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感じるな!考えろ!

 あの後、気付けば、タウンハウスの自室のベットで寝ていた。



 あちこち体が悲鳴をあげて、思うように動かせず、皆に心配をかけてしまった。



 せっかく守ってくれていたのに、自分の油断で隙を見せてしまった申し訳無さと情けなさで一杯になり、皆に謝ったが、逆に気を使われる始末。





 それからは、アンナさんに世話を焼かれ、寝台から出してもらえなかった。






 残念王子の一件で、私にも取り調べが行われ、こういった被害者にある、二次災害的な取り調べを心配したが、日頃が残念な王子の所業と言うこともあり、女性の騎士様が取り調べにあたっては配慮してくれた。




 私の方から誘っただの、脅してきただの喚き散らしているそうだが、シュバルツ様や、領主様が普段の怨恨の被害を証言し、スヴァリアさんが、残念王子が脅して部屋を用意させたと証言してくれる者を探してきてくれたりと、私の無実を一つ一つ証明していってくれた。





 ただ、社交界での噂話には尾ヒレが付いて、背ヒレに胸ビレ迄も付きまくって流れた様だ。








『ローラン卿は、女性戦闘卿をお育てになっているそうよ』








 ――――ちょっとマテ、育てているのは、教師です。戦闘卿ではありません。







『相手は重体で、二目と見れないお姿に変えたとか』







 ――――いや、拘留されて姿が見えないだけだよね!








「・・・どうしてこーなった。」






 あと数日で会議も終わりで、領地に帰るだけだったはずなのに。





 会議と、事件の後処理をしていたのか、日中はずっと出掛けていらして、あの事件以来、見舞いの花は届くが、領主様にはお会いしていない。




 頬の青アザも引いてきて、肩の脱臼も痛みが消えたが、それでも私は寝台から出してもらえないまま、十日が過ぎた。





 ***





 深夜、ふと、ベットの脇に気配を感じて目が覚めると、いつかの夜の様に、領主様が私の手を握りしめて額に宛がい、座っていた。










「・・・領主様?」




 声をかけると、弾かれたように顔をあげ、手を離す領主様。




「・・・すまない。」





 顔を歪め、目を反らして謝る。





「お水を頂けますか?」





 今にも逃げ出しそうな領主様に、先回りをして声をかける。



 水差しから水を入れて頂き、差し出されたコップを受け取って喉を潤してから、更に声をかけた。




「私は、大丈夫です。」




「・・・すまない。」




 謝ってほしい訳じゃない。


 そんな顔をしてほしい訳じゃない。


 残念王子が私に危害を加えようとしていたのは知っていたのに隙を作ってしまって、大事になってしまったのは私のせいだ。




「私は無事です。大丈夫です。それとも、大丈夫では無いのですか?私は無傷ではなく、傷物ですか?」





「―――!違う!」





 なら、そんな顔をしないで下さい。




 まるで自分の事のように心を痛めている領主様に、どう伝えれば分かってくれるのだろう。






 項垂れている領主様にゆるゆると手を伸ばし、領主様の綺麗な金糸の髪を撫でると、大きな肩がビクリと跳ねた。




「今回、私の油断が招いた失態です。けど、私は無事です。この国の令嬢方と、尊厳の守り方が違うのです。私の尊厳は、汚されていません。どうぞ信じてください。」




 怖くなかったと言えば嘘になる。

 強い力で押さえられ、思い出しても恐怖して震える。

 だが、あんな残念王子に汚されたなど、そんな事認めてなるものか!


 私は、勝ったのだ。

 無事だ。

 大丈夫だ。




 傷みに負けるな!恐怖を感じるな!結果を考えろ!

 力にねじ伏せられること無く、勝ったのだ!







「リーナは、強い。強くて美しい。」




 そっと、手を握りしめられ、カッと熱が上った。





 ~~~~~は、恥ずかしい!!





「リーナを信じる。リーナの尊厳が二度と狙われる事が無いように守ると誓う。・・・貴女を守りたい。」







 そう言い、領主様が、跪き、更に私に言い募る。









「どうか、私と朝を迎える事を許して欲しい。」









 くっ――――――!!


 弱ったところに甘言(プロポーズ)とは卑怯な!


 いや、ダメよ里奈!

 流されるな!

 感じるな!考えろ!

 自立するんじゃ無かったのか里奈!?






 剣ダコだろう、ゴツゴツした大きい、領主様の手。




 ――――――男の人の手。





 意識した途端に、知らず、思い出してしまったあの夜会での、取り押さえる男の手。



 途端、小刻みに手が震えてしまった。



 震えに気付いて領主様が目を見開き、立ち上がると一歩、私から距離を取り早口で言い募った。



「すまない。リーディング女史を呼んでくる。」




 違う。

 私は大丈夫。




 そう言って引き留めることも出来ず、浅い呼吸を繰り返す。








 扉が閉まり一人になると、思いとは裏腹に安堵する自分に泣きそうな気分になり、頭からシーツを被り蹲った。








 社交シーズンはまだ続くが、会議も終わった事で、私の怪我の具合も見て三日後には領地に帰る事になった。


 裁判等の証言で、残らなくて良いのかな?

 良いと言うなら帰りたい。






 ―――――帰るって・・・どこに?






 アンナさんと過ごした森の家から、領主館に連れてこられてから今日まで、色々ありすぎて正直、疲れきって弱りきっていた。



 日本には帰れない。

 じゃあ、今帰りたい場所は?








 あの、静かな森の中の、小さな小屋に駆け込みたい気分になった。







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