくり、呼吸をする事だけを考えて下さい。」



 怖い!


 呼吸、呼吸をしよう!




「私は、品行方正、公明正大な貴女の尊敬するスヴァリアです。今、リーナを取り押さえているだけで、あの様な事は決して起こりません。」





 そうだ、あのスヴァリアさんと残念王子が一緒とかあり得ん事!

 呼吸!呼吸!!ヒッヒッフーだ!!




「そうです。大丈夫。リーナが素っ裸でも手を出さない自信がございますので、安心して呼吸して下さい。」





 そうだね!好きな人、女神(リュシー)様だもんね!






「先程は不用意に近付いたので攻撃を受けましたが、今は意識してやってるので、リーナ如きに遅れは取りませんので、怪我の心配は不要です。」




 締め上げて拘束されている訳じゃないのに、ビクともしません!さすが騎士様ですな!




「・・あの様な事は、王子だから仕出かしたことです。」




 そうだ、あの事件は、残念王子が仕出かしたこと。

 スヴァリアさんが、する訳がない。

 頭では分かっているのだ!



「する訳がない、と言う予測ではなく。起こり得ない事実です。」




 キッパリと言い切る。




「大丈夫です。ほら、大分たちますが、呼吸も続いています。震えても居ません。」




 息も絶え絶えだが、確かに息の根は止まってないね!




「・・ふ、震え「震えて居ません。」」




 ・・被せてきた。

 そ、そうか、震えてるに入らないのか?

 スヴァリアさんが、そう言うなら、そうなのだろう。






「そうです。大丈夫です。」




 食堂の床で、スヴァリアさんに抱きしめ(取り押さえ)られてどの位経ったのか。



「男に警戒を持つのは必要ですが、『男』で一括りにする必要はないです。」



 ゆっくりと、頭を撫でられた。

 スヴァリアさんに頭を撫でられるのは久しぶりだ。




 物凄い荒療治だが、確かに、私は今、普通に呼吸をしている。震えても居ない。




「お、スヴァリア(お母様)様~」




「・・誰にお母様だ。」




 痛い痛い!!痛いです!お母様!アイアンクロー止めて!!





 荒療治だが、大丈夫なんだと体に叩き込む辺りがやっぱり体育会系だよ。







評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ